037
「ミャーニー! モグラキング倒してきたぞ〜っ」
リリーチェさんのテレポートで凱旋した俺たちを、ミャーニーたちは笑顔で出迎えてくれた。
「ミャー。それで、どんなボスでしたかミャ?」
「えっと……あ」
ボスの情報、ミャーニーに話してもいいものだろうか。
「どうする?」
「もう倒しちゃったし、いいと思う」
「ギルドがあれば情報を買ってくれるらしいんだけどね」
「ご安心くださいミャ。私が知り合いのギルド職員に、情報を買って貰いますミャから。代金はこちらで支払いミャすミャよ」
おぉ!
じゃあミャーニーに情報を売ろう。
こうして俺たちは情報料として、15000Gをゲットした。
「さぁ、清算しましょ」
「モグラキング、意外と良い物出してくれたよね」
二人はワクワクした様子でにゃんごたちの近くに腰を下ろす。俺も同じように、彼らの向かい側に座った。その隣にワオールだ。
空が薄暗くなりはじめる微妙な時間。
焚火に火を灯し、それを囲んでお互いのアイテムゲット報告会だ。
ティト君は土竜籠手という、手の防具をゲットしていた。防御力も高く、追加されるHPも普通の手袋より断然高いとのこと。
これはそのままティト君が使う方が良いだろう。
リリーチェさんはサングラス。
「え、まさかあのサングラス?」
「そうかも。遮光効果って書いてある。一応MP+10だけど……微妙」
「え……割と俺欲しいんだけど」
効果とかMPとかではなく、お洒落として。
そして俺がゲットしたのは、大地のリング。
指輪のアクセサリーで――。
「え!? 『ロック』レベル1が使えるようになるの!?」
「うん、そう書いてある。ただしスキルのレベルは上がらないようだよ」
「だけど欲しいっ」
「じゃあサングラスと交換しないか?」
ロック――土系の攻撃魔法のようだ。
俺には必要ない。魔力1の俺が魔法を使ったって、ロクなダメージは出ないだろう。しかもスキルレベルは上がらないんだ。いつまでたってもゴミみたいなダメージしか出せないってことになる。
サングラスならMPも10だが増える。そうなるとMPは合計60に。
エナジーディストビューでMPを分けられる量も、25から30に増えて有難い。
「性能としては、リングの方が圧倒的に良いよ?」
「でも俺には必要ない装備だし、サングラスの方が俺個人としては良い物だよ」
「そ、それじゃあ……あ、これも貰って! お兄さんだと絶対喜びそう。なんで私がこんなの持ってたんだろう」
リリーチェさんとアイテム交換をし、そこには『よく掘れるスコップ』という道具が。
鑑定すると、『穴掘りモグラが使っていたスコップで、土を掘る効率が二倍になる』と書いてあった。
「効率二倍!! す、凄いっ」
「お兄さんの目、キラキラしてるわね」
「うん。嬉しそう。そのスコップ、たぶんワオールが倒したモグラが落としたんだろうね」
「リリーチェさんっ、ワオール、あとティト君も、ありがとう!!」
受け取ったスコップを取り出してみると、なんともまぁ、柄の部分に『スコップ魂』という文字が。
あぁ、イイ。すっげーイイ。めっちゃかっこイイ。
「じゃあ、夕飯になるまでにゃんごのお家を建てましょう」
「え……穴掘り……」
「お・う・ち。真っ暗になるんだからぁ」
確かに空には星が浮かんでいた。
「ニャー。有難いニャー」
にゃんごが笑顔でこちらを見ている。
顎、撫でてやろう。
「ニャー。ゴロゴロゴロ」
この世界の月は、いつ見ても丸い。
そんな満月の下、リリーチェさんのホーリーライトに照らされて作業は続く。
「筋力なんて上げたくないもんっ」
そう言うリリーチェさんは灯りと、屋根材に青い顔料を塗る作業を手伝ってくれた。
「私でも出来るの?」
「塗る作業は誰でもできますミャ。丁寧に塗れば綺麗に塗れミャすし、大雑把に塗ればムラが出来ミャすミャよ」
「つまり塗装技術はリアル重視なんだな」
刷毛とローラーの二種類を、にゃんごは販売している。
刷毛は当たり前だが、細かい部分用。
屋根材は大きいので、ローラーを購入してリリーチェさんに渡す。
「お兄さん、私ペンキ塗りとかしたことないんだけど……」
「あぁ、うん。コツはね、一度に塗ろうとしないことだ」
ローラーにたっぷりとペンキを染み込ませ、木材にWを描くように乗せていく。
W一回ごとにペンキを点けなおし、全体に配り終えたら塗る向きを変え伸ばしていく。
再び向きを変えジグザグに伸ばしていって、最後は一方方向から伸ばせば色むらも少なく綺麗に塗れる。
「ふぅん。手間がかかるのねぇ」
「ローラーをコロコロするときは、床のゴミ取りのアレみたくやらず、スピードは遅めにね」
「うわぁ、時間掛かりそう」
「うん。そうだねぇ」
「でも頑張る! にゃんご、待っててね」
リリーチェさんの笑顔に、にゃんごは照れ臭そうに顔を赤らめていた。
そして――。
「ニャー。あっしもペンキ塗りぐらいニャら、お手伝いするニャ」
「え、いいの!?」
「ニャー」
おぉ。NPCも手伝ってくれるとか、このゲーム凄くない?
仲良く向かい合わせに作業を進める二人。
こっちも負けていられないな。
ティト君は一度手伝ってくれているのもあって、何をどうすればいいのかよく理解してくれている。
コピーした図面を見ながら、重い木材をテキパキと設置してくれた。
俺はというと……ティト君が立ててくれた柱に筋交いのように木材をかませ、ベニヤ板のように薄い木材を釘で打ち付けていく。
そのベニヤ板に土壁材を塗り込んでいって――。
塗り込んだ場所に、ペンキ塗りを早くも終えたリリーチェさんが薄い煉瓦を、地面から50センチのところまで貼り付ける。
そこに柱立てを全て終えたティト君もやってきて、煉瓦作業に加わる。
空が白み始めた頃、壁を完成させた俺は青い屋根材を釘打ちし――。
『ワオオオオォォォォォォォッ!』
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
「やったぁ〜♪」
「で、出来たあぁぁっ」
「ニャー」
「お疲れ様ですミャー」
「おやおや、完成しましたかぴょん?」
「どれどれ――おぉ、良い店ですの」
青い屋根の平屋建て店舗は、完成した。
そのうちキョウの奥さんやガチャ君、ウドマーの奥さんもやってきて、みんなで完成を祝う万歳三唱が始まる。
「ばんざーい!」
「ばんざいニャー」
「ぴょん」
「万歳ですミャ」
「は? え? な、何事!?」
「ばんざー……うわっ、なんか出てきた!」
青い家の前に、突如人が現れた!?
こ、これはもしや……。
「お、俺ってそんなに、歓迎……されてるの?」
照れ臭そうに顔を真っ赤にしたその男は、紛れもなくプレイヤー。
全員が顔を見合わす。
そして全員が彼を見た。
「え?」
俺たちは呼吸を整え、声を合わせる。
「「ようこそ! 出来立てほやほやの町へ!!」」
ここまでで第一章終了です。




