041
「という訳なんだけど、移住者募集とか出来ないのかな?」
ミャーニーの家に行き、彼に相談をしてみた。
「移住は無理ですミャ。でもこれから訪れる人に、ここを紹介することは出来ミャすミャよ」
「え、出来るのか!?」
「はいミャ。でもその前に、ここの名前を決めなければなりミャせんミャ」
ここの名前?
あぁ、町とか村の名前ってことか。
でもそんなの、俺ひとりじゃ決められないし。
ミャーニーから名前を付ける際の約束事なんかと聞き、俺は一旦さっきの場所へと戻った。
ドミンゴたちはまだ居た。更に双子の兄妹もログインして来て、都合よく全員が集合。
「え? ここの名前!?」
「自分たちで決めていいんですか?」
「うん。名前はカタカナで、文字数は十五文字までなんだってさ。あと他に同じ名前の町や村があったらダメだった」
「その辺りはキャラクターネームと同じね。漢字は使えたけど」
と渚さんが言う。
確かに彼女の名前は漢字だ。
お互い自己紹介すると、相手の名前が頭上に見えるようになる。
ただしこちらが動いていると見えないけれど。
どんな名前が良いか、みんなと話し合うために――。
「ちょっとベンチ作るね。地面に直接座るより、その方がいいだろう?」
「え、今から?」
「うん。その間にさ、なんか考えててくれよ」
そう言い残し、木材調達の為外へと出る。
いつものように植林場でケヤキを伐採。
伐採後に残る切り株って、このまま椅子なりテーブルなりになりそうなんだけどなぁ。
ちょっと掘り起こしてみるか。
「ぐぬぬ……ほぉっ!」
『ワホォッ!』
スコップやツルハシでどうにかこうにか掘り起こすと、すぐさま切り株は消え、アイテムボックスへと入って行った。
使えそうだな。
よし。
ケヤキよりも細身の樫も二本切り倒し、みんなの待つ拠点中央へと戻る。
「おか。ひとり一つ、名前を考えることにしたぜ」
「できればNPCの人たちにも協力して貰って、投票制にしないかってことにしたの」
「おぉ、いいね。じゃあ誰かそのことをミャーニーに伝えてくれないか? 俺はベンチとテーブル、作るからさ」
「お、加工ならやらせてくれ!」
「うん、ドミンゴにも手伝って貰うよ。出来ればいくつか作り置きしたいし」
人が増えれば憩いの場も必要になる。
ベンチと椅子のセットを複数用意しておけば、いつでも設置できるしな。
樫の木は、座るのに丁度いい高さの丸太に切り分けて貰う。
ケヤキの丸太は厚さ3センチ、長さ1メートルほどの木材に加工。
道のど真ん中だと先々邪魔になるだろうから、にゃんごのお店の横、空いた土地に切り株を置かせてもらった。
ぐらぐらしないよう、根を調整。
その上に、さっき加工した木材を天板として乗せ、釘で固定。
ドミンゴが切ってくれた椅子丸太を置いて完成だ。
「わぁ、可愛い」
「溜まり場にはちょうど良いわね」
「もう少し時間あれば、丸い天板なんかも作れるけどね。それはまた今度にしよう」
作業が終わると、ミャーニーに報告しに行ったティト君が戻ってきた。
これで準備万端。
あとは……。
「ひとり一個、名前を考えなきゃならないのか……」
「そう。全員でアイデア出そうぜってことで」
「ぐぅ……こういうの苦手なんだよなぁ」
「私も」
「オレもだ」
考えるのが面倒くさい。センスが無い。そして苦手。
だから自分の苗字の一文字だけ使った名前にしたのに。
「私、もう考えたよ。お兄さんが作り始めたところだもん。『クーの王国』!」
「いや、それマジ恥ずかしいから止めよう。ね?」
「えぇー、残念」
リリーチェさんも、センスが無いようだ。
「でも、クが入る名前にするっていうのは、いいかもな」
「え、ちょ。ドミンゴまで」
「いやいや、何もクーだけにするって訳じゃないんだ。何かさ、指定条件あったほうが、考えたやすいだろ?」
「わかったわ。クが付けばいいのね」
あわあわあわ。みんなして「ク」を連呼し始めたよ。
うぅん。まぁ「ク」が付くだけっていうなら……。
ク、ク、ク。
クかー。
「ク」で連想できる言葉……あ、さっきのゴブリン。毬栗持ってたな。アイテムボックスにも毬栗がいくつか入っている。
奴らの食料なのだろうか?
いやいや、名前だよ。
イガグリじゃあさすがにダメだろう。
クー、クー、クモ……クッキー……クスリ……。
もっとマシなものは無いのか。
何かないかとスマホを弄っていると、これなら――というものを見つめた。
やがて全員が名前候補を考え終え――。
「ニャー。それじゃあ好きなものに投票すればいいニャね」
「あぁ、頼むよみんな」
木片に、青い顔料でそれぞれの案を書き、だれが書いた物かわからないようにしてテーブルに並べていく。
お、最初の一枚目は俺が書いたやつか。
次は……あれ? 俺と同じ?
三枚目――四枚目――五枚目――。
「最後はクリムゾンね」
「厨二」
「うっせー! カッコいいだろっ」
ユキト君の呟きに、身バレ上等のツッコミを入れるドミンゴ。
最後の一枚以外、五枚はほぼ同じ名前だった。
「ニャー。投票する前に、もう決まってるニャよ」
「そうですね。これでいいと思いますくま」
「よいと思いますぴょん。そうですよね、ガチャ」
「うん。パパの言う通りだよ」
こうしてここの名前は決まった。
今はまだ村とも呼べないここの名は――。
「では、『クエスト』で登録しますね」
「「お願いします」」
スマホを弄って見つけたのは、クエスト一覧画面。
そこには何もなく、人が増え、ここに冒険者ギルドが建てば表示されるものも出てくるだろう。
それから俺たちは、この『クエスト』の紹介文を考えることになった。
――武器防具のお店、雑貨屋はあります。
――おしゃれなベンチと椅子で寛げます。
――近場にダンジョン二か所あり!
――全体的にまだ未開の地。冒険のし甲斐あるよ!!
――生産好き大歓迎。
――『クエスト』の発展にご協力を!
――もふもふがいっぱい。




