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101「我に策あり」

「で、姉上。あそこまで断言したからにはなにかお考えが固まっているのですか」

「え?」


 夕食のあと、楽しげに焚火の灰を枝先で突いているメリアンデールに向かってカインが重たげに口を開いた。


「え、ええと。ごめん、なんの話だっけ? 明日のカードはカインくんにハンデをつけてもらうお話かな?」


「ぜんぜん違いますよ。ゴブリン退治です。夕方のこともうお忘れですか? 明日動くのならば、今夜中に方策を立ててプランを周知しておかないと」


 マグを手にしたジェフとゼンがパチパチと静かに燃えている炎の向こうでジッとメリアンデールがなにをいうか聞き漏らさないように息を詰めていた。


「う、うー。こほん。あのね、カインくん。お姉ちゃんは冒険者としてこの村から依頼されたゴブリン退治を引き受けました。幸か不幸か、ああ、これはたぶん不幸ね、とにかくわたしのパーティーはしおのしのぱぁになっちゃったけど、お金を受け取っている以上、依頼は最後までやり遂げたいの。お金を受け取るということはそこに義務が生まれるの。お金は大事よ、ね?」


(確かにメリアンデールのいうとおりお金は大事だな)


「姉上のいうことはわかります。貴族として、いえ、その前に人間として一度仕事を引き受けたのならば途中で投げ出さずまことを尽くすのが人の道であると私も考えます」


「そう! でも、当初は四人がかりでゴブリンの営巣に挑んだのだけれど……正直なところいうね。あのときはなんとか逃げ出すのが精一杯だったの。カインくん、あなたにゴブリンの巣まで潜ってなんていわないけど、せめて攻略のサポートくらいは頼めないかしら。その、ちょっとした資金とか、道具とか。ほら、お姉ちゃん、お金もなにもかもなくしちゃったし。うう、お願いします」


「姉上、水臭いこといわないでください。もし姉上がいい出さなくとも、私は領主として村の危難を黙って見過ごすつもりはありませんでした。いや、それよりも私は村の人々に詫びなくてはならない。本来ならば、モンスターがこれほどの危害を領民に加えているのであれば、とっくに討伐体を差し向けなくてはいけなかったはずなのに、私はその責務を怠っていた。ゴブリン退治には全力を尽くさせていただく所存です」

「じーん」


 メリアンデールは目の縁を真っ赤にさせて、唇をわななかせていた。


「うう、うれしいよお。お姉ちゃん、あのカインくんがこんな立派な領主に育っているなんて。これで天国のお父さまもきっと安心して暮らせるよ……」

「いや、王都の父上まだご存命です」






 カインはメリアンデールから冒険者としての情報を最大限に引き出すと、その夜、ジェフを連れて作戦行動に取りかかった。


 ゴブリン討伐の前準備は夜が明ける直前に終わり、世界が水色に染まるころカインは泥だらけにの恰好で宿に戻り、湯をようやく浴びるとそのまま倒れるように眠った。


 メリアンデールとゼンが心配する暇もなくカインは昼前に飛び起きた。


「ゼン、今なんどきだ」

「へえ、そろそろ昼になるかな、と」

「ようし、腹ごしらえしたらぼつぼつ出かけるとしよう」


 食事が終わるとカインはそのあたりにちょいと散歩に行く、とでもいうような平服でゆったりと歩き出した。


「ね、ねえカインくん。どこに行くの? とりあえずゴブリンたちと戦うための準備に街にでも出かけるの?」


「姉上。準備は昨夜のうちにすませました。あとは終わらせるだけです」

「ほえ」


 カインのあとをメリアンデールとジェフがゆっくりとついてくる。しばらくのどかな狭い農道を歩いてゆくと、村の境を超えて平野部に出た。


 草の丈が次第に長くなってゆく。屋敷からきたときに歩いた道だけがわずかに人通りがあるのか雑草が繁茂することを抑えていた。


 ほどなくして遠くに濃い緑の樹木が連なる森が見えた。隣に移動していたメリアンデールの表情が強張っている。カインよりもメリアンデールのほうが頭ひとつ分大きい。

 だが、度胸はカインのほうがはるかに上だった。中身がいいオッサンだという理由もあったが。


「安心してください姉上。私に策がありますから」

「うん。信じてるよ」


 メリアンデールは姉の威厳を守りたかったのか、ピースサインを繰り出しながら笑ってみせるが頬が引き攣っていた。



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