表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/56

042

 ユキト君と渚さんカップルは狩りへ。ティト君とリリーチェさんも、東方面に行ってくると言って出発した。

 残った俺とドミンゴ、そしてワオールの三人で住宅建設に取り掛かった。


「あぁ、俺も彼女ほすぃー。クーはいんの?」

「んー……大学入る前に別れた……それっきり……」


 恋人……これまでの人生で一度だけ居た時期が俺にもあった。

 ただ三か月という短い人生だったが。

 プラモショップで知り合った彼女は、人気ロボットアニメが好きで――。


「それで、たまたま同じ箱に手が伸びて……それで、ね」

「うわぉ。そこだけ聞くと運命の出会いだな。ただその場所がプラモショップとか……」


 彼女は俺もそのアニメ好きだと思ったようで、なんとその日のうちに告白されてしまった。

 初めてのことで、俺も有頂天になったんだよなぁ。

 結局、彼女が思っていたのとは違い、俺は特にそのアニメが好きだったとかもなく。

 ロボット物としてはパーツ数も多く、作り応えがありそうだと思って買っただけだったという。

 それを知ってから、彼女はよそよそしくなり、そして――。


「えぇ!? そんだけでフラれたんか?」

「うん……なんかもう、女ってわっかんないねと思ったよ」

「うわー。初めての彼女がソレかー。さすがに同情するわ」

「ありがとう。よし、じゃあ始めよう」

「おう!」


 二人で手分けをして木材の加工を終わらせ、てきぱきと組み立てていく。

 重い柱はドミンゴが率先してやってくれるので、俺は土壁塗りに集中した。

 今度の屋根は赤にしよう。

 昨日、フォッカさんに赤い顔料を代理購入して貰ったので、青と赤、二つの屋根が作れるようになった。


 そろそろ完成というそのタイミングで――。


「うわ! リアルタイムで家建ててる!?」


 屋根に上っていた俺たち三人は、そんな声がして下を覗き見た。

 そして目が合う。

 緑色の髪に同じく緑色の瞳をした、眼鏡をかけた女性だ。


「新しい住民!?」

「おぉ!!」


 急いで下に降りていくと、彼女はそんな俺たちをまじまじと見つめてくる。

 眼鏡をくいっと上げ、


「プレイヤーさん、ですか?」


 と尋ねてきた。


「中身入りだぜ」

「うんうん。ん? 中身入り?」

「プレイヤーのことをそう呼んだりするんだよ」


 なるほど。


「やー、ロビーでここの紹介あったから来てみたんだけど。予想してたより小さな……町?」

「いえ、ここはまだ町でもなければ村でも無いんですよ」

「壁でセーフティーゾーンになってるだけらしいぜ。その壁だって、このクーがひとりで建てたって話だしな」

「えぇ!? ちょっと待って。つまりここは、プレイヤーの手で作っている最中の……その……村未満?」


 俺とワオール、そしてドミンゴが頷く。


 予想していたものと違う。

 彼女はキャラリセしてしまうんだろうか。


 そう思っていると、彼女は俯き小刻みに震え出した。


「――しゃあーっ! いいデスねいいデスねぇ。これぞ、ザ・異世界開拓!」

「いや、ここは異世界じゃなくって……」

「いいんデスよそんなことぉ。そういう感じ、が大事なんデスからぁ」

「はぁ……」

「よぉし! 私もやるぞぉーっ!!」


 やる? なにをだろう。

 そう思っていると、彼女は辺りをキョロキョロし始めた。


「あのー、土地相談のNPCはどこに?」

「え? ミャーニーならそこの家に」

「えぇ!? 相談NPCにも家が? 建てたんデスか?」


 頷くと、再び彼女は感動したように小刻みに震え始めた。


「――デスね」

「え?」

「まるでNPCも生きている人のように扱っているのデスね!」


 がしっと俺の手を掴み、彼女は感無量といった顔で――迫ってくる。


「私、メネネトといいますデス! これからここでお世話になりますデスよ!!」

「は、はぁ……ようこそ、その……クエストへ」

「はいー! ではまずはここに工房を作ってもいいデスか!?」

「工房?」






 工房は町や村にある施設だったはず。


「実は私、キャラリセでここに来たんデス」

「え? リセットしてわざわざ来てくれたんですか?」

「あ、いえいえ。前に居たところがその……居心地悪くて」


 メネネトさんは俺と同じく、ゲームが開始された翌日からプレイを始めた人だった。

 スキル構成は今と同じで、鍛冶や皮細工といった生産を中心に、攻撃スキルひとつ、戦闘補助ひとつというスキル構成だった。


「スタートが村だったのデスよ。しかも規模が小さい村でして、そのせいか工房も無くってデスね」

「え? 村でも工房無かったりするのか?」

「デスデス。農家が五軒ほどで、武器防具屋に雑貨屋がそれぞれ一軒ずつしか無かったのデスよ」


 へぇ〜。村によっても、その規模はまちまちなのか。


 彼女の言う工房とは、製造作業を行う場所のこと。

 とはいえ、俺は工房が無くてもポーションを作れるし、木工作業も出来る。

 必要性はあるのか?


「工房が必要なんです!」

「はぁ……」

「工房の作業台を使えば、製造速度が上昇し、更に成功率も上がるんデスよ!」

「なんだって!? それ詳しく教えて今すぐ早くっ」

「うわー……クーの喰いつきっぷり半端ねー」


 そして俺はメネネトさんに工房の話を聞いた。

 その間、ドミンゴとワオールが建設中の屋根に上り、最後の仕上げをする。


「町であれば、最初から工房設備があります」

「うんうん。複数の工房が存在する町もあるよね」

「はい。その辺りは町の規模にもよるようデスが。大事なのはここから。なんと、村にも工房を建てることが出来るのデス!」

「なんとーっ! え、じゃあここも?」

「大工スキルで建設出来る建物の種類から見れませんか?」


 無かったはずだ。そう思いながらも確認すると――あった!?

 え、いつの間に?


「きっと、この拠点で生産スキル持ちが増えたからデスね。私がいた村も、最初は建設できなかったようですから」

「そうなんだ。つまりメネネトさんの登場で、解禁されたってことか」

「デスねー」


 そして彼女は、以前居た村では大工スキル持ちが二人居て、その二人がドミンゴのように筋力強化を目的としたスキル持ちだったと話す。


 伐採と木材加工まではするが、建築はしない。

 そんな時間があったら狩りに出る。


 まぁそう言われても仕方がないよね。

 俺みたいに作るのが好きで取ったスキルじゃないんだから。


「いっぱいお願いしたんデスが……」

「ダメだった?」

「はい。それで、町に移住しようと思って。でも歩いて向かうのは、さすがに厳しく」


 隣村まで徒歩でゲーム内四日。つまりリアル時間でも丸一日かかる。

 その上途中はアクティブモンスターが闊歩するエリアもあるし、生きてたどり着くためにはいろいろと成長させないと無理。

 結論として、キャラを作り直す方が早いということに。


「最初は町で始めようと思ったんデス。でも町だと既に生産者も多いだろうと思って。そしたらナビにここを紹介されたんデスよ」


 ナビというのは、ロビーのあの声のことだろう。

 そうしてやって来た彼女は、是非とも工房を作って欲しい、と。


「大工スキルで屋根なんかを建てて貰わなきゃいけないんデス。あ、でもオープンフロアなので、柱と屋根でOKデスよ」

「建物じゃないんだ?」

「はい。ただ意外と大きくて。最低でも二区画分は必要だと思いますよ」


 作業台は木工スキルで作り、ガスコンロ的な竈はまた煉瓦で造ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ