038
ここから第二章となります。
『FreeStyle Adventure』をプレイ初めて一週間。
今日は日曜日。朝からガッツリ遊ぶぜ!
「おはよう、声」
『おはようございます、クー様』
「昼の十二時にアラームセットしてくれ」
『畏まりました。では正午にアラームをセット致します』
「ありがとう。じゃあ行ってくるな」
『いってらっしゃいませ』
行ってくる――そうは言ったが、実際には俺はどこにも行かない。
声が俺をゲームに送り届けてくれるからだ。
視界が変わると、そこは俺たちの町。
と言っても、今あるのは武器防具屋、雑貨屋、そして住居が二軒だ。
モグラキングを倒したあの日、にゃんごの店舗完成を祝っている最中にログインしてきたのは――。
「お、クー! おはー」
「おはようドミンゴ」
「丸太の加工、終わってるぜ」
「おおぉぉ、助かる!!」
筋力を上げることを目的に大工スキルを取ったというドミンゴ。
大工スキル以外は戦闘系スキルで固めてあって、ティト君と同じ戦士タイプの人だ。
伐採は持っていないというので、俺が木を伐採。彼に渡して木材への加工を頼んでおいた。というかそうさせてくれと頼まれた。
「筋力上がった?」
「上がった上がった。2増えたよ。いやぁ、戦闘するより上がりやすいって情報、本当だったよ」
「そりゃあよかった。てことは、大工スキル持ってれば攻撃力だけで戦えるんじゃない?」
俺の筋力は、どうやら今時点では高い方に分類されるようだ。
ドミンゴはスタートが出遅れた分、情報をガッツリ集めて始めたらしい。
「いやぁ、どっかで調整されるだろうな。例えば序盤は生産スキルでステータス上昇が良いけど、それ以降は戦闘が有利とかさ」
「ううん。そうかもなぁ。そうでなきゃ、戦闘系で固めた人は涙目だもんな」
「そうそう。俺は序盤だけでもいいんだ。出遅れた分、少しでも早くステータスを上げて、先へ進みたいからさ」
先へ進みたい。
しかし地理的な情報は皆無に等しい。
なんせここを拠点とするプレイヤーが、あまりにも少なすぎるからだ。
とはいえ、狩場には苦労していない。
隠しダンジョンがあるからな。
あの日から二日。
モグラキングを倒したその日の夜に、ドミンゴの協力もあってミャーニーの家が完成。
土曜日の昨日は午前中に講義と、自動車事故の加害者と車のメーカーの人が来て慰謝料その他の話があって……ログインしたのは夜だけ。
その夜に、見知らぬプレイヤーが二人、増えていた。
「おはよう〜」
おっと、その内のひとりがログインしたようだ。
「おはようございます、渚さん」
「クーさん、おはようございますー」
「ユキトは――お、ログインしたか」
「おは」
「「おはー」」
ユキト君と渚さん。この二人はリア充だった。
二人は同じ拠点からプレイを始めるのに、合流しやすい、比較的人の少ない場所を選んでここに送られてきた。
ドミンゴは大工スキルで筋力アップしたいため、発展途中の、大工スキルが役に立ちそうな場所を選んで、ここに送られてきた。
ここの人口はプレイヤー六人、NPC十人だ。
昨晩、住居を一軒建てると、直ぐにNPCの一家がやって来て入居。
彼らの為に畑の柵をと思ったが、ミャーニーはもう二、三家族増えてからでもいいと言う。
「クーさんはこれから家作りですか?」
「うん。今日中に三軒建てようと思って」
「オレが木材の加工しまくったから、直ぐにでも作業できるだろ?」
「うんうん。加工の手間が無くなっただけでも、作業が早くなって助かるよ」
ログインしてきたばかりの二人は狩りの準備へ、ドミンゴは狩りでもしていたのか、アイテム整理をすると言ってにゃんごの店へと入っていった。
「クーさん。ポーションを作成、お願いできますか?」
建設準備に取り掛かろうとしたところへ、渚さんがやって来た。
リア彼氏なユキト君は、口数の少ないクールな印象だ。対照的に渚さんは、とても馴染みやすい人だ。
見た目はドミンゴも含めて二十歳前後と、俺と変わらない。
「オケ。いくついる?」
「んー、ユキトぉ」
「ん……」
ユキト君は相槌だけして、スマホを俺に向かって差し出した。
取引?
同じようにスマホを出すと、彼がやって来てアイテム――元気草を二十七枚と、空き瓶を二十七本くれた。
「二十七個でいい? ていうか、採取スキル持ってたのかい?」
「それ、モンスタードロップなの」
「えぇ!?」
「ここから真っ直ぐ北に行った狩場に、『ランラン』がいる」
ユキト君はそこまで話すと、渚さんの方を見た。
たぶん、あとの説明はよろしく、みたいなとこだろう。
苦笑いを浮かべた渚さんが、彼の話を引き継ぎ教えてくれた。
俺はその間、頼まれたポーションを作りながら耳を傾ける。
「名前からして、なんか凄くテンションの高いモンスターなんです。見た目は土団子に、毛が三本……ではなくって、草が三本生えてるんです」
「へんてこなモンスターだね」
「同感」
そう言って笑う渚さんの隣で、ユキト君もニヤりと笑う。
もっと普通に笑ってよ……。
そのランランが、わりと高確率で元気草を落としてくれるそうだ。
雑貨屋でポーションを買うより、俺に依頼して作ってもらった方が安上がりだからと、昨晩の狩りでゲットした草は残しておいたのだと。
「よっし。出来上がりっと」
「わはっ。ありがとうクーさん。これお礼、使えるかしら?」
「ん?」
ポーションと引き換えに貰ったのは、『良く肥えた土』。これもランランのドロップだと彼女は話す。
肥えた土ってことは、畑に使える土だろうな。これを十個貰った。
「そんなお礼しか出来なくってごめんね」
「いやいや。栽培とか農耕スキルもあるし、家を建て終わったら今度は畑にも手を出そうと思ってるから。その時に使うよ」
ちょうど栽培したい物があるからと伝えると、また拾ったら譲ってくれると二人は言う。
「ポーションの製造依頼代として」
ユキト君がぼそりと呟くと、アイテム整理を終えたドミンゴが戻ってきた。
「ユキト、渚さん、行こうぜ」
三人はこれから隠しダンジョンに行くようだ。
モグラキングにはまだ挑めないが、敵の数も多く、定点狩りでも十分稼げるあそこは効率がいいと。
「クーさんも今度一緒に行きましょうね」
「うん。こっちがひと段落したら」
「その頃にはオレも、クーの筋力に追いつくぜ!」
今の俺……筋力21なんだぜ。
渚さんのテレポートで三人が消えると、改めて建設準備に取り掛かった。
「ワオール、今日は俺とお前の二人だけだ。手伝ってくれよな」
『ワオンッ』
「終わったら俺たちも北の方に行ってみよう」
『ワホッ!』
新しい場所に行くのが嬉しいのか、ワオールは尻尾を振りながらぴょんぴょんと駆けまわる。
北の方には行ってないんだよな……。いつも林や隠しダンジョンのある西側か、川がある東側ばかりだし。
南側はその帰りに横断したことぐらいはある。生息するモンスターに代わり映えはしない。
だけどさっきの話を聞く限り、俺の知らないモンスターが居そうだ。
この一軒を建てたら行ってみよう。
俺とワオールの二人で朝八時過ぎから始めた建築作業は、約三時間掛けて一軒の家が建った。
「夜分遅くにすみません。この辺りに開拓中の土地があると聞いてやってきました」
相変わらず、家が建った瞬間にNPCはやってきた。




