006
地図をいろいろ弄ってみると、表示されている部分であれば距離を測ることができた。
自分からの距離ではあるけれど。
一度自分のアイコンをタップし、そのまま測りたい場所まで指を動かしていくだけという、簡単な方法だ。
にゃんごの所から見えていた木のある所までやってきたが、ここまで約2800メートル。だいたい三十分ぐらい歩いたかな?
「この辺りのモンスターは、自発的に襲って来なさそうだな」
『ワフゥ』
なんとなく項垂れているワオール。
空腹は……ゲージがひとつ消えているが、まだ平気だ。
じゃあなんで落ち込んでいるのだろう。
「木を切るのが嫌なのか?」
首を左右に振っている。
「モンスターに襲われたいのか?」
若干迷いつつ、首を縦に振った。
ワオールはマゾだった。
と思ったがちょっと違う?
まるでシャドウボクシングでもするように、拳を突き出し突き上げ、そして最後は蹴り!
「戦いたいのか!?」
『ワオオォーン!』
頷き、尻尾もぶんぶん振っている。
そうか。ワオールは戦いたいのか。
「わかった。俺はここで木を切るから、近寄ってきたモンスターは片っ端から仕留めて行っていいぞ」
『ワッフワッフ』
嬉しそうだ。
働き手は減るが、これはこれで俺の安全も確保されるしいいか。
それに夜の間の戦闘でわかったこともある。
俺が直接倒していない敵の分も、俺のスキルポイントとしてカウントされているということだ。
ワオールと俺とで、公平に分配されている――たぶんそういうシステムなんだろう。
ということはだ。
俺は物作りをしていながら、スキルポイントを稼げるってことだ。
やっぱり獣魔召喚は最高です!
ワオールは俺から少しだけ離れ、近くに居た無害なモンスターを一撃で瞬殺していく。
俺が斧を取り出し、一振りする間に周囲のモンスターは全滅していた。
「えぇっと、俺から50メートルぐらいなら離れても大丈夫だぞ。万が一俺が襲われたら助けを呼ぶから……声はどのくらいまで届くんだろうな?」
『ワフ』
ワオールは自分の耳を指差す。
そういえば『聴力:LV1』ってスキルがあったな。
「とりあえず50メートルぐらい離れてくれるか? 名前を呼ぶから、聞こえたら手を振ってくれ」
ワオールは頷いて駆け出す。そしてピタリと止まって振り返った。
地図を見ると、ちょうど50メートルだな。
「ワオールゥ」
『ワオーン』
両手を振っている。
「じゃあもう50メートル離れてくれ〜」
ワオール走る。そして振り返った。
「ワオールゥ」
『ワオォーン』
やっぱり両手を振っている。
もう50メートル……更に50メートル……。
そして俺は気づいた。
ワオールが俺の声を聴けても、俺がワオールの声を聴けないってことに。
「戻ってぇ、きてぇ、くれえぇ〜」
暫くするとワオールは嬉しそうに走って戻ってきた。
「うん。俺を中心に150メートルぐらいは、自由に狩りしてていいぞ」
『ワッフゥ』
大喜びで駆け出すワオールは、手あたり次第に獲物を瞬殺していく。
この辺一体のモンスターを根絶やしにするのも、そう遅くはなさそうだ。
さて、俺も働こう。
まずは『伐採』スキルを使ってみるか。
スマホのスキル一覧から『伐採』を選ぶと、
【自動アシストモードに移行します】
というメッセージが視界に浮かび、目の前にした木の幹にマーカーが現れた。
ここを叩けといわんばかりの位置だな。
そこ目掛け斧を振り上げると、なんと……体が勝手に動くじゃないか!
カツーン、カツーンと、斧を叩きつけるたびに、マーカーの上に表示されたゲージが減っていく。
ゲージがゼロになったら倒せるってことなんだろう。
で、二十回ほど叩いて木が――。
「ふぁっ。倒れる前に消えた!?」
もしかしてアイテムボックスか?
うん。あった。
アイテム名は「ケヤキ」か。実際の材木に使われる木を同じ名前なんだな。
アイテム鑑定してみると、長さ20メートルのケヤキの丸太――とあった。
壁にするにしても、20メートルの壁はいらないな。
何本かに切り分けて使えばいいだろう。
近くにあるケヤキの木は残り十本ぐらいだ。
さくっと倒してしまおう。
何本か切り倒していると、その都度スマホだしーの、スキルおしーのするのが面倒くさくなってきた。
マーカーが出るのはまったく同じような位置だ。
段々と体が覚えてきたので、試しにスキル無しで伐採してみることに。
カツーン――お、ケヤキのHPゲージは出るんだな。
カツーン、カツーンと――普通に倒せた。
なるほど。自動アシストってぐらいだ。最初の慣れない時にだけ使ってね☆ってことだろう。
ここの運営、デキルな。
全部の木を伐採し終わったが、切り株は残っている。
また生えてくるんだろうな。
ちょっと奥にも何本か見えるな。
ワオールを呼んで少し移動。そこでまたワオール自由行動、俺木こり作業を開始。
途中で食事休憩を挟み、粗方伐採し終える頃には空が夕方モードになっていた。
「うおおぉぉぉぉっ! 伐採終わったぞおおぉぉぉっ!!」
『ワオッ? オオオォォォォォンッ』
ワオールが走ってやってきた。
全力で走る時は四足なんだよな、ワオールって。
立ち止まるとまた二足歩行に戻り、俺の顔を覗き込む。
『オォーン?』
「ん? どうしたんだワオール」
『ワオオォォォォンッ』
「あぁ。お前も一仕事後の雄叫びをしたいのか。よし、一緒にやるぞ。うおおぉぉぉぉぉっ、伐採したぞおぉぉぉっ!」
ワオールは一瞬首を傾げた後、ぽんっと手を叩いてから俺に続いた。
『ワオオオオォォォォォーンッ』
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」
ひとしきり雄叫びを堪能した後――。
「ワオール。戻ろうか」
『ワオッ』
にゃんごの所まで戻った。到着早々さっそく夜に。
「お帰りニャ。薪木が必要かニャ?」
「買う」
丸太を手に入れたばかりだが、これを燃やす気にはなれない。
200G払って一晩分の薪木を購入。そして着火。
「ワオール、お腹空いたろ」
『ワオッワオッ』
途中でウサギ肉を食べたのだが、それでもワオールのゲージは残り4。
行動していると満腹ゲージが減りやすいんだろうな。
俺も残り5だが食べておこう。
塩と胡椒を振りかけ、味はまぁまぁよくなったけど……それ以外も食べたいな。
にゃんごが売っている食料は「リンゴ」「バナナ」「パン」のみっつで、どれも15Gだ。
満腹度の回復も全て15%。
兎肉優秀すぎ。
まぁ丸ごと一匹分だしな。大きいから当たり前か。
今度焼くときは小分けにして、パンに挟めるようにしてみるとか?
「となると、料理スキルが必要になるとか、そういうオチなんだろうなぁ」
「うニャ?」
「いやね、肉を小分けに切り分けてパンに挟めるようにしたら、少しは味に変化つけられるよなぁっと思って」
「あぁ。包丁は料理スキル持ってないと、たいてい怪我するニャよ。それに上手く切れないし、無駄ニャ」
やっぱりそういう罠があったか。
「ま、とにかく無事帰って来たニャから、アイテムボックスをちゃんと確認するニャよ。良い物あったら売って欲しいニャ」
「そっちは相変わらず、他のお客は来なかったようだな」
「ニャー。お客ニャんまだひとりニャねー。せめてしっかりとした壁が出来て、家が何軒か建てば他にも商人が流れてくるニャもしれないニャが」
「お? そうなの? でも商売敵が増えるんじゃ?」
にゃんごは首を振ると「あっしは雑貨屋ニャ。武具は最低限の物しか取り扱えないニャ」と言う。
にゃんごが売っている武器は、銅シリーズだけだ。
その上には青銅、鉄、銀と続くが、この辺りの武器を取り扱えるのは、専門の商人だけだという。
ふぅん。そういう縛りがあるのか。
けどそれを聞いて俄然俺は燃え上がる!
つまり俺が町を作るってことだろう?
町になれば他のプレイヤーもここに集まってくるだろうな。
ワクワクすんぞ。
「それで、何か良い物拾ったかニャ?」
「え、あ……ちょっと待ってな」
にゃんごに急かされアイテムボックスを確認する。
俺が拾ったのは丸太だけだろうが、ワオールがずっと自由行動だったしな。
いろいろ拾っているだろう。
解体スキルを使っていないので、単純にドロップオンリーになる。
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初心者用布の服
初心者用布のズボン
初心者用靴
土×104
シャドウラビットの毛皮×5
斧×1
ケヤキの丸太×64
ケヤキの苗木×15
チュチュの肉×10
チュチュの尻尾×24
人食いラビットの肉×11
兎の毛皮×9
兎の足×1
糸×17
頑丈な糸×2
小さなボアの毛皮×7
小さなボアの肉×13
小さなボアの牙×5
マンティスの鎌×26
スライムゼリー×38
粘着液×3
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いろいろあり過ぎる。
【運営の裏話】
「神秘のヴェールに包まれた、次世代VRMMO!」
そんなキャッチコピーで売り出された『FreeStyle Adventure』は、「神秘」を重要視して
クローズドベータはおろか、オープンベータすら行わなかった。
事前情報を極端に減らすことで、ユーザーの興味を引こうとしたのだ。
だが作戦は失敗した。大コケした。
サービス開始前の事前予約が、目標としていた数値の1割に留まり運営は焦った。
めちゃくちゃ焦った。
このままでは赤字だ・・・なんとかユーザーを確保しなければ!
そこで運営は、サービス開始一か月以内に登録すれば、ユニークスキルを贈呈――という手段に出た。
もちろん注意書きとして、キャラ作成時では通常手に入れられないスキルを手に入れることが出来ると小さく書いて。
「それユニークちゃう!」という猛烈なツッコミをされながらも、このバカバカしさのせいか登録ユーザーは伸び始め、サービス開始数日前には、目標としていた数値の5割まで回復したという。
更に各オンラインゲーム情報サイトに、小刻みな情報を公開するようになったのも手伝っているようだ。
その上、基本プレイ無料。課金はあれど比較的安価だったこともあり、ぼちぼちと人気に火が。
そして極めつけは、売買系NPCが軒並み獣人ということもあり、もふもふ好きユーザーの間では話題となりはじめ、特に女性ユーザーの登録者が急増。
そうなると自然と男性ユーザーも増えてくる訳で……。
サービス開始当日。
目標としていたユーザー数には届かない物の、なんとか7割までは回収に成功。
だが最初の登録チケット(500円)以降、基本プレイ無料のこのゲームでは、課金してくれるユーザーを
掴まなくてはならない。
その為にはもっと多くのユーザーを引き込む必要がある。
さぁどうする運営よ。
禿げるかふさるかはアイデア次第!
尚、作者はあまり考えていないもよう。