051
何人かはログアウトしたが、明日の講義は昼からなのでまだまだ頑張るぜ!
伐採持ちのバムートを連れてケヤキ林へとダッシュしてきた俺たち。まずはバムートにポーションを渡してHPを回復させてやる。
「防具でHP強化してないうちは、やっぱダッシュ移動は厳しいな」
「まぁそらしゃあないけど、ポーション一本飲めば回復するんで問題もないですわ」
「だな」
『ワフ』
それぞれ斧を手にケヤキの伐採に取り掛かる。
時刻はまだ夜。ワオールにはバムートを守るようお願いしてある。
陽が上れば彼は、この辺りのモンスターをテイミングしたいのだとか。
「テイミングって、モンスターを捕獲するスキルだったよね?」
「まぁ捕獲というか、主従契約をさせるみたいな? その子は上位スキルの獣魔召喚やろ?」
「そそ。でも契約というか、召喚してポンっと出てきたんだけどさ」
「まぁスキル名が召喚やから、そこにはおらんのを呼び出すスキルやろね」
ロビーで召喚してからずっと、ワオールはどこかに帰る訳でもなくずっと傍にいてくれる。
このスキル、どうやってレベルが上がるのだろう?
「テイミングのスキルって、どうやって上げるの?」
「モンスターにスキルを使えば上がるんやで。失敗しようが成功しようが、カウントされるんや」
「召喚魔法はどうやって上げればいいんだろうな……」
「そりゃー……スキル使う?」
……そうか。
じゃあ使ってみよう。
「"獣魔召喚"!」
木に向かって手を突き出すと、【スキルレベルが足りないため、二体目の召喚は出来ません】と出た。
「出来ませんってメッセージ出るんだけどさー」
「無視して使ってたら、そのうちレベル上がるんやない?」
「あぁ、そうか。つまりこれはスキル失敗みたいなもの……二体目!?」
「はい?」
え、待って。
さっきのメッセージもう一度!
動いたせいで消えてしまったあのメッセージに、なんか凄いこと書かれてただろ!
スキルをもう一度使おうとしたが、クールタイムがまさかの六百秒!?
次にスキルが使えるまで十分……長い。
待ち時間の間、斧をフルスイングして木を伐採していく。
ワオールはモンスターに対してデストロイだが、俺は木に対してデストロイしまくる。
スキルレベルなのか、それとも筋力も相まってなのか、斧の一振りで切り倒せるようになってるんだよなぁ。
現実離れしているけど、これがなかなか気分爽快!
十分の間に百本近く伐採して、辺りを剥げ散らかした後スキルが再使用可能になった。
再びスキルを使って浮かび上がらせたメッセージには、確かに【二体目の召喚は】とある。
つまりこれ、スキルレベル上がったら二体目の召喚できるってことか!?
「うおおおごごごごっ! ワオールの友達が出来るぞっ」
『ワオオオオォォォッ』
朝日に向かって猛々しく吠える俺とワオールの隣で、バムートの獲物探しが始まった。
「ほな、テイミングするで」
「オケ」
『ワオ』
バムートが対峙していたのはグリーンスライム。
正直、そいつこの辺りで最弱なんですけど?
だが彼は、五色のスライムを集めたいのだという。
戦隊物ですか。
そういえば東の川付近にブルースライムとかちら見したかな。
あそこはアクティブモンスターばかりなんで、彼を連れて行くのはまだ早いんだろうな。
場所だけ教えてやろう。
「おぅ……失敗や……ほな堪忍してなーっ」
そう言って、バムートはスライムにファイアを叩き込む。
……テイミングしたけど、失敗したら問答無用なんだな。
何匹目かのテイミングスキルでようやくスライムをゲットしたバムート。
「よし! お前の名前はミドレンジャーだ!」
『ぷるん』
やっぱり戦隊物か……。しかも相当古いんじゃないかな。
ミドレンジャーを肩に乗せたバムートと別れ、俺とワオールはクエストへと戻ってきた。
大量の苗木を植えるためにだ。
今までの植林場所から更に北の方へと場所を移し、これまでの分も含めて150本近くを植える。
種もあるのでそれもしっかり撒いておく。
ちょっとした森みたいになるんだろうなぁ。
ただし、成長した傍から伐採していくけどね!
「明日は午前中に作業を始めたいし、少し加工しておくか」
『ワオォーン』
工房へと行き、作業台で大工スキルを使って丸太を以前同様、4メートルの長さに切っていく。
「あ、クーさん。もう作業始めるの?」
「やぁ渚さんにユキト君。始める前の準備だよ。丸太のままだと20メートルもあるんだよ」
「……長いな。まぁ木だし、当たり前か」
「うん」
魔動ノコでチュインチュイン切るの、楽しいー!
「クーさんそれ……電ノコ?」
「魔動ノコ。俺のMPを消費して動いてるんだよ。課金アイテムね」
「うっそ! そんなものまで課金アイテムであるんだ」
「それを買う人間が居たことに、俺は驚きだ」
そうか? 効率いいし、物作りスキーなら普通じゃないか?
チュインチュインと切っていく俺の前方では、渚さんが何かをやろうとしている。
彼女の手元にポンっと現れたのは糸だ。
あれ、見覚えあるな。
芋虫モンスターからドロップした糸じゃないかな。だいぶん売ったけど、少し持ってるんだよな。
「渚さんって、生産スキルを持ってるとか?」
「うん。裁縫だけね」
そう言って彼女は別の作業台の上で、糸を紡ぐ古めかしい道具を取り出した。
「あ、渚さん、よかったらこれ上げるよ。ユキト君の労働報酬の前払いとして受け取って」
作業台の上に直接アイテムを出し、彼女へと差し出す。
「えぇ、いいの! ありがとう〜」
「待て。俺への報酬が何故渚に」
「ありがとう〜、ユキト」
「あ……うん」
ユキト君、本当に渚さんのこと好きなんだね〜。
うーん……いや、寂しくは無いぞ。うん。
『クゥーン?』
「大丈夫だワオール。俺にはお前がいてくれるからさ。だろ?」
『ワンワンッ』
だたしワオールは……雄である。
「うおおおおぉぉぉっ!」
『ワオオオオォォォン!』
チュインチュインと丸太を次々に切り落としていく。何かを忘れるために。なんだろう?
「クー。その丸太――」
「ん? 何か言ったかユキト君」
彼が頷くので再び作業の手を休める。
ユキト君は今しがた切った丸太と、すぐ背後にある壁とを見つめた。
「壁……あんなに太くなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
「例えば、門のように縦に割ったものでも、いいんじゃないかってこと。そうすれば本数の確保も、楽になるんじゃないか?」
まぁ確かに。真っ二つに割れば、今までの倍の数が揃うことになる。
耐久性としてはどうだろう。
一度ミャーニーに相談してみるか。
ユキト君には、明日の十時前ぐらいから二時間だけ作業をすると伝えると、その時間は彼もログイン出来るという。
同じように大学生だろうか?
二人を工房に残し、俺はミャーニー宅へと向かった。
そしてユキト君の案を伝える。
「そうですミャぁ。そんなに細い木でも無いですミャから、縦割りにしたサイズでも十分ですミャね」
「そうか! これで伐採本数を少なくできるよ」
よし。そうと決まれば、まず先に縦に切るか。
この日、眠気に襲われるまで丸太を切る作業を続けた。
そうして出来上がった壁材となる丸太は、1540本!
「うおおおぉぉぉ、俺はやったぜえぇぇぇっ!!」
『ワオワオ、ウオオオォォォォーン!』




