019
東に向かって駆け足すること十分。
生息するモンスターのラインナップが変わった。
林周辺に生息していて拠点付近には居なかったマンティスが、ここでも出るようになった。
兎やネズミが消え、代わりに桜島大根みたいな奴がぽてぽて歩くように。ただし紫色と、かなり毒々しい。その名も『ヤバ草』。いろいろやばそうだ。
更に仔コヨーテという、現実のそれそのまんまなモンスターまで出てきた。『仔』が付くってことは、子供なんだろう。
「うぅん。俺の素手パンチじゃこいつらのHP、一割ぐらいしか減らせないな」
『オォーン』
「お前は相変わらず一撃なんだな」
更にマンティス以外はアクティブモンスターだ。
怖い。
対照的にワオールは嬉しそうだ。
初対面の敵に興奮しているようだな。
ワオールが仔コヨーテを仕留めると、急いで解体する。
終わったらそのまま採取して、薬草を摘み取っていく。
襲われそうになったら素手で殴り、気づいたワオールがすぐさま助けに来てくれる。
ただ一撃攻撃を食らえば結構痛い。
うぅん。こうなるとやっぱり防具だけでも装備するべきなのかもなぁ。
結局、川の近くまで来たものの、傍までは行けず。夕方になり拠点へと戻った。
「あ、お兄さんだ〜」
「お帰りなさい」
「お、二人とも戻って来ていたのか」
にゃんごたちと談笑していたのか、にこにこ顔の四人が出迎えてくれた。
「夜はアクティブモンスターが出るっていうんで、ここの近くで狩りをしようと思って」
「でもその前に休憩ね」
「そうなんだ。東の方に行くと、日中でもアクティブなのいたよ」
そう話しつつ、収集品をにゃんごに買い取って貰う。
あれ? また武器をドロップしているな。
じゃあ鑑定っと。
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シックルソード:片手剣
効果:鎌のように刃の部分が湾曲した片手剣。
攻撃力+28
必要筋力:3
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ふぅーん。相変わらずいいのかどうかわからない。
試しににゃんごの店の装備を見てみよう。
銅の剣。これが同じ片手剣で1500G。攻撃力は+10とある。
うわぉ。倍以上あるじゃん。
あ、ついでだから防具も。
旅人の服。HP+70防御力+10で1000G。皮の鎧はHP+95防御力+18で価格は2000G。
たっか!
「にゃんご、シックルソードって幾らで買い取れるんだ?」
「ニャー。それはなかなかいい物だニャー。青銅と鉄の中間ぐらいの攻撃力があるニが、軽い武器ニャから筋力が低くても扱えるという優れ物ニャよ。買いとるなら2300Gぐらいニャかねぇ」
「ってことは、この前のボーンナイフよりも上なのか」
「ニャー。ボーンナイフは青銅並みニャよ」
ちなみに買取価格は売値の半分といったところらしい。
じゃあ販売価格は4600Gか。
銅が1500Gだし、価格が跳ね上がってるなぁ。
解体のおかげでドロップもそこそこだ。
仔コヨーテの肉は、鑑定結果を見ると美味しくないらしい。
素材だが肉は結構あるし、売ってしまおう。
合計2119G!
「うおおぉぉぉぉ、稼いだ!」
『ワオオォォォッ!』
「ひゃっ」
「なに?」
「ニャー。気にしないでいいニャよ。この人たち、いつもこんニャだから」
「お元気ですミャねー」
日が暮れて、今度は武具店建設に取り掛かる。
「お兄さん、灯りが要るなら点けてあげようか?」
「ん? 焚火なら持ってるけど」
「ううん、違うの。魔法の灯り。見てて――」
そう言ってリリーチェさんが木の棒を振る。
「――"ホーリーライト"」
木の棒からぽわぁっと光が出て、それが地面にすぅっと降りていく。
まるで電球のように光るそれは、地面の上で周辺を明るく照らし出す。
「有効時間は五分なんだけどね」
と照れ笑いをするリリーチェさん。
「そういえばクーさんは、素手でモンスターを殴るって言っていましたが。筋力はいくつなんですか?」
「ん? えぇっと――」
ティト君に尋ねられステータスを開く。
おや。また上がってるな。
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名前:クー
HP:125→175/175 MP:50/50
筋力:11→17 耐久:2→4 魔力:1
【獲得スキル】
『夜目:LV2→3』『鷹の目:LV1』『逃走:LV2』
『採取:LV1→2』『掘削:LV2』『採掘:LV1』『伐採:LV2→3』
『調薬:LV1→2』『加工:LV1』『製錬:LV1』『錬成:LV1』
『分解:LV1』『錬金:LV1』『成形:LV2』『解体:LV1』
『木工:LV1』『大工:LV2→3』『栽培:LV1』『農耕:LV1』
『石工:LV1』『釣り:LV1』『鑑定:LV1→2』『獣魔召喚:LV1』
『植林:LV1』『料理:LV1』『彫金:LV1』
SP:145
満腹■■■□□□□□□□空腹
【確認完了?】
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「筋力は17だ」
「「17!?」」
おや? 二人とも凄く驚いてるぞ。
「な、なんでそんなに高いんですか? ゲーム始める前にいろいろ調べましたが、モンスターとの戦闘でも一日かけてやっと1上がるぐらいだってのに」
「一日ってのはゲームでのことね。でもそれだって、現実での二十四時間で4しか上がらないってことよ。それなのに17って」
「え……そんなに凄いの?」
二人がシンクロして頷く。
でも俺、あんまり戦闘してなかったんだけどな。寧ろ木の伐採とか丸太削り、ハンマーで地面に――あ、そういうことか。
「公式サイトにも、力仕事をすることで筋力がアップするとか書いてあっただろ? もしかして戦うことより、こういう力仕事のほうがステータスが上がりやすいとかあるんじゃないかな。な? にゃんご」
「ニャー。あっしはその辺りのことは、全然わっからないニャー」
「私もわかりませんミャ」
猫人族二人は知らないという。
でもきっとそういう設定なんだと思う。
だって剣を振り回すより、よっぽど力必要だと思うもん。
「なるほど。確かにそうかも」
「じゃあ手っ取り早くステータスを上げるなら、生産活動のほうがいいってこと?」
「あ、でも耐久は上がらないかもね。俺、今4だけど、ちょっと戦闘するとだいたいバッカバカ攻撃食らってるから」
わりと瀕死状態しょっちゅうです。今まで死んでないのが奇跡なぐらい。
まぁそこはワオールの助けがあったからだろう。
「耐久度はたぶん、それであってるんだと思います。HP増やすなら防具を着ればいいですし」
「お兄ぃ。どうせならお兄さんのお仕事お手伝いする? お店も早く建てられるし」
な……に?
「でも僕、スキル持ってないよ」
そうそう。大丈夫。俺が建てるから。
「でも材料運びぐらい出来るじゃない。ねぇお兄さん。うちのお兄ぃに手伝わせてあげて? 雑用でいいから」
「雑用って……」
「重い物持たせてあげて」
重い物……そりゃあ材料を運んでくれるのは助かる。それぐらいなら構わないけど……。
でもそうなるとワオールの仕事が無くなるしなぁ。
ワオールひとりで外に出しても、ドロップすらない状態だし。本人はそれでも喜ぶだろうけどさ。
「うぅん。ワオール、ひとりで外に遊びに行くか?」
『クゥン』
尻尾は振っているが、返事の方は微妙そうだ。
きっと行きたいけど、行っても俺の役に立てないのが嫌なんだろう。
くぅー。可愛い奴!
でももふらせてくれないっ。
「ニャっふっふ。お客ニャん。良い物を仕入れてきたニャよ」
「え?」
「獣魔や手懐けたモンスターに持たせるための、アイテムポーチ! このポーチを持たせれば、十種類だけニャがアイテムを拾えるニャんよ!」
「おおおおぉぉぉぉつ!」
『ワオオォォォッ!』
「2500Gニャよ」
……おぉう。
現在の所持金2802G。買えるけど、いっきにお金が減るな。せっかく溜まったのに。
だけど、にゃんごのキラキラした目と、ワオールのキラキラした目とが俺にこう言う。
買って――と。
「買おう」