023
四限目の講義も終え、早歩きで帰宅。
今日は俺も早めに晩ご飯を食べて六時前にはログインした。
ゲーム内の空は白み始めた頃。もうすぐ朝ってところか。
「ワオール、おはよう」
『ワオンッ』
尻尾ふりふり、いつ見てもカッコ可愛いなぁ。
「ワオール、双子はまだ来てないか?」
『オンッ』
ワオールが頷く。
よし、じゃあ今のうちに杖と盾を作ろう。
昨日はレア素材のことを考えて、作業が中断したからな。
スマホからスキルを選び、次に【装備品】を選んで素材を確定……ん?
【自動アシスト】か【手作業】かを選べるんだな。
それぞれの項目に下に、説明というのがあるのでそれをタップ。吹き出しが出てきて簡単な説明書きがあった。
【自動アシスト】:実際の作業工程を簡略化させ、作業ゲージが溜まれば完了となる。
【手作業】:実際に作る工程に似た動作を行うことで作成する。時間は掛かるが自動アシストで作成した物より高品質になることがある。
うぅん。気持ちとしては手作業なんだが、時間がないもんなぁ。
仕方ない。今回は自動アシストを使おう。
そうして完成したのは『ケヤキのワンド』と『木の小盾』が三つだ。
盾は俺がひとつ装備っと。
「ワオールは装備できないのかな?」
試しに盾を差し出すが、耳を伏せて首を左右に振る。
ダメらしい。
おっと、フォッカさんに作って貰ったヤツも装備しなきゃな。
レザーアーマーと毛皮のブーツ――おぉ、HPがすっげー増えた!
残念ながら盾にHP増加効果は無く、レザーアーマーで+105、毛皮のブーツで+20。これでHPが合計325だ!
「うおおおぉぉぉぉっ」
『ワオオオォォォォッ』
「今度は何ニャ」
「賑やかですミャー」
ワオールには遠く及ばないが、これで少しは生存率も高くなっただろう。
さぁ、あとは――。
「あ、クーさんこんばんは〜」
「キター!」
「あ、お兄さんおはよう〜」
「揃ったーっ!」
「「え?」」
ログインしてきた二人に、隠しダンジョンのことを話す。
当然二人は食いついてきた。
「ダンジョン!?」
「行きたいっ。お兄さん連れていってぇ」
「任せたまえ。その前に――これ」
作った装備を――えぇっと、スマホを出して貰って、くっつけて、フリックだったな。
スマホを出すよう二人に言って装備をフリックする。
「え? ど、どうしたんですか、これっ」
「ワンド!?」
「さっき俺が作ったんだ。ダンジョンに行くなら、装備を揃えた方が良いってにゃんごが言ってたし」
今俺が作れる物と言ったらこんなものだけど。
そう話すと二人は、ちょっと困ったような顔をした。
「ありがとうございます、クーさん。でも……無償で何かをくれるのは、これで最後にしてください」
「お兄さんってもしかしてオンラインゲーム、はじめて?」
言われて頷く。
無償で何か――ゲームなんだし、対価を求めることでもないと思ったんだが。
「お兄さんあのね。親切なのはいいと思うの。でもね、その親切に付け込んで、楽をしようとする人もオンラインゲームにはたくさん居るの」
「そういう人に捕まると、大変ですよ。タダで何かして貰って当たり前。高級装備をタダで貰って当たり前。そういう人、いますから」
「お兄さんがそういう人に捕まって、苦労するの見たくないし」
う……そ、そうか。
俺がやってることって、相手に貢いでるようなもんなのか。
そりゃあ俺だって、友達が意味も無くおごってくれたりすると困る時あるもんな。
何か企んでやしないかって。
いやいや、俺は何も企んでないよ?
二人にはキャラリセして他の所に行って欲しくないだけだから。
あ、企んでるのか。
「それだけじゃないんです。こういうゲームって、欲しい物を苦労して手に入れるのも、楽しみのひとつですから」
「うん。だからね、次はちゃんと製造依頼させて欲しいの」
そう……か。
俺、二人の楽しみを奪おうともしていたのか。
「うん、わかった。二人とも、ごめんな」
「いえ、クーさんは親切にしてくださっただけなんですから、謝る必要はないんです」
「MMOってギスギスしてるところもあるから、お兄さんお人好しそうで心配〜」
「今は僕たちしか居ないけど、人が増えてきたら騙されないか心配だねぇ」
「ぐ……子供に心配される俺って……」
「えぇー、子供扱いしてるー。お兄さん大人なの? もしかして本当はおじさんなの?」
「お、おじ!? 今年二十歳になったばかりだよ!」
「びみょー。二十歳って微妙よぉ」
まぁ……大学生だし、親のすねかじりだし? そりゃあ大人と言うには微妙だけどさぁ。
そういえばこの二人。見た目は中学生ぐらいだけど……アバターだし、見た目のまんまって訳じゃないもんな。
実は大人だったりして!?
「ちなみに私たちはピチピチの十四歳よ」
「ピチピチって言わないでよ恥ずかしい」
ピチピチだった……。
ワオールと穴掘りした現場へとやって来た。
「ピ、ピッケル買ったし、ちょっと掘ってもいい?」
穴の底は岩がむき出しになっていて、ツルハシで採掘が出来るハズだ。
居ても経ってもいられずそう尋ねると、二人はぽかーんとした顔で穴の底を見ていた。
「隠しダンジョンって……この穴?」
「この穴は俺とワオールで掘ったんだ。な?」
『ワホッ』
「掘った……」
「ほら、粘土に錬金するためさ」
「「あぁ……」」
梯子を使って先に降りた俺は、ツルハシで岩をガッツンガッツン砕く。
アイテムボックスを確認すると『石』と『鉄鉱石』というのが入って――。
「うおおおぉぉぉっ、鉄鉱石キマシターッ」
『ワオオオォォォォンッ』
「ひえっ。ビ、ビックリした。どうしたんですか?」
「なに今の遠吠えぇ」
「鉄鉱石!」
取れたてほやほやの鉄鉱石を二人に見せると、何故か顔が引きつっていた。
「お兄さん、楽しそうね」
「うん……僕たち入り口を確認するんで、もう少し掘っててもいいですよ」
「本当か!? あ、ワオールは二人と一緒にいてやってくれ」
『ワホッ』
お言葉に甘えてガツガツ岩を砕く。
ん? なんか黒いものが混ざってるな。なんだこれ?
アイテムボックスを確認すると、石炭が入っていた……。
今の黒いのが石炭なのか。そのうち石油でも出てくるんじゃないか?
「クーさん、入り口の周辺は安全っぽいです。中に入りませんか?」
「お、行くー」
「じゃあクーさんにパーティー飛ばしますね」
パーティーを飛ばす?
思わず空を見上げると、【ティトさんからパーティー申請が届いています】というメッセージが浮かんでいた。
クーの心の声は作者の心の声。
さて、どこでしょう。
*大学までの通学手段を自転車→徒歩に変更しました。
10話にあった「自転車で15分の距離」という文章も、徒歩で~に変更。
かなり近い距離に自宅があることになります。きっと羨ましがられることでしょう。