029
「あんなの兎じゃない。兎じゃないんだからっ」
涙目でそう呟きながら、リリーチェさんはログアウトしていった。
「僕たち、明日は午前中に用事があってログイン出来ないと思うんです。だから再戦はお昼からでいいですか? 一時過ぎにはログインできますので」
明日――中学生なのに午後からログインできる?
疑問に思っていたら「明日は祝日ですよ?」とティト君が。
おおおぉぉぉぉっ。祝日!
ガッツリ遊べる!!
再戦は明日の昼二時からと約束をして、ティト君もログアウト。
俺は――兎人族のキョウに店舗案内をするか。
だってこの兎マン……ずっと俺を見てるんだもんな。
それにしても。
「凄い筋肉ですね」
「ふっふっふ。自慢の筋肉ですぴょん」
「もしかして鍛冶スキル持ちで?」
「はいですぴょん」
俺は心でガッツポーズを作る。
兎というよりはカンガルーの雄に近いその見た目は、鍛冶職人らしいと言えばらしい。
でも――ふと俺は思った。
たったひとりで武器と防具を取り扱うのだろうか?
お店のカウンターはかなり大きく作っている。
たぶん、大勢のプレイヤーが来ても対応できるように、なんだろう。まぁ百人も入れないけどな。
「あ、ここが店舗です。二階が住居ですよ」
「なかなか立派なお店ですぴょん。けれど他に建物が無いのですね〜」
「あー……ここは何もない、ただの草原だったんだけど――」
にゃんごとワオール、そして俺の三人でここから始まった。
壁を作りにゃんごの店を建てようと計画したが、双子がやってきて、そして名前も知らない女性がやってきて――。
何もない、壁しかない今の状況だと他のプレイヤーが回れ右することを知った。
双子は残ってくれているが……そんな二人の為にも、まず必要な武器防具屋を優先したことをキョウに話す。
「そんなことが……にゃんごさん、お先に頂いてしまってよろしいのですかぴょん?」
「ニャー。あっしは野宿に慣れてますニャ。それに店が無くても商売は出来るニャよ」
「そうですか……ありがとうございますぴょん。このキョウ、お客様にご満足いただけるよう、誠心誠意を持って働きますぴょん」
キョウさんが出来立てほやほやのカウンターを撫でる。
長身で逞しいキョウさんでも、やっぱりこのカウンターは大きいなぁ。
「ではさっそく、妻と息子を呼び寄せますぴょん。あとわたくし、武器専門ですぴょんから、あとは防具専門の方が来てくれるといいですねぇ」
「え? 武器専門??」
「はい。わたくしたち武具専門商人は、取り扱う品数が多いものですから、武器と防具、それぞれに分かれて商売しているのですぴょん」
「へぇ〜」
真っ白い毛並みに真っ白いオーバーオールを着たキョウは、そのポケットから手紙を取り出す。
そしていったん外に出ると、どこからともなく飛んできた鳩がそれをくわえて空へと舞い上がった。
伝書鳩かぁ。
あっという間に見えなくなった鳩。
その直後――。
「誰か来たみたいですミャー」
「おぉ、妻と息子かもしれないぴょん」
え……だって数十秒前に鳩が手紙加えて飛んでいったばかりじゃん。
今度はキョウを含めた全員で門に向かい、それを開くと――。
暗闇の中、光る眼が二組あった。
「はじめましてウサ。私、キョウの妻のヒヨリと申しますウサ。こっちは息子のガチャですウサ」
「む、息子のガチャですピョ」
そう自己紹介するのは首元や口、鼻回りだけが白く、他が小麦色の毛並みをした兎人族。
うん。胸の膨らみがある当たり、見た目でも女の人だとわかる。
そんなヒヨリさんの横には、ミャーニーと同じぐらいの背丈をした、こちらは白に小麦色のぶち模様の兎人族だ。
マッチョではないので、ふわもこだけが際立って可愛い。
なるほど。家族で店舗を切り盛りするのか。
じゃあ奥さんが防具専門?
彼女らを招き入れ門を閉じると、その直後――。
「夜分遅くごめんくださいクマァァ」
門の外から野太い声が聞こえた。
「おぉ。ここが店舗クマァァか」
そう言ってツキノワグマが店舗を見上げる。
熊人族。もう見たまんまだ。
黒い毛皮に首元に三日月のような白い毛が生え、赤いベストに茶色いズボンを穿いた熊、だ。
語尾のクマァァと叫ぶとき、目をカっと見開くので、一瞬食われるのかとビクビクしてしまう。
「防具専門商人も揃いましたぴょんね」
「わーい、パパのお店〜パパのお店〜ピョ」
ガチャ君は嬉しそうに、まさにぴょんぴょん飛び跳ねている。
それから新しくやって来た防具専門商人のウドマーにぺこりと挨拶をした。
その頭を大きく太い手で撫でてやるウドマー。
逃げてガチャ君、逃げてーっ!
かれもまた、妻を呼び寄せると言って手紙を書き、それをどこからともなくやってきた鳩にくわえさせ――。
数十秒後、ミャーニーが「誰か来ましたミャ」と言って、そして全員でお出迎え。
「こんばんは。私、ウドマーの妻のローラと申します」
女熊人族。旦那さんと見比べても、どっちが男でどっちが女かさっぱりわからない。
それから二つの家族は、それぞれの家となる部屋へと向かった。
寝るのだとか。
家具は?
え、持参している?
どこに――アイテムボックス?
NPCも持ってるのか。
「そうか。二階部分が二つに分かれていたのは、二家族分だからなぁ」
「そうですミャ」
「よぉし、次こそはにゃんごの店を作るぞ。それからミャーニーの家も建てなきゃな」
「わ、私の家もですミャ!?」
その為にも伐採しまくらなきゃな。今回ので木材をほぼ使い切ったし。
幸い植林場もすぐ近くだ。
「切って切って切りまくるぞ!」
『ワオォ』
ワオールと二人出て行くと、焚火を点けて伐採作業に取り掛かった。
装備で補強された今、夜のモンスターも既に俺の敵ではない。
だが伐採作業をやりたいので、戦闘はワオールに頼もう。
「ワオール、悪いけどモンスターの掃除を頼めるか?」
『オンッ』
嬉しそうに尻尾を振るワオールは、いつものようにモンスターを瞬殺していく。
最近はもうスキルを使わず伐採が出来るようになってきた。
伐採スキルのレベルなのか、それとも植林スキルなのか……伐採した数と同じ苗木が手に入るようになったな。
これで丸太永久機関が完成。
とはいえ、元々の数が少なかったので一度は遠くに伐採しに行かなきゃな。
「ん? この木……実が成ってる?」
横に広がった枝の先、葉の根本に緑色の小さな実が成っている。
取れるかな――取れた。
アイテムボックスには『ケヤキの種』と出る。
「うおおぉぉぉっ、種ゲット!」
『ワオオォォォォンッ』
ワオールも雄叫びを上げる。
その頃にはもう空は明るく、アクティブモンスターの姿も消えていた。
植林した木も伐採し終えたし、苗木を全部植えて……種は少し離れた場所に植えよう。
わかりやすく、木材で囲っておこう。
「よし、ワオール。ちょっと遠くまで行こう」
『ワホッ!』
ワオール、大喜びだ。
やっぱり強い敵と戦いたいのかと尋ねると頷いて答える。
うぅん。じゃあ――。
「隠しダンジョンより先に行ってみるか?」
『オォォォォォォンッ』
雄たけびを上げたワオールは、早く行こうと言わんばかりに尻尾を振るう。
駆け足で隠しダンジョン方面へと向かい、その先にある丘を目指した。
キャラ名に困ったとき。
知り合い作家さんの名前を盗用すr




