044
本日の夕飯は――お子様ランチ!?
「母さん……なに、このオムライス……」
「可愛いでしょ?」
大学生の息子に、旗付きオムライス出す親がどこにいるんだよ……。
「わぁ、お母さんどうしたの? 良いことあった?」
二階から降りてきた妹が、俺とは違う感想を口にする。
「うふふ〜、わかるぅ?」
え? なんかあったのか!?
「スクラッチがね〜、当たったの〜」
「おおおぉぉぉぉぉっ!」
「え、いくら!? お小遣いくれるの??」
「あ〜げないっ。だから今日は奮発したんじゃない〜」
奮発して旗なのか?
このオムライスの他、ハンバーグにフライドポテト、コーンバター。そしてプリンがあった……。
なんとも言えない微妙な気分だ。
そんな気分の中、食事中に妹がこう切り出してくる。
「お兄ちゃん、ゲーム始めたの? 面白い?」
「面白い。今町造りをしているんだ」
「へぇ。シミュレーションゲーム?」
「いや、MMORPG」
「……なんでRPGなのに町を作ってんの?」
なんでって、拠点になる町が無いからに決まってるだろう。
具体的に何を作っているのか、妹に語って聞かせてやる優しい兄こと俺。
話を聞きながら、だんだんと妹の顔が呆れたようになるのがわかった。
こいつにはわからないのさ。
何かを作る喜びってものが。
「お兄ちゃん、何か間違ってるよね」
「間違ってないぞ。どんな風に楽しもうが、人の勝手なんだからな」
「そうだけどさぁ……ねぇ、お母さん。私もやりた〜い」
「ダ〜メ。あんたは今年受験でしょ」
間もなく夏休み。
だが妹は中学三年生で受験生だ。
VRなんてやらせられる訳がない。
結局、黙々と旗付きオムライスを食べていた父さんが一言、
「去年VRで遊んだあと成績はどうなった?」
こう言って妹は諦めたようだ。
成績はおろか、宿題も忘れるようになったので先生にも怒られたっていうね。
あ……レポート忘れてた!!
しかも明日は月曜日じゃん……週末ももう終わりかぁ。
シャワーの後ログインすると、再び森の近く。
「ワオール、クエストに戻ろう。ごめんな、もっと遊ばせてやりたかったんだが……レポート書かなきゃならないからさ」
途中までは書き終えているので、あと一時間かちょっとあれば終わる……はず。
ロビーで二十三時にアラームを頼んだので、それまでに家を一軒建てておきたい。
ワオールと二人、全力疾走してクエストへと戻った。
ワオールと二人、頑張って一軒の家が完成。
住居タイプはいくつかある。
今建てているのは一番小さな平屋の家で、ワンLDKだ。
まずは住居の数を増やして、移住してくるNPCを呼び込む。人数が増え、田畑用の敷地を作ればそこは『村』になる。
そうミャーニーが言っていた。
これで農民候補のNPCの家は三軒建った。まだ屋根の色を塗っていないので、ここでひとつ試してみたい。
「赤と青を混ぜれば紫になる」
『ワフ?』
「容器があれば混ぜられるはず!」
が、容器が無い。
木材でお椀でも作るか? でも木製じゃあなぁ……。
「また家が増えてる!?」
「お、メネネトさん。こんばんはー」
「あ、こんばんは。家ってそんなに簡単に出来るもんデスか?」
「あぁ、割と。同じ物造ってると、手順も覚えるしね」
なるほどとメネネトさんも納得。
そうだ、彼女はいろいろ知ってるようだし、聞いてみよう。
「メネネトさん。顔料を混ぜて他の色を作りたいと思うんだけどさ」
「え? 混ぜるんですか? うぅん、そういうの聞いたこと無いなぁ」
「出来ない?」
彼女は少し考えてから、町の工房には十二色の顔料――つまりペンキが売っているので、混ぜる必要もないから……と。
そんなにあるのか……。そりゃあ十二色もあれば、よく使いそうな色も揃ってるってことだし。
「あれ? 工房作りましたよね? そういった物を販売するNPCって、来ないのかな?」
「あれ? 確かにそうデスよね」
俺とメネネトさんはミャーニーの家へと飛び込んだ。
ゲーム内だと今は深夜。
ミャーニーは……起きていた。
「ミャー。どうなさいミャしたか?」
「ミャーニー、こんばんは」
「はい、こんばんミャ」
「ミャーニーさん、工房を設置したのに、販売NPCが来ないのは何故デスか?」
ミャーニーは少し考えてから、「製造組合員ですか?」と尋ね返してくる。
NPCに「NPCは?」と尋ねても、微妙に通じないのは、彼らがゲーム内住民ではなく、この世界の住民だと認識しているからだろうな。
「私も詳しくはわからないですミャが、工房を利用した方はいますミャか?」
「工房を利用?」
「クーさん、使いました?」
「いや、まだ」
「私もデス」
作っただけで、使ってはいない。
使えばNPCは来るのか!?
慌てて俺とメネネトさんは工房へと走る。後ろからミャーニーもやって来た。
「作業……何かしなきゃ」
「私、鉄鉱石を製錬してみます」
「あ、俺も鉄鉱石持ってる。スキルもある」
「いえ、違う作業の方がいいかもデス。フラグ制なら、いろいろな方面から攻めるべきでしょう」
「じ、じゃあ……得意な大工作業するかな」
自分で作った作業台の上で丸太を切る。
ただ切るのではなく、住宅建築に使えるサイズでだ。
NPCを呼ぶためだろうと、一切無駄にはしない!
『ワオッ。ウォォーン』
「ミャ。誰か来たみたいですミャ」
いつも思うんだが、耳の良いワオールはともかく、何故ミャーニーにも門を叩く音が聞こえるのか。
正直、俺には何も聞こえない。
四人で門へと向かい開けると、そこにはひとりの猫人族、そしてヒューマンの男性が立っていた。
「こんばんにゃーん」
「夜分遅く申し訳ない。俺たちは製造組合から来た者だ。ここに工房が出来たと噂を聞き、やって来た」
「道具や一部素材の販売をさせて頂きたいのですにゃーん」
ヒューマン男性はマッチョムキムキ。
そして猫人族は……
女だ!?




