035
『ウオオオォォォォォンッ』
ワオールは駆け出した。
その声に気づいてノーマルモグラたちがワオール目掛けて駆け出す。
キングは相変わらず、プールサイドよろしくな椅子に腰かけ、日光浴を楽しんでいるかのようなポーズだ。
もちろんここはダンジョン内。太陽なんてどこにもない。
むしろこいつらモグラだろ? 太陽苦手なんじゃ?
そう思いつつ、あのサングラスが気になる。
「じゃあ行きますっ」
「おうっ」
「いってら」
続いて駆け出したティト君は、俺が作った盾を掲げてモグラキングに突撃していく。
青銅の盾を買うには、残金が足りなかったらしい。
お金ってすぐ消えてなくなるよな。
駆けて行ったティト君が、何やらモグラキングに対しスキルを使ったようだ。
直後、黒っぽいモグラキングの顔が赤く染まり、激怒で立ち上がった。
「お兄さん、行こう」
「あ、うん」
リリーチェさんと揃って駆け出し、その頃にはティト君の攻撃も始まる。
続けざまにスキルを連発したようだ。
パーティーを組むと、味方のHPとMPがゲージとして頭上に浮かんで見えるようになる。
緑色の上段がHPで、青色の下段がMP。そう二人に教えて貰った。
今ティト君のMPは、早くも半分近く減っている。
俺と同じで魔力1なんだろうな。だからMP量も少ない。
ふっふっふ。ここは俺の新スキルで!
え、えーっと。スマホスマホ……。
「吹っ飛べぇ! "ファイア"」
「"バッシュ"!!」
二人は易々とスキルを使って――あ、スキル名を叫ぶのか!
なんだ、スマホからわざわざ選択しなくてもいいいわけか。
では――。
「受け取れティト君! "エナジーディストビュー"」
そう叫ぶと、俺の体から青い光の粒がティト君に向かって飛んでいく。
その光が彼に届くと、青い文字で「25」と浮かんだ。
「え? 今の、MP付与ですか!?」
「付与っていうか、分け与える? 自分の今現在のMPの半分を、指定した相手に分け与えるってスキルを取ったんだ」
「えぇー、お兄さんステキ! あ、でも自分の回復は? ポーション飲むんだったら、あんまり意味なけど……」
「うん。その対策もちゃんとしてあるよ」
そして俺はモグラキングの側面に立つ。
「"エナジードレイン"!」
今度は赤い光が俺からモグラキングへと伸びる。伸びた光はまるでチューブのようで、その中を別の光が俺に向かって流れ込んできた。
ティト君に分けたことで減った俺のMPは、毎秒1ずつ回復していく。
敵対象のMPを毎秒スキルレベルと同じだけ吸収し、自分へと還元するスキル。効果時間は十秒。
短いが、そもそもMPが少ない今はこれでいい。
味方にMPを与えるスキル。
敵からMPを吸い取るスキル。
このセットで消費したスキルポイントは800。
「お兄さん、凄いじゃない! でも……私たちの為に? この戦闘の為だけに取ったの?」
「いや、ワオールにも使えるんだ。スキル説明に召喚モンスターにも使用可能ってあったからさ」
これまでのステータスを見ても、ワオールは全然MPが増えないんだよな。
HPは多いのに、MPはずっと50のまま。
この先も増えるかどうかわからない。俺がスキル攻撃を覚えるより、ワオールにMPを分けてやった方がいいと思うんだ。
そう話しながら、重い戦斧をフルスイングする。
ダメージは51。
銅の剣でモグラキングを切っても、ダメージは20も出なかった。
それがどうだ! この斧で二倍以上だぞ。
ただし、キョウが言った通り、すぐさま追撃しようとしても斧が持ち上がらない。
どうもこの『持ち上がらない』ことで、攻撃速度を遅くさせているようだな。
体感だと、ティト君が三回攻撃する間に、こっちは二回かな。
エナジードレインが再使用できるようになったらすぐさまMPを吸い取る。
リリーチェさんを見ると、MPはまだ半分以上残っているようだ。
だけど総MPが俺に比べて多いだろうし、今減っているMPもこちらの半分以上あるかもしれない。分けておこう。
「リリーチェさん! "エナジーディストビュー"」
「わっ。ありがとうお兄さん!」
「ちなみにリリーチェさんのMPって、マックスでいくつなんだい?」
「ん、335」
「多っ!」
俺なんて50なのに……。
ってことは、リリーチェさんのMPゲージ半分のときは、160ぐらい減ってるってことか。
おぉ、25分けた程度じゃあ全然足りないっ。
エナジードレインが再使用できるまで三十秒あるのになぁ。
常にちゅーちゅーして、彼女に分けてあげないと。
しかし……ティト君の防御力が飛躍的に伸びたのもあってか、モグラキングと十分戦えているぞっ。
MP枯渇問題は、リリーチェさんのMP量を聞いてちょっと不安もあるが、そこはポーションでも補って貰うとして。
これは……行けるんじゃないか!
『ワンワンッ』
ワオールが頑張れと声援を送る。
灯り係でもあるワオールは、松明を持って比較的俺たちの近くにいた。
俺の傍に来たいのか、ワオールが松明片手に横に並ぶ。
『モグッ』
「うわっ、喋った!?」
ティト君の驚く声につられ、思わずモグラキングを見た。
そのモグラキングは何故か俺を見ている。
だが攻撃対象はティト君だ。
顔だけこちらに向けて戦っているのか?
何故?
奴の背後に回り込むが、顔はそのまま。ワオールを見ているのか?
ワオールを呼び、二人で背後に立ってみると――ティト君を見た。
どうなってんだ?
今度はヤツの左側面に回り込む――特に変わらない。
ワオールを呼ぶと――こっち見た!
ワオールと一緒にティト君の背後に回れば、くるっと顔をこちらに向ける。
再び元の――奴の右側面に回れば、やっぱり顔をこちらに向けた。
奴が顔の向きを変える瞬間、俺は見た。
「眩しいのか!?」
「え?」
「こいつ、松明の明かりが眩しくて一瞬目を閉じてから顔の向きを変えているんだっ」
奴の顔の向きに対し松明を側面に持っていくと、サングラスの隙間から明かり差し込む。
それが嫌で顔の向きを変えているんだ。
「なるほどね。よぉし、任せて!」
そう言ってリリーチェさんがティト君のすぐ後ろに立つ。
そして――。
「食らえっ。"ホーリーライト"!」
突き出した杖の先から眩い光が発せられる。
『モグゥーッ』
悲鳴を上げたモグラキングはふらふらとバランスを崩し転倒。その上にヒヨコが数羽、ピヨピヨとぐるぐる回る。
「今よ! 最大火力で攻撃してっ」
「"スラッシュ"!!」
「え? え? と、とりあえず――おりゃーっ!」
振り下ろした戦斧のダメージは、なんと117!?
倍以上のダメージだぞっ。
よ、よぉし、もう一発っ。
再び倍近いダメージを叩き出し、嬉々として三発目を入れようとしたらモグラキングが復活。
「今のはなんだったんだ?」
「気絶や昏倒といったバットステータスです。たぶん倒れている間は、被ダメージが二倍になるんですよ」
「他のゲームでもこういうのあるの。だからもしかしてと思って」
おぉ。それは凄い。
じゃあもう一度さっきので――。
だがその前にモグラキングは、腹立たしそうに地面を踏み鳴らした。
『モグキィィィィーングッ』




