004
日が暮れて暗くなった。
幸い月が地球で見るソレより数倍のサイズなお陰で、必要最低限の明るさはある。
といっても、数メートル先は暗闇だ。
壁の隙間から草原のほうを見ると、二つセットの怪しい光がチラホラしている。
「壁、あるから安全だよな?」
「そこに通路あるニャから、入ってこれるニャね。扉を付ければ良かったニャが」
「木を伐採しに行く時間的余裕がなかったから」
「うん、まぁ仕方ないニャね。代わりに灯りを点けるといいニャよ。この辺りの低級なアクティブモンスターは、明るい所には寄ってこニャい習性があるニャから」
そしてにゃんごが『火打ち石』と『薪木』をお勧めしてくる。
火打ち石は50G。
薪木は十本セットで20Gと安い。
だがここには罠が含まれている。
「ワンセットで十五分ぐらいニャかねぇ」
「ぐ……確か一日は、朝三十分、日中二時間半、夕方三十分、夜二時間半だったよな」
「そうニャ。一晩中灯りを確保するなら、10セット買って貰う必要があるニャよ」
つまり200Gってことだ。
まぁ残金はまだある。身の安全を優先するべきだろう。
火打ち石と合わせて250Gを支払い、これで残金1595Gか。
ブロック塀で囲った中心部に薪を置き、火打ち石を数回打てば直ぐに火は点いた。
これで安全か。
焚火の光がどこまで有効範囲なのか、調べておく必要がある。
塀の内側は約260×260ぐらいだろう。
ひと掘りして土が消える範囲がだいたい20×20×20だった。今ここは周りから40センチほど下がっているので、二段分掘った計算になる。
260÷20で縦横十三面分。その二倍で土アイテムが338個だったんだしな。
焚火はほぼ中心に設置した。つまり薪の前後左右は約130センチずつ。
で、灯りはしっかり届いている。
「うぅん、こうなると塀が邪魔にもなるなぁ。とりあえず通路用に開けた隙間の先で確認するか」
『ワフ?』
「拠点を広げるときに夜でも安全に作業出来るよう、灯りが届く範囲を知る必要があるんだよ」
ワオールは納得したように首を振る。その際、首元の毛がふわっふわしていた。
「もふってもいいですか?」
ワオールは首を左右に振った。
ションボリだ。
俺は溜息を吐きながら隙間を超えた。
スコップはだいたい105センチだ。108センチの物もあるが、3センチは誤差としよう。
ブロック塀にスコップを置き、その先端に灯りが届くことを確認。
スコップを移動させ――先端に――二組の小さな光を見つけた。
というか目が合った。
「灯りが届く範囲、235センチは確実――うわあぁぁっ、モンスター!?」
『ヂューッ!』
「うわぁぁぁっ。ドブネズミ!!」
思わず手にしたスコップで殴りつける。
あ、ダメージ2って出てるじゃないか。
「スコップはやはり武器だった!」
『ジューッ』
「ワオール! お前もスコップで攻撃するんだっ。これ、武器だぞっ!!」
『ワ……ゥ?』
自分の爪とスコップとを見つめ、ワオールは首を傾げていた。
ダメージ2しか出ないのもあって、なかなかネズミを倒せない。
早く……ワオール早く!
『ワオッ』
意を決したワオールが、スコップを振り下ろす。
そのダメージは87。
え、87!?
そしてネズミ即死!?
どうやらワオールのスコップは当たりスコップだったようだ。
『ワオオォォォーンッ』
月に向かって遠吠えするワオール。
カッコイイな。
『ジッチューッ!』
『ウッシャーッ!』
「うわぁぁっ、ネズミと兎が追加された!?」
『ワオオオンッ』
ワオールの一撃で兎が吹っ飛び、地面に落ちるとそのままピクリともしなくなる。
次の一撃でネズミが以下略。
ワオールのスコップ無双が始まるのか。
そう思っていたが、そうはならなかった。
襲い掛かってくるネズミと兎たちを、スコップで次々と屠っていくこと数回目。
パキーン――という音と共にワオールのスコップが折れた。
更にネズミたち同様、光の藻屑になって消えてしまったのだ。
「ワオールっ、俺のスコップを使え!」
だがワオールは首を左右に振って素手でネズミを殴り始めた。
そのダメージは86。ネズミ即死。
つまりワオールの強さは、スコップに依存しない……と。
じゃあ俺が弱すぎるだけなのか。
必死でスコップを振り下ろし、なんとか自力で一匹のウサギを倒したところで――スコップは折れた。
「そこにいニャら、ずっと狙われるニャよー」
にゃんごの声がして振り向くと、いつの間にやらブロック塀から少し離れ過ぎていた。
焚火の灯りもほぼ届かない。
ワオールを呼んでブロック塀内に逃げ込むが、ネズミたちが追いかけてくる。
「火があれば安全なのでは?」
「自主的に近づいてこニャいってだけニャ。あんな風に外から追いかけて来た奴らは関係ニャいニャ」
『ワオォーンッ』
「でも獣魔がいるし、平気そうニャね……」
「そうだな」
あっという間にワオールが仕留めてしまった。
「モンスターを倒したら、アイテムをドロップしているはずニャから、見ておくといいニャ」
「おぉ。どこ!? どこに!?」
「アイテムボックスニャ。自動で送られてるニャよ」
「へぇ。じゃあ取りこぼすことも無いんだな」
拾えずにそのまま消えてなくなるとかだと、凄く辛い。
アイテムボックスを確認すると『夜行性のチュチュの肉』『夜行性のチュチュの尻尾』『シャドウラビットの肉』『シャドウラビットの毛皮』というアイテムが、それぞれ複数個入っていた。
チュチュがネズミで、シャドウラビットはそのまんまウサギのことだろう。
「チュチュにはわざわざ夜行性と付いているが、シャドウラビットには付いてないんだな」
「チュチュは日中も出るモンスターニャ。シャドウラビットは夜にしか出てこない奴ニャよ」
なるほど。太陽が出ているかいないかで、出現するモンスターも変わるようだ。
「『解体』スキルがあれば専用のナイフを使って、追加素材を手に入れられるニャよ」
「え、マジ? 俺持ってるよ」
「解体用ナイフは一本500Gニャ」
キラキラと光る瞳でにゃんごが見つめてくる。
そして買ってしまった。
ただ今更もう遅いというね。
倒したモンスターは暫くすると光の藻屑になって消える仕様のようだ。
振り向いてもそこにネズミや兎の死骸は無い。
「肉は料理すれば食べられるニャよ。スキルが無くても焚火で焼くぐらいは出来るニャ。失敗すると生焼けだったり、焦げたりするニャが」
「料理は取ってないなぁ。食べられると言っても……」
「お腹は空いてニャいニャ?」
お腹……そう言われてみると、小腹が空いたかも?
え、これってゲーム仕様なのか?
「ステータスを開くニャ」
「う、うん。――あ、なんかゲージってのがあるのか。満腹よりに赤いゲージが3ある」
「赤く色の付いたゲージが少なければ少ないほど、お腹が空いているってことにゃ。色付ゲージがひとつになったら眩暈を起こし、ゲージがなくニャったら気絶するニャ」
おぉう。それはマズい。
「獣魔にも空腹ゲージはあるニャ。確認する方法は、お客ニャんのステータス画面をフリックすればいいニャよ」
「何から何までありがとう、にゃんご」
「いやぁ。今はお客ニャんひとりしか居ないニャから。暇ニャし」
にゃんごぶっちゃけてる。
確認したワオールのステータスを見て、俺は噴いた。
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名前:ワイルドウルフキング(ワオール)
HP:1550/1550 MP:50/50
筋力:86 耐久:32 魔力:1
【獲得スキル】
『学習:LV1』『夜目:LV1』『嗅覚:LV1』『聴力:LV1』
『ワイルドクロウ:LV1』『ムーンライトシザース:LV1』
SP:19
満腹■■□□□□□□□□空腹
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筋力と耐久の値、どうなってんだこれ!?
今回の後書きは・・・とくに、無い・・・