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別世界の自分より

「お邪魔しまーす。っと、どうかな、メイドちゃん」


「三山様、こんにちは。圭人様ですが、今日の朝にお目覚めになりました。まだ会話などは難しいようですが……」


「目覚めた、か。よかった」


 そういう会話が聞こえたかと思うと、俺の視界にそのチャラチャラとした髪型の男がすぐさま入ってきた。なぜだか、妙にふらふらと歩いて。

 三山啓介。先ほどの会話を聞く限り、彼はメイドとの面識がある。ということは、この世界軸にわざわざシャフトシフトしてきたのは無駄ではなかったのだろう。


「やぁ圭人、久しぶり。えっと意識ははっきりしてるのかな。もし声が聞こえてるなら十回ほど連続で瞬きしてくれないか?」


 登場するな否や面倒くさいことを言い出すそいつに、俺は三回しっかりと瞬きを見せ、その後の七回の代わりに思いっきり睨みつけた。


「いいね、意識はしっかりしてるみたいだ。それじゃあ、ちょっと二人で話したいんだけど……」


「承知しました。すぐ外に出ていますので」


「ごめんね、ありがとう」


 何かを申し合わせていたかのように、圭人がそう言うとメイドは席を外した。

 さて、なんて言いながら三山は椅子を持ってくると俺のベッドのすぐ横に座る。――その時、俺はそいつの異変に気付いた。


「調子はどうだい? まったく、女の子とデート中に怪我なんて、情けないったらありゃしない」


 うるせ。


「まぁまぁ、そう睨まないでくれよ。今日はお見舞いに来てあげたんだから。……あぁ、その前にそれはなんだ、って顔だね」


 少しだけ困ったような、そんな顔でそいつはそう言った。

 そりゃあそうだ。俺も、自分の怪我なんてどうでもよくなるくらい、俺はそれが気になっていた。


 ――なんで、三山は眼帯なんてつけている。


 現実ではあまり見ない、真っ白な眼帯。厨二病の代名詞と言っても過言ではないそれを、なぜかこの男は今着けていた。……いや、過言か。


「……まぁ、気になるだろうけど、先に別の話をさせてくれよ。――きっと、君が一番聞きたがってる話から、ね」


 妙に真剣な表情。妙にまっすぐこちらを見据えてくる目。それらが、俺の中の警鐘を強く鳴らしていた。


「……圭人。ちょっと僕は君に隠してたことがあるんだ。……もしかしたら最初から言うべきだったのかもしれないけど、ごめん」


 そいつにしては珍しく、どこか迷っているような様子だった。


「もしかしたら君ももう気づいてるかもしれないけれど、圭人は物凄いことに巻き込まれてる。と、言っても、僕はほとんど部外者だから肝心なところはほとんど知らないんだけど」


 前で組んだ自分の手を見つめ、三山はそう語りだした。メイドが部屋の扉を閉めたのだろうか。先ほどから聞こえていた病院内の喧騒が今は全く聞こえず、薄暗くなったこの部屋はどこか異世界のような異様な雰囲気をまとっていた。


「これは僕の憶測なんだけど、圭人がこんな風に怪我することになったのもそれが原因じゃないか、って思うんだ。だから僕は、少しでも状況がよくなることを願って君に僕が知るすべての情報を伝えるよ」


 彼の言う物凄い事、というのがただ純粋に俺がシャフトシフトという能力を手に入れた、ということではないことぐらいは俺にも理解できた。だが、どうしてそれに三山が関わっているのか、なぜこいつはここまでに神妙な顔をしているのかが、俺にはわからなかった。


「まず、僕がこの前話した平行世界について、覚えてる? なんだかんだ言って圭人はちゃんと話を聞いてくれてるから多分覚えてる、と仮定して話を進めるよ。あの話をした日の二週間前、昼休みに僕は屋上へ呼び出された。そこで、その平行世界のことについてそこにいたやつから聞いたんだ。そして、そいつから僕は一つのことを頼まれた」


 そこで三山は少し息を置くと、扉のほうを気にするように一瞥した。


「その頼み事っていうのは、二つ。圭人、君へ平行世界の存在を示唆することと、――二週間後に君の家へ届くことになっていた一人の女の子を、君の家に留まらせることだ。まぁ、それを受けた理由は純粋な好奇心だね。君も僕が好奇心旺盛だってことは知ってるだろ?」


 そう言われた瞬間、俺はその日のことを鮮明に思いだした。

 いつもに増して熱心に語っていた放課後。突然俺の家を訪ねてきて、無理やりに家へ踏み込んだその三山の様子。それらは、三山が誰かに頼まれてしたことだった――?


 まず浮かぶのは、誰が、という疑問。次いで頭に現れたのは、どうして、という不安だった。


「正直、僕もまだ信じられないんだ。こんなことが現実にあるなんて、今まで考えたこともなかった。SFはあくまでファンタジーで、現実とははっきりかけ離れた存在だと思ってたんだ」


 その語調と、彼の様子には明らかに動揺が出ていた。

 だがそれでも、彼は語るのをやめない。すっ、と気持ちを入れるように彼は息を吸うと、その言葉を、俺に語った。


「その二つを俺に頼んだ人間……それは、圭人。誰でもない君だよ」


 ――は?


 声には出なかったが、俺は内心にはっきりとそう聞き返していた。きっと今の俺は、ひどく目を見開いているに違いない。


「もちろん今の……いや、この世界軸の君じゃない。別世界軸の圭人が、僕にそう頼んだんだ。僕も自分が壊れてるのか、って思う。けど、あくまで僕は真面目だ。ふざけてるつもりはない。その君は言ってたよ。次の自分なら、あいつを多分幸せにできるから、って。そういう決断に至った経緯はわからないけど、僕がその時聞いた情報を集めて考察すると――」


「――別世界軸の君が、あの少女をこの世界軸の君に託した、ということになるね」

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