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「何だろう……この『質の良いケヤキの丸太』って」
それが取れたのは、種から植えたケヤキからだった。
ただ全部という訳ではなく、二十粒ほど植えた内、質の良いと付いたのは三本だけ。
先輩生産者に聞いてみるか。
【クー:もしもし、フォッカさんですか?】
暫くして返事が来た。
フォッカさんに質の良いケヤキの丸太をゲットした旨を話、これがなんなのか尋ねてみる。
すると、嬉しい返事が返って来た。
【フォッカ:同じ物を作った場合、質の良いって出る素材で作ると】
【フォッカ:少しだけ性能の良い物が作れるの】
【フォッカ:他の素材でもそういうのがあるけど】
【フォッカ:買い取り価格なんかは五倍にまで跳ね上がってるわよ】
これ売ったら金持ちになれそうだ。
というか誰も植林しないのか?
まぁ町の外じゃないと、植えられないんだろうけど。
それを聞くと――。
【フォッカ:誰が植林しても誰でも切り倒せるのよ】
【フォッカ:植林しても気づいたら他人に切り倒されるんだって】
うわー、都会って大変だなぁ。
それに引き換えこっちは、他に誰と言えば双子やNPCだし。
誰も切り倒そうとしないから植林し放題だ。
【フォッカ:でも植林だけで質の良い物が取れるとは思えないんだけど】
【フォッカ:ほかに何かしたの?】
他にといえば、種を植えたところから始めたことぐらいか。
世話はもちろんしていないし。
そう話すと、フォッカさんはこの情報をギルドに売ってもいいか尋ねてきた。
【フォッカ:私は木工も植林も持ってないけど】
【フォッカ:これが広まれば素材の価格も下がってくると思うの】
【フォッカ:そうしたら杖や弓使いが助かると思うし】
彼女は生産者でありながら、購入する側のことも思って価格は安定したほうがいいと語る。
俺もその意見に賛成だ。
【フォッカ:そっちにはギルドが無いんでしょ?】
だから自分が代わりに情報を買う――と。
【フォッカ:ギルドに売るためには、本人にその実績がないとダメなの】
【フォッカ:知り合いの植林持ちにやって貰って、出来上がったらギルドに行くわ】
【クー:でももし俺の考えが間違っていたら?】
【フォッカ:その時はマッキーから損した分を巻き上げるからw】
うん。だったらいいや。
【フォッカ:他に何か欲しいものとかは? 町の工房だといろいろ売ってるけど】
いろいろ?
【クー:あ、そうだ。だったらひとつ頼みたいんだけどいいかな?】
顔料……まだ心残りでもある店舗の屋根に色を塗りたい。
町なら顔料とか取引されていないだろうか?
【フォッカ:それなら工房のNPCが売っているわ】
顔料はひとつ1500Gとやや高め。
大工スキルで着色に必要な顔料の数を見ると、三つと書いてある。
にゃんごやミャーニーの屋根のことも考えて……。
【クー:素材買い取って貰っていいですか? その金額含め手持ちが幾らになるか】
【フォッカ:オッケー】
昨晩のダンジョン狩りでの素材は4982Gになった。
情報は7500G。これまでギルドに売られた情報価格――の情報だと、そのぐらいが平均価格だという。
おぉぉ。これで13000G超えか。
【クー:じゃあ顔料を八個送って貰っていいですか?】
【フォッカ:オッケー。じゃあ差額の482Gと顔料送るわね】
こうして手元に青色顔料が届いた。
これでやっと、本当の意味で完成する。
そして俺の所持金は、再び2000Gを下回るのだった。
質の良いケヤキの丸太は三本あるんだ。
試しにどのくらい性能が違うのか、ワンドを作って比べてみよう。
自動アシストでそれぞれ一本づつワンドを作成。
質の良いケヤキの木材からは『ケヤキのワンド☆』が完成。
魔法攻撃力も追加されるMPも、確かにほんの少しだけ☆有のほうが高かった。
手作業だと品質が良くなるとあったよな……。
じゃあやってみようか!
まず木材を取り出し、杖っぽい形に魔導挽き廻しのこぎりで切り出していく。
のみを使って形を整え――あぁ!
「細く削り過ぎて折れてしまった……でもよかった。普通の木材で」
案外難しいな。
ただのこぎり作業は実際やるのと比べると、力はそれほどいらない。
のみにしても現実で使う彫刻刀の方が、よっぽど手首を痛めるだろってぐらい楽ではある。
逆にそのせいで力加減が難しいってのもあるかもしれないな。
軽〜くいくか。
そうして三十分ほどかけ、やっと杖が一本作れた。
ある程度形が出来ると『完了しますか?』というボタンが、視界にちらちらしていたが。
満足する形になってボタンを押すと出来上がりのようだな。
完成したのは『高品質のケヤキのワンド』。能力は☆付と同じだった。
普通のケヤキの木材で作って☆付と同じか。
じゃあこれに魔力石をどこかにはめ込めばいいんじゃないのか?
じゃあ先端にのみで穴を空けて――あ。
のみを立てた瞬間。ワンドがポキっと折れてしまった……。
一度完成させた物に手を加えるのはダメなのか。
不安だ。もう少し手作りで練習しよう。
次のワンドは無事成功。
その次は形を凝ろうとして失敗。ワンドと言ってもただの棒だ。少しでも喜んで貰いたくて、ちょっとだけ可愛くしてみようと思ったんだけどなぁ。
シンプルだけど、それでいて可愛くみえるように……。
赤い魔力石をはめ込む、もしくは取り付けることも考えて――。
こうして出来上がった試作品は、先端に石を乗せられるように丸くくり抜いた形に。
試しに預かった石を乗せてみる。
もう少し彫を深くしたほうがいいな。
それから微調整をしながら、いざ本番へ!
練習した甲斐あって、木工スキルはレベル3になっている。
素材に魔力石をセットして、いざ――勝負!
GW中はお昼12時に予約更新することが多いと思います。
*所持金に関しての誤字報告がありますが、誤字ではありません。
もともと持っているお金もありますので。




