017
ゲーム内は夜。とりあえず今すぐ出来ることから始めよう。
必要なくなったブロック塀をハンマーで破壊。すると、アイテムボックスに粘土が戻って来た。
「『分解』というスキルをお持ちでしたら、土に戻せますミャ。残念ながら水は戻ってこミャいですが」
「バッチリ!」
スキルを使うと、錬金と同じようなウィンドウが出る。ただし左右が逆転したものだ。
左には枠がひとつ。右側に二つの枠がある。
左の枠をタップすると、アイテムボックスから分解可能なアイテムの一覧が出た。
粘土を選択すると、右側に「土」が表示される。
それだけだ。
せめて空き瓶……。
土をそのまま元の場所に埋めれば整地完了っと。
おや? そういえば囲った内側も草原だったはずなのに。いつの間にか草が消えている。
土……いっぱいあるんだがなぁ。
ここの土を掘って粘土にしてたんじゃあ、また別の所から土を持ってきて埋めなきゃならないし。
それなら別の所から掘って持ってきた方が良いな。
それは後回しにして、木材の作成でもするか。
暗い時にあちこち動きたくないし。
ワオールには壁の外、扉から100メートル圏内で狩りをさせてやり、俺は扉のすぐ内側で作業をする。
手持ちの丸太で作れるだけの木材を作成し終えたが、まだ夜は明けない。あと三十分か。
「ワオール! 戻ってきてくれ〜」
ほんの少ししてからワオールの返事が返ってくる。
すぐに足音が聞こえ扉を開けると、嬉しそうに尻尾を振るワオールが立っていた。
こうして離れていてもアイテムやスキルポイントを持ってきてくれるから有難い――あれ? アイテムボックスにドロップが無い!?
にゃんごの所に戻って聞いてみると――。
「当たり前ニャね」
「ここはセーフティーゾーンに設定されましたミャ。獣魔でなくても、パーティーであってもアイテムやポイントは入らないですミャよ」
「そんなことが出来たら、誰だって楽して強くなれるニャからねー。神様は許さないニャよー」
あぁそうか。それが出来たら獣魔だけを戦わせて、主人は安全なところでぬくぬくしていられるもんな。
て、まんま今の俺じゃん!
俺ダメな奴だ……自分はせっせと大好きな物作りにばかり夢中になって、ワオールにだけ危険な戦闘をやらせているんだし。
「俺も……戦わなきゃな」
『ワホッ。ワォワォワオーン!』
じゃあ行こう、直ぐ行こう。そんな感じでワオールが誘う。
よし、行くか!
「行くなら武器を――」
にゃんごが何か叫んだが、ワオールがひっぱるのでそのままに。
扉から外へと出て――。
「出てすぐに襲われたりするかなと思ったけど、そうでもないんだな」
『ワン』
うんうんと頷くワオール。
扉の外はセーフティーなのだろうか。まぁそうじゃないと町から出るのもドキドキだもんな。
暫く歩くとシャドウラビットが襲ってきた。
「う、うおおおぉぉぉっ」
ジャンプしてきた兎を、正面から拳で迎え撃つ!
『ワオッワオッ』
興奮気味なワオールの声を背に、俺の拳は兎の顔面にヒットした。
ダメージが17!?
おぉ、強くなってる!?
今の一撃で兎のHPゲージが三分の一ぐらい減った。
三発殴れば倒せる!
「うおおぉぉぉぉっ、行くぜっ」
『ワオオオオォォォン』
どうせなら土を掘るために壁から離れた所まで行こう。
先々のことも考えると、壁だって拡張しなきゃならない。
粘土だけでなく、壁用の土も必要だ。穴掘り用の場所を考えよう。
いつもの伐採場所に向かってまずは進み、途中で進路を九十度曲がる。
こっちの方は初めてきたな。
地図を確認しながらもう少し進む。
暗くてよく見えないが、遠くに丘のようなものがあるっぽい?
沈みゆく月を背に、地平線が盛り上がっているのが見える。
あの丘……削れたら粘土がたくさん作れるだろうなぁ――。
夜が明け、モンスターが非アクティブ化してから穴掘りを始めた。
ワオールにも手伝って貰い、掘れるだけ掘りまくる。
掘り過ぎて途中、硬い岩盤にぶち当たった。
うぅん、ツルハシを持ってくるべきだったな。
それと……どうやってこの穴から脱出しよう。
あ、梯子があったか。取り出して立てかけると、十分脱出可能な高さだ。
「ここからは横に掘り進めよう」
『ワオォ』
どんどん掘って朝が終わり、日中になる頃。
俺のアイテムボックスには土が大量に入っていた。
これを見ると、同じ種類のアイテムって999個までなんだな。
『土×999』の下に『土×223』と表示が。
そろそろ戻るかな。
『ワホ』
「ん? どうしたんだ、ワオール」
スコップを持ったワオールが困ったように俺を見つめる。
なんか、ワオールの前に穴が開いてるな。
『クォーン』
「うぅん。なんだろうな? 誰かが掘った穴だろうか」
にしては、随分と奥のほうまで繋がってるけど。
まぁいいや。次に来た時に調べよう。
「よし、いったん戻るか。そろそろ俺は晩ご飯だしな」
『ワオーッ』
明るくなったので見えたんだが、やっぱり遠くに丘が見える。
見渡す限り、どこまでも続く草原でなくてよかった。
拠点までは直線距離で戻る。こうすれば地図がまた少し埋まるからな。
途中で川も見えた。といっても「見える」範囲にあっただけだ。距離としてはまだ遠い。地図にも載らないからな。
壁の中に戻ってにゃんごの所へ。
「ただいまー。遠くに丘があったぜ。あと川も」
「おかえりニャー。その川は南東を流れる川ニャねー。丘はよくわからないニャ」
「そっか。川があるってことは、釣りなんかも出来るのかな」
「釣り竿あるニャよ。一本500Gニャ」
道具系は500Gばっかりだな。
でも今は釣り竿を買う余裕も無い。まだちょっと時間があるし、ポーションを作っておこうかな。
空き瓶を思い切って百本購入。
壁の外で元気草をせっせと摘み取って、ある程度溜まったらポーションに。
出来上がったのは三十本。さすがに草が追い付かなかった。
「夜になったら駒田にメッセージを――」
「ニャーッ!!!!」
突然背後からにゃんごの悲鳴が上がる。
まさか扉を閉め忘れ、モンスターが入って来たのか!?
「あ……新しいお客ニャんニャアアァァァッ」
え……。
「キャーん、猫可愛いぃ」
「ニャーッ。あっしは男ニャ! 可愛いとは失敬ニャよ。カッコいいって言うニャ」
「えぇー、猫なんだから可愛いでしょー?」
お、女の声!?
「リリー、猫さんで遊んじゃダメだよ」
お、男も!?
「えぇ、いいじゃん。だってただのNPCだよ? 好きなだけ触っていいんだから」
「良くない! ほら、迷惑がってるじゃないか」
仲睦まじそう……まさかリア充!
リア充に俺の夢の王国が荒らされる!?
「それにしても、なーんにもない所ねぇ」
「あ、あそこに人が。あのーすみません」
まだにゃんごの家も出来ていないのに。
はっ! まさか、にゃんごが可愛いからって、俺の仕事を奪いに来たんじゃあ。
「どうしたのこの人? なにぶつぶつ言ってるのかしら」
「さ、さぁ?」
「ニャー。たぶん、自分が作りたい物を横取りされるんニャないかと、不安で落ち込んでいるニャよ」
「なにそれ……私たち生産なんて興味ないし」
「無いっていうか、まずは冒険だよね」
背後から聞こえる声に、俺は耳を疑った。
「物作りをしない……のか?」
立ち上がって振り向くと、そこにはほぼ同じ顔の男の子と女の子が居た。
ようやく他プレイヤーの登場!!