2.ダンジョンキー
「よお、ダンジョンシーカーさん」
「「ギャハハハ」」
教室戻ってきて早々、ゲオルクに冷やかされる。
はあ。
まぁこれは馬鹿にもされるわ。
ダンジョンって言ったらどう考えても7迷宮のことだよなあ。
他にダンジョンなんてないし。
7迷宮っていうのは、この世界に点在する7個のダンジョンの総称。
それぞれの最深部には、神器っていうステータスを上げる武器とか装飾品が隠されてる。
ただ攻略難易度はめちゃくちゃ高くて、ベテランの最上位職でも、一番簡単な第一迷宮すらクリアできない人が大勢。
今のところ最高記録が第五迷宮までらしい。
最弱ステータスの俺の職業が、そんなエリート中のエリートが挑戦するダンジョンの探索者とか…。
自殺志願者かよ。
「とりあえず卒業と成人おめでとう。君たちは……」
考え事してたら、いつの間にか戻ってきてた先生の話が始まってた。
そのまま五分くらい、大して意味のない話が続く。
「最後に、多分ここにいるほとんどの人が冒険者志望だと思うから言うけど、もう来月には冒険者登録試験があります。これ逃すと半年後までないからね。今日分かった自分のスキルとかしっかり試しておいて下さい。以上、解散」
まあ正直俺とクルトには関係ないね。
登録試験はそんなに難しくないって言われてるけど、あくまで戦闘職での話。
普通戦闘職でも平均ステータスは200越えだから、俺たちとの差は20倍以上。
そいつらの一ヶ月分が俺たちにとっては20ヶ月分。
二年間ガチで修行すれば一応冒険者にはなれるかもしれないけど、だったら普通に自分の職業にあったことした方が全然稼げる。
ただ問題は俺の職業が何にも使えないこと。
さっき言ったように、ダンジョン探索なんてできるわけない。
「クルトはこれからどうする?」
「んー、とりあえず島出て料理修行しようかと思ってるよ」
「だよなあ…」
鑑定で分かったクルトの職業は料理人だった。
料理人みたいな、やる事はっきりしてて生産系とか商業系の職業だったら、非戦闘職でも結構対等に扱ってもらいやすい。
逆に俺みたいなよく分からない職業の奴はどこ行っても除け者扱い。
はあ、マジでこれからどうしよ。
とりあえず家でゆっくり考えるか。
◇ ◇ ◇ ◇
帰ってきて自分のベットに寝転がりながら、さっき分かった「鑑定」のスキルで自分のステータスを見る。
『ステータス』
《名前》 テオ=シェーファー
《レベル》1
《職業》 ダンジョン探索者
《HP》 10/10
《MP》 10/10
《物攻》 10
《物防》 10
《魔攻》 10
《魔防》 10
《経験値》 0/50
《スキル》ダンジョンキー
疲労無効
鑑定
アイテムボックス
上の方は別にもうどうでもいい。
気になるのはやっぱりスキル。
てことで、スキルの鑑定をする。
『疲労無効』 疲労が蓄積されない。
『鑑定』 物質のステータスを見ることができる
『アイテムボックス』 異次元に無生物を収納する
まあ鑑定とかアイテムボックスは有名なスキルだし、疲労無効も名前のまんま。
本命は、一番謎で俺の職業に関係してそうなスキル「ダンジョンキー」
全く聞いたことないし、内容も予想しにくい。
…よし。
「鑑定」
『ダンジョンキー』 固有スキル。規定の条件を満たすことで島ごとに存在する「隠しダンジョン」の鍵を入手できる。
…ん?
隠しダンジョン??
いまいち内容が理解できない。
…まぁ使ってみるか。
「ダンジョンキー」
スキル名を声に出す。
すると、
『入手条件(サブル島)』
《スライム討伐》 0/150
って画面が出てきた。
サブル島ってのは今俺がいる島の名前。
…てことは、この島にも隠しダンジョンがあるってことか?
スライム150体倒せば入れると…。
「やってみるか…」
本当にダンジョンがある確証はないけど、俺には他に出来ることがない。
これに賭けるしかないのだ。
短剣と食料をアイテムボックスに詰めて早速家を出る。
◇ ◇ ◇ ◇
途中で薬草を大量に買ってから、村を出て魔物が出る区域にやって来た。
まぁ魔物って言っても、この島にいるのはスライムだけなんだけどね。
それでも子供のうちは戦闘が禁止されてたから、これが初戦闘。
しかもスライムも非戦闘職からしたらなかなかの強敵だから気は抜いてられない。
周囲に気を配りながら歩いていると、右前方に何か動いてる物を発見。
多分スライムだろうけど、遠くてよく見えないから鑑定を使う。
『ステータス』
《種族》 スライム
《HP》 10/10
《MP》 10/10
《物攻》 10
《物防》 10
《魔攻》 10
《魔防》 10
《スキル》弱酸
やっぱりスライムだった。
…あれ、ステータス俺と変わんなくない?
思った以上に強い。
ていうかスキルが攻撃系な分、俺より強いんじゃ…。
…まぁやるしかないか。
覚悟を決めてスライムに近づく。
すると、向こうも気づいたようで、にらみ合った形になる。
先に動いたのはスライムの方だった。
丸い体に一つだけ空いた、多分口であろう楕円形の穴から、透明の液体が飛び出してきた。
咄嗟にかわすと、その液体が落ちた地面がジュワジュワ言い出す。
酸か。
相手は遠距離攻撃あるんじゃ、距離を取ってても、ただこっちが不利になるだけだな。
意を決して間合いに踏み込み、持ってきた短剣を下のスライム目掛けて振る。
ぬちゃっ。
おお、当たった。
感触は切った感じじゃないけど、ダメージは与えられてるはず。
《HP》 8/10
よし、しっかり効いてる。
もう一回だ。
さっきと同じように短剣を振る。
スカッ。
今度はかわされた。
そのまま方向転換して突進してくる。
ドンッ。
痛っ。
俺のHPが2減る。
ステータス一緒だから、受けるダメージも同じだった。
攻撃多く当てた方の勝ちってことか。
体勢を立て直して、スライムにまた向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇
《スライムの討伐を確認しました》
討伐を告げる電子音が頭の中に流れてくる。
はあ、はあ。
何とか一体目を倒した。
本当にギリギリ。
俺のHPも2しか残ってない。
薬草を使って回復する。
…ふう。
で、さっきの電子音は何だ?
魔物倒した時に電子音が聞こえてくるなんて聞いたことない。
そうなるとやっぱりダンジョンキー関係だよな。
確かめるためにスキルを発動する。
『入手条件(サブル島)』
《スライム討伐》 1/150
お、ちゃんと1になってる。
これは、本当に隠しダンジョンがあることも考えられるな。
そう思うと俄然やる気が出てきた。
よし、こっからどんどん倒していきますか。
条件達成目指して、またスライムの捜索を始めるのだった。