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47「商売女」

「いや、急いでいるので私は結構」


「つれないのね。ホラ、そこのお友だちじゃできないオトナの遊びを教えてあげようと思ったのにィ」


 揶揄う振りを装っているが女がカインの服装やアクセサリを抜け目なく値踏みしているのがわかった。


(どうせこういう輩は背伸びしようとする坊ちゃんを上手いこと騙してケツの毛まで抜いてやろうって寸法だろ。こっちはそんなことしてる場合じゃないんだよ)


 ボーっとカインがそんなことを考えていると、すかさずリースとライエの姉妹がかばうように前に出て女を睨みつける。


「わたしたちは暇ではありませんので。それと、そのお得意の使い古した穴はこのあたりを歩いている貧民にお使いいただいたほうがよろしいのではなくて?」


「……このガキッ!」


 リースのあまりのいいように血が上った女は引っ掻こうと掴みかかって来る。


 だが、リースはスカートの裾を摘んだまま華麗に反転すると長い脚をコンパスのように回転させて女を足首を払った。


「ンきゃあっ」


 高いヒールのパンプスを履いていたせいであっさりバランスを崩した女はすってころりんと路上に転び、あられもない場所を御開帳してしまう。


「おうっ、眼福眼福!」


「姉ちゃん、どこの店だよ。オイラが遊びに行ったるぜ!」


「ンなガキよりオレのものはどうでぇ。きっと満足させちゃうよ!」


 ピーピーと指笛を鳴らして通りの酔漢たちが騒ぎまくる。


「あら? お客さまが見つかってよかったではありませんか。いえいえ、お礼などはいりませんよ。わたし、自分でいうのもアレですが謙虚な性格でして」


 目を細めながらリースが見下すように口元に手をやってせせら笑うと、女は怒りと恥ずかしさでそれこそカインが今まで聞いたことのないような罵倒語を張り上げ出した。


「だから騒ぎ起こすなって――」


 泡を食ってカインがあたふたしていると女の後頭部にガチャンと酒瓶が叩きつけられる。


「あるじさま、姉さま。早くこちらへ!」

「ライエ?」


 商売女を一撃で昏倒させたのはライエである。カインは急いで盛り場をあとにすると、小さな川が流れる堤のそばでようやく足を止めた。


(クソ、意味なく走らせやがって……って、ここはどこだ?)


 次第に暗闇に目が慣れて来たのかあたりが見えるようになってゆく。カインが肩で呼吸をしていると、騒ぎの張本人であるリースは額の汗をハンカチで拭いながら涼しい顔をしていた。


「あのなぁ。騒ぎを起こすなっていっただろ?」


「あ、あはは。カインさま、怒っちゃいやですよう。あれは、その、わたしなりの忠儀の表れというか、そのぉ……いいじゃないですかぁ」


「くっつくな! そんなことじゃ誤魔化されないぞ!」

「許してくださいよぅ」


「くっ、図々しいな。それが地か」

「ああ酷い。リースにはカインさましか見えませんわ」


 リースは甘えるような声で「ごめんなさい」を連発するとわざとらしくしなだれかかって来るが、彼女も余裕がなくやり方が雑なのでカインは冷静な自分を保つことができた。


「あるじさま、姉さま。ひとまず身を隠す家まで移動しましょう。闇が深いとはいえ、これこのあたりを無暗にうろつけば付近の住民に不審に思われます」


 パタパタと駆けてきたライエが移動を促して来る。


「……ライエは勤勉だな」


「もおー、あまりイジメないでくださいな。わたしは打たれ弱いんですよ、こう見えて」


「そうか」

「流さないでくださいよ」

「ああ、もう甘ったれるな」


 くっつこうとするリースを肘で押し返していると、彼女の顔色が変わった。


(な、なんだ? 怒ったのか?)


「カインさま、来ます」


 緊張感のあふれたリースの声でカインはようやく自分の身に危機が迫っていることを感じ取った。



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