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 大学から帰宅してログイン。夕飯は七時ぐらいの予想――と母さんが言うので、アラームはその時間にセットしておく。

 ゲーム内の空は暗く、だが月は地平線に向かってあと少しの所にあった。


 薄暗い……が、クエスト内を歩く人の姿が多いような?

 それに、いつの間にか住民宅の裏手というか、ミャーニー宅の横にあった空き地に柵が作られていた。

 近づいてみると、それが畑だってのはすぐにわかる。

 キャベツ……出来てるじゃん。


 知ってる顔はいないかと探してみるが見つからない。


「ワオール。なんか人増えてるよな?」

『ワオォン』

「いつの間に増えたか、知ってるか?」

『ウオォォ?』


 ワオールは首を振って、わからないとアピール。

 ミャーニーの家に行ってみるか。


「ミャー、いらっしゃい」

「ミャーニー。人口増えてるか?」

「はいミャ」


 にこにこ顔のミャーニーは、昨日から数人の旅人――つまり俺のようなプレイヤー――が増えているのだと話す。

 男性五名、女性が四名増えたんだとか。


 も、もしかして、公式サイトの書き込み効果か!?

 き、聞いてみよう。


 ミャーニーに挨拶をし外へと出ると、さっそく知らない人発見!


「あのー、ちょっといいですか?」


 我ながら、どこの怪しい宗教勧誘だよ。

 そんな言葉に相手は一瞬引いた。が、その顔はすぐに緩む。俺の後ろを見て。


「うおぉ、その狼可愛いなぁ。テイミング?」

「あ、いや。これ、特典で貰ったスキルで召喚した奴なんだ。名前はワオール」

「特典っていうと、上位スキルかぁ。あ、ところで何?」


 見た目は高校生ぐらいの、少年とも言える容姿の彼。

 ワオールの存在でいっきに気さくな雰囲気へと早変わりした。

 そんな彼に、ここを選んだ理由を聞いてみる。


「あぁ、人の多い町だと狩場が混んでるって情報あってさ。混んでない所を希望したんだ。ここ、人少ないっていうか、全然いないねー」

「今日増えた人数でも、まだ二十人に届かないハズだからねぇ」

「少な! でも必要最低限は揃ってるみたいだし、狩場が混雑してるよかいいけどね」

「そうだよ! これからもクエストを、よろしくお願いします!!」

『ワオワオオーッ』

「お、おお」


 そっかぁ。たまたま偶然ここに来ただけなのかぁ。

 

 だが次に捕まえた二人組の男性プレイヤーたちは違った。


「掲示板見て、隠しダンジョンと森ダンジョンあるって書いてあったからさ」

「同じここの住人の書き込みには、周辺が草原だからレベリングしやすいってあったんだよ。森だと視界悪くて、突然横から襲われるなんてのもあるっていうしさ」

「そそ。難易度的には低めに設定されてるけど、近場にダンジョンがあって穴場だぞって」


 おおぉ! 誰か知らないけど、お勧め記事を投稿してくれたのか。

 有難い。

 更に筋力増強の為の大工スキルが活躍できる、発展途上なところも魅力的だったようだ。

 さっそく二人は壁の増築を手伝いたいと言ってきた。


 くぅー、嬉しいねぇ。

 俺のハンマーを貸してやり、作業手順を教えてあとは二人に任せることに。

 その間、俺は伐採した木を壁材用に加工するため工房へと向かう。

 そこでも見知らぬ人を発見した。


 女性……というか、女の子二人だ。

 リリーチェさんとどっちが年上だろうか。そんな微妙な年齢の子たちだ。

 もちろんこれはゲームのアバターなので、実際には外見と実年齢とは一致しないだろう。


 二人の女の子のうちひとりは、どうやら調薬をしているようだ。

 ひとり用の土鍋を火に掛け、そこに薬草を――。


「ちょーっと待ったあぁぁっ!」

「ひゃひっ!? な、なんですかっ」


 今まさに土鍋へ投入されようとする草を見て、俺は確信した。

 あれは――洗ってない!


 洗った草とそうでない草は、微妙に色が違うことを発見済みだ。

 洗った方がやっぱ綺麗な緑色なんだよな。

 彼女の草に鮮やかさがない。


「それ、洗ってないだろう?」


 尋ねると、彼女は首を傾げつつ頷いた。

 だってそんな作業工程、出てないもん――と。

 そうなんだよ。出てないんだよ。


「きっと隠し要素かなにかじゃないかなぁ。まぁザルって普通に売ってるし、気づく人は気づくだろうけど」

「え? 洗うと何か変わります?」

「変わる変わる。回復量が10増えたよ」

「嘘! え、やってみたいけど……ザルまで買うお金は今無いし……」

「あ、じゃあ俺の使う? 俺あっちで大工やってるから、その間使ってていいよ」


 そう言って彼女にザルを手渡す。


「ありがとうございます! さっそく洗ってみようっと」

「あのー、私、料理スキルなんだけど。何かアドバイスとかってありますか?」

「え……料理……俺も持ってるけど、一度も使ってないんだよね。あ、でも――」


 確か熊人族のウドマーが、鍛冶より料理のほうが得意だって言ってたな。

 彼なら夜中でも店にいるし、訪ねてみたらどうだろう――というアドバイスをした。


「NPCに?」

「うん。わりといろいろ教えてくれるよ」

「へぇ。意外。香澄、ちょっと行ってくるね」

「ココアちゃん、いってらー」

「いってらー」


 俺も一緒に手を振る。

 それから作業台で壁材を尖らせる作業に取り掛かった。

 終わればアラームが鳴るまで植林場で木の伐採。何十本が切り倒すと、今度は植林。

 ゲーム内の僅か一日で木は成長する。六時間後には立派な丸太になるだろう。


「本気で森作りとかやってみようかな……でも森を作ったところで、そこで生息してくれるモンスターはいるんだろうか?」

『ワフ?』

「その辺のモンスターと同じ奴が住み着いても、森の意味ないしなぁ」


 ここでふと俺は思った。

 万が一にもゴブリンが住み着いたりしたら……。


「ゲームを始めたばかりの人だって多い所に、アレはまずいか」


 結論。植林の数はあまり多くし過ぎないようにしよう。

 あと出来るだけ隙間を開け、光が届くようにすれば大丈夫かな。


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