VRMMOで物作り！～さぁ始めよう、まずは壁からだ～

E.P：壁を作ろう。

036

　モグラキングの咆哮からすぐ、地面が揺れた。

　激しい揺れではない。何かが足元を――地面の中を動いているような、そんな感じだ。

　そして――。

『○※□◇＃△！』

　ティト君の立つ地面のすぐ横から、モグラが登場！？

　その手にスコップを持ち、頭にはお馴染みの『安全第一』ヘルメットを被った奴だ。

　だが奴はすぐさま穴に潜り――移動している？

「お兄ぃ！　足元気を付けてっ」

「え？　わわわっ！」

　リリーチェさんの声に驚いたティト君が、逆に穴へと落ちた。

「うわっ。こ、これ、動けない！」

「なっ」

「お兄ぃ、早く上がって！」

「俺が引っ張るっ」

　急いで駆け寄りティト君を脇の下から抱え上げ、穴から脱出させる。

　その時、モグラキングの振り下ろした爪が、俺の背中にザックリ刺さった。

「痛っー！」

「クーさん！？」

「だ、大丈夫」

　とは言ったが、今の一撃でHPが三割減だ。

　急いでその場から離れ、自前のポーションで回復。

「あっ。また穴掘ってる！」

「なに！？」

　リリーチェさんを見ると、彼女が指差す先に新たに穴が出来上がっていた。

　まさか、キングの咆哮って……手下に落とし穴を掘らせる合図だったのか！？

「こんな穴が足元にあったら、戦いにくいよ」

「お兄ぃ、移動して。足元確認してね」

「わかった」

　ティト君がキングと足元とを確認しながら、じりじりと戦場を移動する。

　――と、彼の進行方向にモグラ！？

「ティト君っ」

「お兄ぃ！」

「うわぁぁっ！」

　再び落ちたティト君を助けるべく、俺は走った。

　そして穴に落ちた。

「だああぁぁぁっ！」

『オオォォン』

　駆けてきたワオールに引き上げられ、そしてすぐさま俺はティト君を引っ張り上げる。

　ぐぅ。落とし穴に落ちると、身動きできないうえに落下のダメージもあるんだな。それほど大きなダメージではないが、穴に落ちている間は無防備だし、これはヤバいぞ。

「お兄ぃ、気を付けてよ。あとお兄さんもっ」

「そ、そんなこと言ったって」

「すみません……」

　助けようとして焦って走ると、自分も落ちるなんて……情けない。

　それもこれも、この穴が！！

「埋めてやるっ」

　戦斧をスコップに持ち替え、ティト君が落ちた穴に土を被せていく。

　穴の周囲はほじくり返した土でこんもりしているので、それを穴に埋め戻すのだ。

　埋めた後、スコップで叩いて――。

「はっはっは。これでどうだ！」

　踏みしめても穴が開くことも、地面が凹むこともない。

　うん。綺麗に元通りになっているな。

「戻せるの！？」

「そんなこと出来るんだ……」

　出来た！

　だが落とし穴は次から次へと増えていく。

　どうやらモグラは一匹じゃないようだ。

「ワオール！　穴掘りモグラが出てきたら、倒してくれっ」

『オン！』

「でも穴から出てくるのは一瞬よ？　上手くワオールちゃんの近くに出てくればいいけど」

　それもそうだな……。

　野生の勘とかで、出てくる位置を予測とかできないだろうか？

　いや……ワオールは動物タイプだ。しかも犬か狼だろう。

　……嗅覚スキル！？

「ワオール、臭いだ！　穴掘りモグラは地面を移動している。なんとか匂いを追えないか？」

『ワンワンッ』

　尻尾を振ったワオールは、次に四つん這いになって地面の匂いを嗅ぐ。

「穴埋めする！」

「全部じゃなくていいです。僕の近くの穴だけでも」

「わかったっ」

「MPも時々お願い。お兄ぃにも」

「オケ」

　ティト君にMPを分け、モグラキングにドレインちゅーちゅー。そして穴を埋める。

　足元を何かが動く気配――。

『○※□◇＃△！』

『ガァァァッ！』

　モグラが飛び出してきたところを、ワオールの右腕が閃く。

　光の藻屑になって消えるモグラ。

　空いた穴は俺がしっかり埋めておいた。

「まだ居るよな？」

『ワン』

　再びワオールが地面の匂いを嗅ぎ始める。

「お兄さんっ、さっきの目眩ましやりたいから、焚火置いてくれる？」

「オケ」

　モグラキングの側面に、焚火をひとつセットし火を点ける。

　当然、奴はサングラスの隙間から差し込む灯りを嫌って、顔を横に向けた。

　その際、モグラキングは目を閉じる。故に生じる隙。

　一瞬の隙を狙ってリリーチェさんが走り込み、キングの間近からホーリーライトを炸裂！

『モッギャアァァッ』

「今よ！」

「"スラッシュ"！」

「うおおおおぉぉぉぉぉっ！」

『ワオオオオオォォォンッ』

　ワオールも後ろで吠える。どうやら穴掘りモグラを仕留めたようだ。

　振り下ろした斧が、頭というかサングラスを抱えて地面に転がるモグラキングを捕らえる。

「もうちょっと！」

「キングのHP、あと二割ぐらいよっ。頑張ろう！」

「おおぉぉっしゃ！」

　再び起き上がったモグラキングがまた咆哮を上げた。

　目眩まし食らったら、穴掘りモグラを呼ぶパターンなのか。

『オオオォォンッ』

　だがこっちには嗅覚に優れたワオールが居る。

　穴から飛び出てきたモグラを、その爪で薙ぎ払っていく。

　それが戦場近くであったら、俺は穴を埋めに走る。

　ティト君の真横に穴が出来た場合、ワオールはモグラを掴んでから移動。そこで止めを刺すという、なんとも気配りができている。

　今回は四匹の穴掘りモグラが居たようだ。

　次々に穴が開いたが、ワオールが確実に仕留めてくれたおかげでティト君も俺も、穴に落ちずに済んだ。

「いっくわよぉ〜！　"ホーリーライト"！！」

　リリーチェさんのホーリーライトから、それぞれが全力攻撃を開始する。

　俺は斧を振り回すだけ。

　こうなると、やっぱり攻撃スキルも欲しいなぁと思う訳で。

　でも今はそんなスキルポイントは無い。

　無い物ねだりなんてしてないで、今できることを全力でやるだけだ！

『ワオンッワオンッ』

　手持無沙汰になったワオールが、俺たちを応援してくれている。

　この後は穴掘りモグラが出るから、待ってるんだぞ。

　だげど……ワオールもモグラキングと戦いたいんだろうな。

　前回、俺たちが惨敗して逃げる間、モグラキングと戦っていたワオールは楽しそうだった。

　それでも俺たちが逃げたことで、ワオールは後を追って戦闘を中断。

　俺たちに花を持たせるためだったのだろうか？

　どうしてワオールが戦闘を中断したのかはわからない。

　わからないけど……ワオールが倒さなかったことで、ティト君とリリーチェさんの「ボスを倒す一番目」が叶う――かもしれないんだ。

「惜しいっ。もう少しで倒せるわね」

「うん。このまま目眩まし無しでゴリ押しできそう」

　起き上がったモグラキングは、恒例のように咆哮する。

　すぐさまワオールが反応し、匂いを辿って穴から飛び出してくるモグラを瞬殺していった。

『ワオッワオッワオッ』

「ありがとうワオールちゃん」

　しぽを振るワオールの目は、モグラキングを見つめていた。

　モグラキングのHPは残り僅か。

　もう……勝ちが確定してるよね？

「あのさ、二人とも。お願いがあるんだけど」

「え？　なんですかクーさん」

「ワオールも……参加させてやりたいんだ。ワオールが強いのはわかってる。でも、もう俺たちの勝ちだろ？」

　ワオールは戦うのが好き。強いモンスターだとなお嬉しい。

　あいつに満足させてやりたい。

　俺……戦闘系じゃないから、いつもあいつには退屈させてると思うし。

　その気持ちは二人には伝えていない。

　それよりも先に――。

「うん。いいよ」

「そうですね。ワオールは僕たちのパーティーメンバーですよね。ごめんねワオール。僕たちの我侭に付き合わせて」

「一緒にモグラキングをぶっ飛ばそう！」

　ぶっ飛ばす……女の子なのに、なかなか過激な発言をするなぁ。

　だけどその言葉を聞いたワオールは、今までにないぐらい尻尾を振って――。

『ワオッワオッワオッワオオォォォッ！』

　嬉しそうに駆けて来た。

「よぉっし、いっくわよぉーっ。"ファイア"！」

「"スラッシュ"！！」

「よし、俺も！　トルネェェッド、アァァックス！」

『オオオォォンッ』

　気合の声を共に、俺は戦斧を握って回転しはじめる。

「え？　攻撃スキル取ったんですか！？」

　いや、ただ俺もカッコよく叫んでみたかっただけです。はい。

　その証拠に、一撃ヒットしたら斧が突然重く感じて落としそうになった。

　もう一撃――そう思って斧を持ち上げ直したら――。

「お兄さん危ない！」

「え？　――おわぁっ」

　モグラキングが俺を襲った――いや、倒れ込んできた！

　間一髪躱すと、モグラキングはそのままどぉっと地面に倒れた。

　そして……ピクリとも動かなくなった。