015
昼ご飯……。
両親は仕事でいない。
中学生の妹は学校でいない。
右手が使えないからチャーハンを作ることも儘ならない。
あぁ。ゲームの中だとハンマー振り回して、丸太を地面に突き立てることだって余裕なのに。
昨日のカレーライスをチンして食べよう。晩ご飯の分も残るよな?
ラップを掛けられないので、レンジ内で煮えたぎらない程度にチン。
うん。ちょっと温い。
けど時間が惜しいからこのまま食べよう。
タブレットを操作してウィキで情報集めだ。
なになに?
生産好きは『読書』スキルお勧め?
町の図書館にある本を読むと、低確率だが生産レシピを覚えられる?
なんだ、このレシピって。
調べてみると、レシピはそのままの意味。
何か作りたい物の材料や作り方のこと。
生産系スキルは、獲得時点で初期レシピを持っている。
レベルが上がればレシピも増えるが、実は隠しレシピが本の中に存在するらしい。
それを読むことで覚えられると書かれてあった。
マジか……取らなきゃ。
ただ問題がある。
図書館が――無い!
「という訳で、図書館も建てたいと思います」
「先は長そうだニャ」
「あぁ。まずはにゃんごの家だ」
「え? あ、あっしの家かニャ!?」
ビックリしたのか、にゃんごの髭がピーンっと伸び、尻尾はぶわっとなっていた。
「いつもにゃんごにはお世話になってるし、それにいつまでも外で商売するのだって辛いだろ? にゃんごにはさ、これからも雑貨屋として俺の夢の王国に居て貰いたいからさ」
と言いながらにゃんごの顎を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を細めるにゃんご。
「お客ニャん……あっし……お客ニャんが最初のお客ニャんでよかったニャー」
「へへ、ありがとうな、にゃんご。さて、じゃあ扉を作って壁を完成させようぜ! 家はまだでも、囲ってしまえば夜も安全だしな」
「うニャー」
ここもワオールに手伝って貰っての作業になる。
まずは丸太を縦に切ります。
長さ4メートルの半円丸太二本にします。これを四セット作る。
次に切った半円丸太の平らな面に打ち付けるための木材を作る。
これは大工スキルを使って木材加工ってのを使用すれば、自動アシスト機能が働く。
その時に出来上がり寸法を入力すればいいだけだ。
気を付ける点は、加工前の丸太よりもでかい寸法は入力できないっていう点だけ。
入力した寸法は160センチ×20センチ。厚さは5センチぐらいでいいかな。
これを四本作った。
「じゃあ半分に切った丸太に釘打ちするぞ」
『ワオッ』
平らな面を上にして四本並べ、その上に木材を横にして奥。
ワオールに支えて貰って、釘を打ちつけていく。ここも自動アシスト機能があって、釘を打つ場所にマーカーが現れた。
釘を打ち終えたら木材をもう一本、位置をずらして打ち込む。
出来上がったら別の丸太四本を同じようにして木材を釘で打ちつける。
「あとは丁番を平らな面に釘打ちして完成っと。こんなもんでいいと思うか?」
にゃんごにアドバイスを貰うべく話しかける。
それまで微動だにしなかったにゃんごがピクリと動く。
こういうところはNPCだよなぁ。こっちが求めるまでまったく動かないんだもん。
「そうニャねー。今作れるのはそんなもんニャと思うニャ。でも欲を言えば、切った丸太同士を粘着液で固めると強度が増すかもニャん」
「粘着液……どっかで見たな」
「この辺りだと、グリーンスライムから出るニャよ」
「あ、そうだそうだっ。ドロップアイテムにあったんだ!」
アイテムボックスを見ると、粘着液が十五個入っていた。
鑑定したときに、接着剤の効果があるって書いてあったからプラモや模型作りにいいなって取っておいたんだよ。
勿体ないが、またグリーンスライム倒せばいいよな。
完成した扉を裏返しにして、湾曲した面に粘着剤を……うえ、取り出したらねっちょりしてやんの。
ひとつでだいたいカッププリン一個分ぐらいだ。
四本を接着するのに三か所。それぞれに二つずつ使って――二枚の扉の接着に十二個使用。
数が足りてよかった。
不思議と、俺の手に付いていた接着液は、扉に塗り込むと綺麗サッパリ消えてなくなりべとつかない。
ゲームって便利だな。これが現実だと今頃必死に除光液なんかで手を洗っているところだぜ。
そうして出来上がった扉を隙間の所に運んで、空けて置いた場所に丁番で固定――と。
「うおおぉぉぉぉぉっ! 今度こそ完成だああぁぁっ!!」
『ワオワオワオオォォォーン!』
「完成したニャねー。これで夜になっても扉さえ閉めておけば、モンスターは入ってこれニャいニャ」
いつの間にかこっちにやってきたにゃんごが言う。
それと同時に今しがた取り付けたばかりの扉をノックする音が聞こえた。
「モ、モンスター!?」
「違うニャよ。土地相談屋が来たんニャろ」
え、そんなにすぐ来るもんなのか?
「ごめんくださいミャん。土地相談屋のミャーニーですミャ」
今度は「ミャ」語か。
扉を開けると、そこにはアメリカンショートヘアの猫人族が立っていた。
可愛いので思わず顎の下を撫でてやる。
「あ……ちょっと、突然何するんですミャ。あ……でも気持ちいいミャ」
声からすると、こっちのミャーニーも雄のようだ。にゃんごよりちょっと紳士っぽいか?
一昔前のチェック柄のスーツを着て、首元には蝶ネクタイなんか付けている。
対するにゃんごはというと、アラビアンナイトにでも出てきそうな、腹巻にだぼっとした白いズボン、それにベストを着たスタイルだ。
ミャーニーの方が都会っ子といった感じか。
ひとしきり撫でまわした後、ミャーニーが本題に入る。
「こほんっ。ここは新しく作られた、セーフティーゾーンとなりますミャ」
「おおぉっ」
「しかし建物が一切ありませんので、今はただの安全区域というだけですミャ」
俺はわくわくしながらミャーニーの話を聞く。
ただ建物を造ればいい訳じゃない。その建物の使い道もちゃんと決めないといけないようだ。
雑貨屋、それに武器防具屋――これはどうやらワンセットのようだな――住居。
「住居!!」
「今作れるのはこの三つだけですミャ」
「え!? と、図書館は!?」
「住民が増えないと、建設できませんミャ」
住民っていうと、プレイヤー?
だが違った。
どうやらNPCのことのようだ。
そして住居ってうのは、そのNPC用の家のことを言うらしい。
「住民が増えたら、今度は畑用の土地も欲しいですミャー。そうして発展していけば、ここは『村』になりますミャ」
「おおおぉぉぉっ」
畑は柵で囲うだけでいいそうだ。
幸いここは草原。
木を切ったりして地ならしする必要も無い。
まぁ植林したケヤキがある程度だが、あれはあれで資材用だから残しておきたい。
植林場はセーフティーゾーンの北西にある。
じゃあ広げるなら北東か南東、南西方面だな。
「ミャーニー。さっそく家を造りたいんだが!」
「ミャー。他に人は……いらっしゃらミャいようですミャ」
「そう、俺だけ」
「本来なら、セーフティーゾーン内の土地区画に対し、何かを建設したい方が申請してからにミャるのです」
「申請?」
「はいミャ」
ひとつの区画に建てられる物はひとつだけ。
いざ作業を始めようとしたら、後からやって来た人が建築始めちゃった――なんてことにならない為にだと言う。
更に建設物が偏らないよう、何を作るのか先に決めておかなきゃならないようだ。
ひとつのセーフティーゾーンに、雑貨屋ばかりが何十軒も建ったところで無意味だからな。それを避けるためでもあるようだ。
「だけどここには貴方しか居ないようミャから、最初の一軒は好きな所に建ててくださって結構ですミャよ」
そう言ってミャーニーは紙を広げる。
それは、このセーフティーゾーン内を区画分けした図面だった。