009
夕方になってにゃんごの所へ戻って来た。
日中の間に伐採できたケヤキは百十五本。
明るいうちに、拾った苗木も近くに植えておこう。
アイテム整理やもぐもぐタイムのあと、まずはポーション作成に取り掛かる。
ここでまた『調薬キット』なるものを買わされることに。
なんだかんだと残金457G。なかなか増えないな……。
『調薬』スキルをタップすると、今作成できるポーションの種類が表示される。
手作りライフポーション。これだけだ。
それを選択すると、料理サイトにあるようなレシピと作り方がディスプレイとして表示された。
材料は空き瓶、水、元気草一枚か。
空き瓶を買わなきゃならないらしい。まぁ人に売る訳でもないし、十本あればいいだろう。
「にゃんご、空き瓶十本」
「50Gニャ。毎度あり〜」
「他のお客はまだ現れないのか?」
「悲しくなるから聞かニャいで欲しいニャ」
「わかった」
ポーションの作り方はっと……。
「ワオール、ここから150メートルの範囲内で戦っててもいいぞ。あ、でも暗いけど――」
『ワオォーンッ』
嬉しそうに走って行ってしまった。
「ワイルドウルフキングは夜目があるニャ。大丈夫ニャよ」
「そうか。俺もあるんだけどな」
時々モンスターの悲鳴とワオールの遠吠えが聞こえてくる。
まぁ大丈夫そうだ。
ディスプレイを見ながら作り方の確認。
・元気草をザルに入れ、井戸水などで洗い流す。
・元気草を鍋で水を一緒に、焦がさないようかき混ぜながら煮詰める。
・出来上がった液体をおたまですくって空き瓶へ。
これだけだ。
煮詰める草の枚数や水の分量は、作りたいポーション分入れなきゃいけないようだ。
そして水は空き瓶一本=おたまいっぱい。
「さて問題です」
「ニャ?」
「鍋をどこでどうやって火にかけるか」
「待ってましたニャ! 竈キットがあるニャよっ」
「所持金407G」
「……無理ニャ。竈キットは少しお高くて1000Gニャ」
少しどころじゃなかった。
でも竈キットっていうぐらいだ。きっと煉瓦で作っているのだろう。
だったら粘土を錬成して、焚火の周りを囲めば出来るんじゃないだろうか。
ついでに粘土が焚火の火で熱せられて、煉瓦になったりとか?
物は試しだ。やってみよう。
20センチ×10センチ×40センチの粘土ブロックを作成。
竈の蓋部分になる粘土ブロックとして40センチ×40センチ×5センチの物を予備合わせて数枚。
コの字型ブロックを置いて、高さは60センチくらいあったほうがいいかな。最後に蓋用のを置いて完成だ。
下で薪木を燃やし、上には鍋を置く。
そして火を点けると、何故か粘土ブロックにゲージが浮かび上がった。
燃焼中:□□□□□□□□□□
鑑定すると、燃焼し終えると煉瓦になると書いてある。
「ふふ。ふははははははーっ!」
『ワオッ――オオオオオォォン』
ワオールが遠吠えの後、急いで走って戻って来た。
大丈夫? というような顔で俺を覗き込んでいる。
「あ、ごめんなワオール。心配して走って来たのか。いや、ついに煉瓦の製造方法がわかって嬉しかっただけなんだ」
『オォン。ワフ?』
「あぁ。もう少し遊んでてもいいぞ」
再び駆け出したワオールを他所に、燃焼経過を観察する。
うん。やっとゲージが一つ溜まった。
案外時間がかかりそうだから、その間に丸太を切り分けてよう。
外で焚火をはじめ、丸太切り作業をする。
途中で煉瓦の具合を確かめると、いくつか割れて失敗していたものがあった。
うぅーん。補充しなきゃな。
薪の代わりに『ケヤキの削りカス』を追加して、燃焼時間を延長っと。
丸太切り作業に戻り、再び煉瓦の様子を確認。
余分に粘土ブロックを用意した甲斐があった。二つ割れていたが、結果としては煉瓦のほうがひとつ余ったな。
これで――。
「うおおおおおぉぉぉぉぉっ、竈完成したどおおおぉぉぉぉぉ!」
『――ワアオオォォォォーン』
少し離れた所でワオールも雄叫びに付き合ってくれている。
「相変わらず五月蠅いニャーもう」
調薬キットから鍋――これひとり用土鍋だな――を持って、バケツにくんだ井戸水をおたまで注いでいく。
なんとか十本分の水は入ったが、逆に言えばこれが限界っぽい。
そこに元気草を十枚浮かべ、出来立ての竈へ。
菜箸が入っていたので、それでゆぅ〜っくりかき混ぜ〜る。
ねるねるかきまぜ〜る。
もっと混ぜ〜――あ、水の色が変わった。
元気草は緑色なのに、オレンジ色に変わったのはツッコむべきなのだろうか。
これで完成かな?
おたまですくって空き瓶に流し込み――アイテム鑑定。
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手作りライフポーション☆:ポーション
効果:HP回復量30
クールタイム:300秒
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おぅ。初級ライフポーションより効果が低い。
でもまぁ空き瓶代5Gで作れるんだし、文句は言えないか。
さぁて、じゃあ残りも空き瓶に注ぎますかね――。
「ううおおおぉぉぉぉ完成したあぁぁ――って、ぐつぐつ沸騰してる!?」
「そりゃあそうニャ。鍋を火に掛けっぱニャしなんニャから」
急いで空き瓶に注いだ結果――
手作りライフポーション☆が二つ出来たが四杯こぼし、最後の三杯は焦げていた。
そうして出来たのは『焦げて苦いポーション液』。
効果はHP回復1。飲んだ後、全ステータス-1。
あぁ……調薬キットに鍋掴みが入ってました。