022
大学で駒田とゲームの話で盛り上がる。
「へぇ。ついにプレイヤーが現れたのか。あ、言っとくけど俺は情報をお漏らししてないからな」
「わかってる。その双子は物作り系じゃなかったし、適当に送り飛ばされてきたっぽい」
他にも来たプレイヤーは居たんだ。
でもみんな、何も無さすぎる場所にショックを受けて、キャラリセしてしまったのだ。
それも話すと、駒田は「やっぱりねー」と納得顔。
「そりゃあ何も無い所で始めるって、ハードル高すぎるわ。その双子はキャラリセしなきゃいいな」
「その為にも武具店を早く建てたいんだ。でもその前に双子と隠しダンジョンに行く。約束はしてないけど」
「え……お前、今何て言った?」
駒田が食いついた。
にゃんごとミャーニーに聞いた隠しダンジョンのことを話すと、駒田の目の色が変わる。
どこにあったと尋ねられ、地面の中だと答える。
首を傾げる駒田。
土が欲しいから掘ったら、別の穴に貫通したと話すと頭を抱える駒田。
「そうか。RPGらしからぬ行動をするお前だからこそ、見つけられたのか」
「俺って変なのか?」
「わりとな」
知らなかった。
「しかしなんで土なんか?」
「土と水を錬金すると、粘土になるんだ」
「その情報は知ってる」
「粘土を燃やすと煉瓦になるんだ」
「まぁそうだろうな。て、煉瓦欲しさに土なのか!?」
頷くと、町では煉瓦が売っているのだと駒田が教えてくれた。
ナニソレウラヤマシイ。
だけど売ってるってことは、お金がいるってことだ。
こっちは土をタダで仕入れてきている。水もだ。今では空き瓶いらずだし、完全にタダで作れる。
やっぱり羨ましくはないな。
「それでさ。ダンジョン行くために装備が必要らしいんだ」
「うん、まぁ当たり前だな。ってかお前、未だに何も装備してないのか?」
当たり前じゃないか。
「あー、そもそも雑貨屋しかないんだっけ。それだと最低限の装備だな。なんだったら俺がこっちで買って送るか? もちろんお金は貰う」
「そのお金があんまりないんだよ。だからポーション買ってくれないか?」
「それは構わないが……あぁ、それならさ。俺が知り合い紹介するよ」
「知り合い?」
なんでも駒田の知り合いに、生産と冒険の両立をしている人がいるのだとか。
作りたい物を絞ってスキルを絞れば、三つ四つでなんとかなる。残りを全部戦闘系スキルにすれば、立派に両立できるのだとか。
「お前みたいに生産で固める方が珍しんだよ」
「ふぅーん。それで、タダで装備くれるのか?」
「いや、タダじゃなくってさ……。お前、素材蓄えてるだろ?」
「最近は売ってる」
それを聞いて駒田は「アチャー」と声を上げた。
「その素材を知り合いに売ってやってくれよ。NPC価格より少し高く買ってくれるからさ」
「ほほぉ」
ついでに自分が作って欲しい装備なら、素材を渡すだけで作ってくれるそうだ。
「ほら、素材のドロップ率って悪いだろ? 解体スキル無しだとなかなかなぁ」
「その人は解体を持ってないのか?」
「持ってるけど、それでも足りないんだよ。自分ひとりなら間に合うけど、販売用ともなるとな」
ドロップ率が低いから、買取をしても数が集まらない。
後発組のプレイヤーなんかは、それを見越して解体スキルを最初から取って来る人が多いらしい。売って儲ける為にだ。
「解体スキル持ちは、早々に力のある生産者に囲われて、結局他の生産プレイヤーは品薄状態が続いてんだ」
「なるほどねぇ。俺は彫金と木工があるけど、他の生産スキル無いから売ってもいいぞ」
「やりいっ。じゃあ連絡入れとくから……お前、次いつログインする?」
「一限終わったらコレの通院」
そう言ってギブスを見せる。
治療費貰うために、定期通院しなきゃならないんだ。まぁ週一だけどな。
病院のあとは一旦家に戻って、昼ご飯を食べるつもりでいる。
出来ればゲームにもログインしたい。
「そっか。じゃあ一時半頃に向こうからメッセージ入れて貰うよう伝えとく。名前は『フォッカ』な」
「オケ。じゃあ一時半前にはログインしておくよ」
四限目が三時過ぎからだ。二時半にはログアウトして大学の準備をしなきゃならないな。
ま、一時間あれば十分だろう。
病院から帰宅。
痛みが無いか、痺れが無いか、あとレントゲン撮って異常なし。
サクっと終わって、家に帰りついたのは十二時前。
片手でも卵は割れる。フライ返しも使える。ただし左手なので若干下手くそ。
そんな崩れかけの目玉焼きと茶漬けで昼ご飯を済ませ、さっそくログイン!
ゲーム内は日中に移ってすぐのようだな。
連絡が来るまで建築の続きをするか。
えぇっと、土壁は土に水を混ぜるだけ。粘土の時は桶一杯で土十個だったが……。
錬金スキルを使って、まずは桶一杯の水。土を五個にしてみる――柔らかい粘土が完成予定枠に出てきた。
そこから一つずつ減らしていくと、土三つのところで『土壁材』になった。
土壁材もそのままアイテムボックスに入る。
これ、塗る時には別の容器に入れなきゃダメだよな?
そう思ったんだが――。
にゃんごから『左官ごてセット』を500Gで買い、これを持って建設区画へと入る。
そして【建設作業再開】を押すと、壁にマーカーが浮かんだ。
土壁材を持っていないのに、こてをマーカーに押し当てると自動で土壁材が出現!
あぁ、便利だな。いちいちすくったりしなくて済むから。
で、ひと塗すれば、何故か三倍ぐらいの面積に土壁材が。しかも綺麗に塗れているし。
さくさくと塗り進めていると、一階部分が終わった頃にメッセージが入った。
【フォッカ:はじめましてー?】
お、駒田の言っていた知り合いの人だな。
【クー:初めまして、駒田の友人の栗木です】
【フォッカ:リアルネーム出さない方がいいですよw】
【フォッカ:まぁ私は知っているのでいいんですが】
おっと。オンラインゲームとかでは、本名厳禁だったな。
あぶないあぶない。
【クー:初めまして、マッキーの友人のクーです】
【フォッカ:リセットしたw】
【クー:すみません。慣れてなくって】
【フォッカ:VR初めてだそうですね〜】
【クー:はい。ネトゲとかがそもそも初めてで】
【フォッカ:初々しいなぁ〜w あ、本題なんですが】
【フォッカ:今大丈夫ですか?】
作業を一時中断させ、腰を下ろしてフォッカさんとメッセージでやり取りをする。
その間、ワオールは狩りだ。遠くで雄叫びが聞こえてくる。
まずはフォッカさんが持つ生産スキル、『裁縫』と『革職人』で使える素材を買い取りたいという話に。
そして俺の方でも、最低限の装備を作って欲しいと伝える。
【フォッカ:耐久の数値教えて貰っていいですか?】
【フォッカ:耐久がそこそこあればレザーアーマーも作れるので】
【クー:皮鎧ですか?】
【フォッカ:いえ、レザーアーマーなんです。直訳すると同じなんですが】
【フォッカ:性能はそれより少しだけ上になってるんですよw】
おおぉぉっ。それは有難い。
俺の耐久は5になっていた。
それを伝えると、レザーアーマーがちょうど5から装備可能だった。。
【フォッカ:材料は森林仔ウルフの皮なんですけど】
【クー:持ってないなぁ。森林仔ウルフってのがそもそもいないし】
もっと言えば森林が無い。
手持ちの毛皮を羅列していくと、仔コヨーテがもしかして――となった。
【フォッカ:売って貰えるアイテムを、一度送って貰っていいですか?】
【フォッカ:金額の計算もしますし、作れる装備がわかったら連絡します】
【クー:オケです】
【フォッカ:あと、マッキー伝手ではありますけど】
【フォッカ:本来なら素材先渡しなんて有り得ないですから】
フォッカさんは、今後人と取引する際、必ずお金とアイテムは同時渡しにしなきゃダメだと話す。
買取をしているプレイヤーがいたとして、相手が「お金は後払いで先にアイテム渡してください」なんて言っても、絶対信用するな、と。
【フォッカ:それでアイテムを騙し取る人居るんですよ】
【フォッカ:この町でも騙し取られたって報告、ちらほら耳にしているんで】
【フォッカ:私が持ち逃げした場合、マッキーにお金貰ってくださいね♪】
【クー:はい!】
こうしてフォッカさんとフレンド登録をし、宅配で毛皮と糸を送る。
しばらくして、仔コヨーテの毛皮はレザーアーマーの材料になると返事が返ってきた。
【フォッカ:あと靴も作れますよ】
【クー:おぉぉお願いします!】
【フォッカ:防具で他に欲しい物ありますか?】
服と靴があればなんとかなるだろう。
残った素材を買い取って貰うことに。
買取は町の方だと、NPC価格の+4〜5Gだという。
駒田の知り合いだし、今後もお世話になるかもしれないから――。
【クー:+2Gでいいです】
【フォッカ:いいんですか!? +3Gで交渉しようと思ってたんだけど】
【クー:こっちに他の生産者が現れるまでお世話になるかもしれないんで】
【フォッカ:よろこんで!】
そうして送られてきた金額は2998G!
毛皮系だけでこの金額!
蓄えてて良かった。