053
大学から帰宅してログイン。夕飯は七時ぐらいの予想――と母さんが言うので、アラームはその時間にセットしておく。
ゲーム内の空は暗く、だが月は地平線に向かってあと少しの所にあった。
薄暗い……が、クエスト内を歩く人の姿が多いような?
それに、いつの間にか住民宅の裏手というか、ミャーニー宅の横にあった空き地に柵が作られていた。
近づいてみると、それが畑だってのはすぐにわかる。
キャベツ……出来てるじゃん。
知ってる顔はいないかと探してみるが見つからない。
「ワオール。なんか人増えてるよな?」
『ワオォン』
「いつの間に増えたか、知ってるか?」
『ウオォォ?』
ワオールは首を振って、わからないとアピール。
ミャーニーの家に行ってみるか。
「ミャー、いらっしゃい」
「ミャーニー。人口増えてるか?」
「はいミャ」
にこにこ顔のミャーニーは、昨日から数人の旅人――つまり俺のようなプレイヤー――が増えているのだと話す。
男性五名、女性が四名増えたんだとか。
も、もしかして、公式サイトの書き込み効果か!?
き、聞いてみよう。
ミャーニーに挨拶をし外へと出ると、さっそく知らない人発見!
「あのー、ちょっといいですか?」
我ながら、どこの怪しい宗教勧誘だよ。
そんな言葉に相手は一瞬引いた。が、その顔はすぐに緩む。俺の後ろを見て。
「うおぉ、その狼可愛いなぁ。テイミング?」
「あ、いや。これ、特典で貰ったスキルで召喚した奴なんだ。名前はワオール」
「特典っていうと、上位スキルかぁ。あ、ところで何?」
見た目は高校生ぐらいの、少年とも言える容姿の彼。
ワオールの存在でいっきに気さくな雰囲気へと早変わりした。
そんな彼に、ここを選んだ理由を聞いてみる。
「あぁ、人の多い町だと狩場が混んでるって情報あってさ。混んでない所を希望したんだ。ここ、人少ないっていうか、全然いないねー」
「今日増えた人数でも、まだ二十人に届かないハズだからねぇ」
「少な! でも必要最低限は揃ってるみたいだし、狩場が混雑してるよかいいけどね」
「そうだよ! これからもクエストを、よろしくお願いします!!」
『ワオワオオーッ』
「お、おお」
そっかぁ。たまたま偶然ここに来ただけなのかぁ。
だが次に捕まえた二人組の男性プレイヤーたちは違った。
「掲示板見て、隠しダンジョンと森ダンジョンあるって書いてあったからさ」
「同じここの住人の書き込みには、周辺が草原だからレベリングしやすいってあったんだよ。森だと視界悪くて、突然横から襲われるなんてのもあるっていうしさ」
「そそ。難易度的には低めに設定されてるけど、近場にダンジョンがあって穴場だぞって」
おおぉ! 誰か知らないけど、お勧め記事を投稿してくれたのか。
有難い。
更に筋力増強の為の大工スキルが活躍できる、発展途上なところも魅力的だったようだ。
さっそく二人は壁の増築を手伝いたいと言ってきた。
くぅー、嬉しいねぇ。
俺のハンマーを貸してやり、作業手順を教えてあとは二人に任せることに。
その間、俺は伐採した木を壁材用に加工するため工房へと向かう。
そこでも見知らぬ人を発見した。
女性……というか、女の子二人だ。
リリーチェさんとどっちが年上だろうか。そんな微妙な年齢の子たちだ。
もちろんこれはゲームのアバターなので、実際には外見と実年齢とは一致しないだろう。
二人の女の子のうちひとりは、どうやら調薬をしているようだ。
ひとり用の土鍋を火に掛け、そこに薬草を――。
「ちょーっと待ったあぁぁっ!」
「ひゃひっ!? な、なんですかっ」
今まさに土鍋へ投入されようとする草を見て、俺は確信した。
あれは――洗ってない!
洗った草とそうでない草は、微妙に色が違うことを発見済みだ。
洗った方がやっぱ綺麗な緑色なんだよな。
彼女の草に鮮やかさがない。
「それ、洗ってないだろう?」
尋ねると、彼女は首を傾げつつ頷いた。
だってそんな作業工程、出てないもん――と。
そうなんだよ。出てないんだよ。
「きっと隠し要素かなにかじゃないかなぁ。まぁザルって普通に売ってるし、気づく人は気づくだろうけど」
「え? 洗うと何か変わります?」
「変わる変わる。回復量が10増えたよ」
「嘘! え、やってみたいけど……ザルまで買うお金は今無いし……」
「あ、じゃあ俺の使う? 俺あっちで大工やってるから、その間使ってていいよ」
そう言って彼女にザルを手渡す。
「ありがとうございます! さっそく洗ってみようっと」
「あのー、私、料理スキルなんだけど。何かアドバイスとかってありますか?」
「え……料理……俺も持ってるけど、一度も使ってないんだよね。あ、でも――」
確か熊人族のウドマーが、鍛冶より料理のほうが得意だって言ってたな。
彼なら夜中でも店にいるし、訪ねてみたらどうだろう――というアドバイスをした。
「NPCに?」
「うん。わりといろいろ教えてくれるよ」
「へぇ。意外。香澄、ちょっと行ってくるね」
「ココアちゃん、いってらー」
「いってらー」
俺も一緒に手を振る。
それから作業台で壁材を尖らせる作業に取り掛かった。
終わればアラームが鳴るまで植林場で木の伐採。何十本が切り倒すと、今度は植林。
ゲーム内の僅か一日で木は成長する。六時間後には立派な丸太になるだろう。
「本気で森作りとかやってみようかな……でも森を作ったところで、そこで生息してくれるモンスターはいるんだろうか?」
『ワフ?』
「その辺のモンスターと同じ奴が住み着いても、森の意味ないしなぁ」
ここでふと俺は思った。
万が一にもゴブリンが住み着いたりしたら……。
「ゲームを始めたばかりの人だって多い所に、アレはまずいか」
結論。植林の数はあまり多くし過ぎないようにしよう。
あと出来るだけ隙間を開け、光が届くようにすれば大丈夫かな。




