049
「ミャー。つまりクーさんは、畑を作りたいがこのクエスト拡張を考えると壁のすぐ外には作れず、悩んでいるってことですかミャ?」
「そうそう。だからって拡張後を想定して、遠くに畑を作るわけにもいかないだろ?」
「そうですミャねー。でも畑は後々潰して、宅地にすることは可能ですミャよ」
お、そうなのか?
「だけど畑仕事を実際にする方々に、お聞きしたほうがいいですミャ」
「うぅん。そっか。まぁ畑は後からでも再利用できるってのがわかっただけでもよかったよ」
「今はまだ夜ですミャ。お聞きするなら朝になってからにするといいですミャよ」
……夜中に訪ねてきてごめんなさい。
でも普通にミャーニーの家にも明かりが点いていたんだよな。
彼の家を出て、その裏手にある住民NPCの家を見るが、三軒とも明かりは点いていない。
販売系のNPCやミャーニーのようにプレイヤーと直接関わるNPCだけが、二十四時間フル稼働しているんだろうな。
お疲れ様です。
にゃんごの家の脇にあるたまり場に向かうと、双子以下全員が寛いでいた。
「おっす、クー」
「おっす、ドミンゴ。あれ? 知らない人!?」
「はじめましてー」
「さっきログインしました」
知らない女性が二人。それに男の人もひとり居る!
男の人は夕方からログインしていたようで、ソロ狩りしながら木の伐採をしていたらしい。
ん?
伐採?
「すんません。なんか裏手の林って、植林していたそうで。知らんと切り倒してしもて」
「あー、いいですよ。……うん、ここを拡張するのに、アレも邪魔になるかもと思っていたし。ちょうどいいや」
「あ、拡張作業始めるの? だったらユキトにも手伝わせてあげて。ね?」
ユキト君も?
渚さんが拝むように手を合わせる横で、ユキト君も小さく頷いている。
あ、もしかして筋力かな?
そう思っていたら、本人の口から「筋力上げたくって」という言葉が。
どうやら狩りで筋力を上げるより、大工作業の手伝いのほうが効率が良いと、ティト君から聞いたようだ。
今回は大工スキル持ちのドミンゴもいるし、作業は捗るだろうな。
「じゃあさクー、このバムートが大工と伐採スキル持ちなんだよ。一緒に手伝って貰おうぜ」
「え? 本当?」
バムート――植林していた木を切り倒したと謝罪してきた男性がはにかむように笑う。
癖のない茶髪に、透き通るような水色の目。線の細い体つきは、どう見ても大工や伐採スキルの似合わない容姿だ。
まぁゲームだから、見た目がガリガリだろうが、筋力100とか可能なんだろうけど。
「ワイは他にも鍛冶系も持っとります。生産と戦闘、両方っちゅうか、若干生産寄りですわ」
「おおぉぉ。物作り好きですか!?」
「物……いや、生産?」
同じ同じ。
せっかく全員集まってるし、ここで俺の悩みをみんなにも聞いて貰った。
朝になってNPCに相談はしてみるけど、その後どう動こうかなということを参考に聞きたくて。
「畑ってどのくらいの面積いるのかしら?」
「ミャーニーに聞かなきゃわからないかな?」
「じゃー連れてくるね」
リリーチェさんが足早にミャーニー宅へと駆けていく。
ほどなくして連れて来られたミャーニーを見て、ログインしたばかりだという女性が黄色い歓声をあげた。
あ、この人たち。たぶんクエスト紹介の「もふもふがいっぱい」に釣られて来た人たちだろうな。
ミャーニーを交えて、今度ここをどう拡張していくかという話に発展。
どこまで規模を大きくするのか。
他の町はどのくらいの面積なのか。
それを参考にここクエストの完成予想図を作っていく。
みんなが話し合う中、俺は手作りのひとり作業台を取り出し木材の加工を始めた。
ベニヤ板ぐらいの厚さで、比較的大きな板をこしらえる。
「えっと、何……作ってるんですか?」
ログインしたての女性がひとり、声を掛けてくる。
「模型を作ろうと思ってね」
縦横2メートルになるよう、四枚のベニヤ板を用意する。それを2メートルの木材に釘打ちして正方形に。
とりあえずはこれでよしっと。
「これに粘土で作った建物を乗せていって、クエストのミニチュアを作るんだ」
「え、粘土あるんですか!?」
「あるよ、ほら」
いつでもアイテムボックスに入っている粘土。それを一つ取り出し彼女へと見せる。
彼女が指で突くと、粘土はその形を変え指穴が出来た。
成形スキルが無くても、これなら思った物が作れそうだ。
ただ作る前にサイズを考えなきゃならない。その為にもまずは、壁を何メートル拡張するかを決めなきゃならないんだよ。
「町になった時の規模かぁ。そりゃあデカい方がいいに決まってるだろ?」
「でもドミンゴさん。規模を大きくしたら、それだけ建設が大変ですよ?」
「狩りに行けなくなるわね」
「ぐっ……」
まぁそうなるんだよな。
「ちなみにですが、今この状況で畑区画が完成すれば、ここは『村』として認定されミャすミャ」
「「おおぉぉ」」
全員が歓声を上げる。
「村になると、何かメリットはあるの?」
「はいミャ。農作物の販売が始まりますミャよ」
「「おおおぉぉぉ!」」
ここで反応したのは俺とバムートさんの二人だけ。
「そ、それで、どのくらいの規模になったら、町になるんだ?」
「住宅が三十軒以上。雑貨屋、武器防具屋、工房、冒険者ギルド。これらの施設が最低でも各一軒ずつあること。そのうえでここを拠点にして活動している方が、百人以上になったらですミャ」
プレイヤー百人……施設や住宅の建設より、ハードルが高そうだ。
「プレイヤー百人以上っていうと、各店舗一軒ずつだと混雑しそうね」
「だなー。最低でも二店舗ずつないと、厳しいぞ」
みんなの話を聞きながら、頭の中でタウンマップを作って行く。
町の中心に商業施設を持ってきて――冒険者ギルドも近くがいいだろう。
そして壁のすぐ内側は住民NPC用の住居が立ち並ぶ。
畑があるなら、市場なんかもあると生活臭がしていいな。
そうだ。冒険者ギルドの裏手に、公園とかあったらよくないか?
狩りから戻って来たプレイヤーが寛げるようにさ。
「あのぉ、新参者で恐縮なんだけど。セーフティーゾーンって、もしかしてここだけ?」
女性の声に全員が彼女に注目した。
「あ……そう言えば……」
「次の町まで徒歩で三日だったような?」
「あーそれ、私が居た前の村でも同じデスよ。最初に出た村の近くに、セーフティーゾーンは無かったんデス」
「それぞれの村や町までは、遠いみたいだな」
うわー、と落胆する声が聞こえる。
「うーん、無いなら作ればいいじゃん?」
「遠いなら、その途中に皆さんで作ればいいんですミャ」
「だろ?」
「「え?」」
ミャーニーの言葉に同調する俺と、何故か疑問の声を上げる他全員。
いやだって、ここだって作ったんだぜ?
「な、ワオール」
『ワオォ?』
あ、ワオールには何も言ってなかった。
改めてここのセーフティーゾーンを作ったのは、俺たちだもんなと告げると、ワオールは尻尾を振ってワフワフ言う。
「ひとつの地区に複数のセーフティーゾーンが出来れば、転送屋さんもやって来ミャすミャ」
「転送屋?」
「はいミャ。セーフティーゾーンとセーフティーゾ-ンを繋いでくれる、魔法使いさんですミャ」
「「おぉぉ!」」
じゃあ……自分の都合の良い場所に、壁で囲んだセーフティーゾーンを作ればいいんじゃないか?
その転送屋に必要な建物だけでも建ててしまえばいいだろう。
「ミャー。最低でも雑貨屋さんは必要ですミャよ」
「なんだ、二軒建てるだけか。余裕」




