031
時計のアラームで目を覚ました。
昨日……いや今日か……結局布団に入ったのは三時半過ぎ。
眠い。
だが八時には起きて、顔を洗ってログイン!
「おはこんにちは、にゃんご」
「ニャー。変な挨拶ニャねー」
『ワッフワッフッ』
「お、ワオールもおはこんにちは」
『ワオンッ』
武具店の前では、兎人族のガチャ君が遊んでいた。
ひとりで遊ばせとくのは可哀そうだな。
モグラキングを倒した後、暫く住宅建設に集中しよう。
といっても、伐採植林土掘り――あと採掘もだな。あの辺りは建設に関わる素材集めでもあるし、ローテーションになるんだが。
「あ、お兄さんだ!」
「クーさん、ログインしてたんですか?」
馴染みのある声がして振り返ると、双子が揃って立っていた。
あれ? 午前中は用事があったんじゃ。
そんな疑問が顔に出ていたのか、苦笑いしたティト君が、
「九時過ぎに両親と外出するんです。ちょっと時間あるし、八時半にアラームをセットして少しでもレベル上げをと思って」
「部屋の模様替えするのっ。それでね、可愛いカーテン買って貰うんだぁ――あ、ガチャ君だぁ〜。きゃ〜可愛いっ」
昨夜のキョウさんを見た時とは、随分と態度が違うな。
ワーキャーと叫ぶガチャ君を抱きしめ、めいっぱい頬ずりしてるよ。
「あ、そうだっ。リリーッ、せっかくクーさん居るんだからっ」
「ん? 俺?」
「あぁー。そうよ、お兄さんお願いがあるの!」
「あわわ」
ガチャ君を抱きかかえたままリリーチェさんが戻ってくる。
そしてハーフパンツのポケットからスマホを取り出そうとしているようだが、片手にはガチャ君が。
「リリー、離してあげなよ」
「えぇーっ。ガチャ君可愛いもん、やだぁ」
「リリーチェさん。ガチャ君はぬいぐるみじゃないから……ほら、困ってるし」
ぷぅっと頬を膨らませるリリーチェさんだったが、ガチャ君に「困ってる?」と尋ね、素直に頷いた彼を見て諦めたようだ。
解放されたガチャ君が飛んで逃げていく。
「そ、それで俺にお願いって?」
「あっ、そうそう。これなの!」
すぐに気を取り直したリリーチェさんは、スマホの画面を俺に見せた。
それはアイテムボックスの画面で、彼女は指差す先に赤い石があった。
「これ、魔力石なの」
「魔力石?」
「うん、そう。どこのエリアでもね、装備にステータス補正を付けられる石がドロップするって情報を見たの」
「魔力と筋力の二つしか確認されてないようで、耐久は無いみたいなんです」
石が目的ではなかったけれど、早朝からの狩りでこれが出たようだ。
「赤い石なのに、これを出したのってグリーンスライムなんだよぉ」
「あぁ、あのスライムか」
楕円形のぽよんぽよんした半透明のゼリー体。
口は無いが、何故かつぶらな瞳だけはあって、意外と可愛いヤツだ。
「この石を素材にして、杖を作って欲しいの。少しでも火力アップに繋がるし」
「え、でも武具店が出来てるよ?」
「うん。品揃え一通り見たんだけど、昨日お兄さんに作って貰った武器の次となると、魔力が20も必要だったの」
「今は?」
「やっと10になったところぉ」
うん。それだとモグラキング戦には間に合いそうにないね。
それに引き換え俺が作ったケヤキのワンドは、魔力6から装備可能だった。
「わかった。じゃあ再戦前に作っておくよ」
「やった〜。じゃあ木材代は――」
「うぅん。木材は正直タダだからなぁ」
「ダーメ。ちゃんと払うの。えぇっと、ケヤキのワンドが1800Gだったから――」
手持ちのお金が少ないってことで、俺が素材をNPC価格+2Gで買い取った。
「じゃあ僕たちお出かけの準備するんで、これで一旦落ちますね」
「お兄さんよろしくお願いします。失敗、しないでね」
「うん、わかった――え?」
二人の姿がすぅっと消えた後、俺はリリーチェさんの言葉の意味を考えた。
失敗しないで?
え?
杖作りって、失敗するのか?
慌てて武具店に駆け込み、キョウの下へ。
「いらっしゃいませぴょん」
「キョウ! 武器を作るのって、失敗とかあるのか!?」
首を傾げたキョウは、一呼吸して、
「当たり前ですぴょん。武器に限らず、全ての製造には成功と失敗がありますぴょん」
「なんだって!?」
叫んでみて思い出した。
そういえば煉瓦を作るときも、燃焼後に割れて使えない物があったな。
ポーションにしても、火にかけ過ぎて焦がしたり、液を零してしまったり……。
そんな……失敗があるなんて……。
どうしよう。この魔力石。
素材まで貰ったのに、失敗しちゃったら俺……。
はっ。そうだよ。キョウが居るじゃないか!
「キョウ、お願いがあるんだっ」
「はい、ぴょん」
「俺の代わりに杖を作ってくれ!」
「無理ですぴょん。わたくし、スキルは鍛冶であって、木工ではありませんですぴょん」
あぁぁーっ、しまったぁぁ。
L字になったカウンター。奥側にはウドマーもいる。彼なら――。
あ、目線逸らした!
「まさかウドマー……」
「儂は鍛冶スキルは持っているクマァァだが、得意なのは彫金と料理クマァァッ」
何故料理……。
「木工は?」
ウドマーは首を振る。
そ、そんな……。
「製造に自信がないクマァァッなら、経験を積むことですクマァァッ」
「経験?」
「何度も何度も製造してみなさい。そうすれば少しずつ成功率も上がってくるクマァァッ」
「本当か!?」
「本当ですぴょん」
向こうでキョウが言う。
経験……スキルレベルのことだろうか。
確かにレベルが低いと、成功率だって低そうだよな。
うぅん、これは困ったな。
スキルポイント稼ぎに木工のレベル上げ。
やることが増えたが時間は増えない。
となると、まずは――。
「ワオール、今すぐ狩りに行くぞ!」
『ワオッ』
スキルポイントを稼ぐための、効率のいい狩場を求め東へと移動。
いつもなら嬉々としてモンスターを瞬殺していくワオールが、今日は全スルーしている。
もっともこの辺りはノンアクティブゾーンだ。
そしてアクティブモンスターのやば草や仔コヨーテが出てくると、ここでワオールはデストロイを開始した。
「この辺りの敵ならスキルポイントが入るのか?」
『ウォン』
「そうか。なら俺も――」
銅の剣による攻撃は、ネズミや兎に比べると若干ダメージが減っている。
敵の防御力が高いからだろうか。
だけど三発で倒せるのでそれほど苦労はしない。
攻撃スキルが無いので、ひたすら銅の剣で斬りつけるだけ。
ちょっと戦いらしく、敵の動きをよく見て隙を伺ってみたり――うぅん、なんかモンスターの攻撃って、案外単調? その上、次の攻撃までの間が随分長い気がする。
これ、観察するよりさっさと攻撃した方が良さそうだな。
それに、ちょっと観察したことでわかったが、モンスターが攻撃する時って何かしら溜めモーションみたいなのが発生している。
溜めからのー、攻撃! というタイミングで左右後ろに躱せば、上手く回避も出来るようだ。
案外このゲーム、初心者に優しい設計なんだな。
少しずつ川に向かって進みながら、出会う敵全てを狩っていく。
川まで100メートルぐらいのところまで来ると、生息するモンスターの種類も増えた。
そこでワオールが俺に指示っぽいものを出す。
蟹が居たので斬りかかろうとすると、ワオールに制止され、代わりにあれを斬れとばかりイモリを指差す。
あーうん。たぶん蟹は固くて、イモリは柔らかい。だからダメージが通りやすいんだろうな。
そうしてスキルポイントが800を超えるまで、俺たちは必死狩りを続けた。
目標を達成したら急いで帰還。
今度は木工のスキル上げだ。
製造を繰り返せってことだが、作るものは何でもいいんだろうか?
どうせなら後々役に立ちそうな道具とかがいいんだが。
それを尋ねにキョウの所へと行くと、
「もちろんなんでもいいですぴょん。ではこういうのはどうでしょう? 後ろの壁に棚を作って頂きたいのです。商品を飾るためのね、ぴょん」
【キョウから商品棚作成依頼のクエストが発注されました】
【受諾しますか? YES / NO 】
YESでしょう!




