013
夕方。
にゃんごの所まで戻って、ログアウト前のアイテム整理だ。
丸太は二百七十五本。ワオールが手伝ってくれたし、俺の伐採速度も上がっているので効率が良くなったな。
苗木も二十一本。これは明日ログインしてからスキルを使って植えよう。
収集品&ネズミ肉の稼ぎは、夜間の戦闘分しかないのでわずか295Gか。
ポーションで荒稼ぎしたい気もするが、駒田だってそんなにいらないだろうし。
他に顧客を紹介してくれないか頼んでみるかな。
そういえば、前々から一個だけ拾っていた『兎の足』ってアイテム。
素材なんだが、アクセサリーの素材になるとしか書いてないんだよね。
困ったときはこの人に聞こう!
「にゃんごぉ。アクセサリーってどうやって作るんだ?」
「『彫金』スキルニャよ」
「彫金か……。兎の足持ってんだけどさ、どんなのが作れるかわかる?」
「ニャー。さすがにそこまでは詳しくないニャー。でも兎の足って言えば、幸運のお守りによく使われるニャからねー」
そういえばそんなことも聞いたような?
俺、装備系の製造スキルはまったく取ってないんだよな。
せっかくだし取ってみようか。
必要SP……80か。
やっぱり生産系のスキルは、戦闘系に比べると圧倒的に少ないんだな。
これなら物作りマイスターも夢じゃなさそうだぜ!
で、獲得をポチリ。残り145ポイントっと。
さて、じゃあ兎の足アクセサリーを作ってみようか!
――ぐ?
なんか視界がグニャってしたな。
あ、警告メッセージ来てるわ。
えぇーっと……肉体が睡眠を要求しています?
「寝落ち寸前……」
「寝るニャよ……」
『オォン』
「うん。じゃあ、お休み」
ログアウトして時計を見ると、日付も変わった深夜二時を回っていた。
眠いはずだ。
ま、明日はガッツリ遊べる!
出来れば壁を完成させたいなぁ。
それからポーション作って駒田に売って――他に買ってくれそうな人いないか聞いて貰って――あぁでも定期的に量産できるかわかんねーし――あ、ねみ。
明日考えよう。
七時に起きて、アラームを一時間後にセットしてログイン!
「おっはようワオール! にゃんご!」
『ワオオーンッ』
「もう昼ニャよ」
尻尾を振るワオールにもふっていいか尋ねると、尻尾と首を振られた。
恒例行事も済ませたことだし、まずは植林だ。
朝飯を食べるために一時間でいったんログアウトするので、遠出をしない簡単作業だけしに来たのだ。
建設途中の壁の外側でスキルを使用。
するとホログラムディスプレイが出てきて、近辺の地図が浮かび上がった。
光っている所が植林可能地帯だと表示される。
壁からもう少し離れなきゃダメっぽいな。
苗木を取り出すと、今度は地面にマーカーが現れる。何もない地面だ。
採取の時にはマーカーの出た草を摘み取ればいいだけだったが、これはどうすればいいんだ?
植林だし、苗木を植えるための穴でも掘ればいいんだろうか。
そう思って苗木からスコップに持ち変えるとマーカーも地図も消えてしまう。
じゃあ最初から穴を掘って――植林スキル使って――せっかく開けた穴はスルーされ、しかも植林可能地帯からも外されている。
俺の努力が……酷い。
手で穴を掘れってことか?
まぁ苗木って言っても小さいもんな。15センチぐらいだし。
マーカーの下を苗木を持った手とは逆の方でほりほり。そして植える。
「……これでいいのかな?」
『オォーン』
ワオールも首を傾げて「どうなんだろう?」って顔だ。
残りの苗木もとりあえず同じようにして植えていこう。
出来るだけ密集させて二十一本全部を植え終わるのに、そう時間は掛からなかった。
「よし。じゃあ彫金に挑戦しよう!」
『ワオーッ』
ってことで、にゃんごに彫金に必要な道具を見せてもらう。
「簡易彫金セット、500Gニャ」
「……お金が足りない」
「ビタ一文まけないニャよ」
手持ちの残金315Gなんだけどさぁ、どうするかな。
肉……過剰になってきたし、仕方ないから処分するか。
「にゃんご、肉も買い取ってくれ」
「いいニャよ。シャドウラビットの肉は生だと18G――」
生も焼いた物も同じ価格だ。
焼いたのは手間が掛かっててすぐに食べられる反面、料理としての使い道が無いからとのこと。
食事はだいたいゲーム内の一日で二、三回する感じだ。
俺は一度に肉が二個あればいい。ワオールは四個だ。
つまり一日で最低でも十八個あれば足りる計算になる。
手持ちの肉は九十五個ある。狩りをすれば増えるし、一日分を残して売ってしまおう。
「1308Gニャ」
「きたあああぁぁぁぁっ!! 所持金1000G超え頂きましたあぁぁっ!!」
『ウオオオォォォーン!』
簡易彫金セットを買っても1123G余るぜ!
ひゃっほーっ。
さっそく『彫金』スキルをタップすると【イヤリング】【ネックレス】【リング】という項目が出てくる。
キーホルダーとかでもいいんだけどな。無いな。
兎の足で指輪なんて無理だろう。
イヤリングもなんか嫌だ。それに一つしかないんだし、片方だけってなんかなぁ。
ってことは、選択肢はひとつ。
【ネックレス】をタップする。
錬金の時と同じようなディスプレイが浮かんだ。
左側に枠が二つ。
枠をタップすると、アイテムボックスから選択可能な素材一覧が出る。
兎の足をタップして――もうひとつの枠を押すと、『麻縄』が選択可能になった。
麻縄?
あー、これ、二つの梯子を結んでた奴か。
解いたらまたアイテムに戻ったんだよな。
よし、これを使おう。
彫金開始ボタンを押すと、作業工程が字幕になって現れる。
1:麻紐を解きます。
2:兎の足に紐を巻き付け締め付けます。
3:付属の『ネックレス用金具』を取りつけ、別の紐を通します。
だそうだ。
付属品はイヤリング用、ネックレス用、リング用とそれぞれひとつずつ入っていた。
まずは麻紐を解くのか。まぁこのままだとロープを首に巻くようなもんだしな。
解いて行くと、ピコンと音が鳴って第二工程に進めというメッセージが。
じゃあこれを兎の足に――取り出して見たのは初めてだけど、小さいんだな。あと肉球が無い。残念だ。
モンスター兎の大きさから考えると、有り得ないくらい小さな10センチ程度の足っぽいもさもさな物に紐を巻き付けていく。
巻き付ける位置にも小さなマーカーが出ているので安心だ。
三周ほどしたところで第三工程に進めとメッセージが。
金具付けだな。
足の先端に筒状の金具をはめ込む。
ぐぐぐっと押し込めばいいのかと思ったら、付属のハンマーで叩けと出た。
あぁ、小さいハンマーがあるんだな。
それでコツコツ叩くとスポっと収まる。
金具には紐を通す穴があるので、それに解いた別の麻紐を通して完成!
抜けないのか? と心配になったが、引っ張っても抜けない。
大丈夫なようだ。
『ウォーン?』
くんかくんかと、気になるようで匂いを嗅ぐワオール。
「欲しいのか?」
尻尾を振りつつ、返事も無ければ頷きもしない。
気になるが、欲しいとは言えないのか。ご主人に気を使って――そんな感じ?
「お前にやるよ。いつも俺を守ってくれてるしな」
戦闘好きっぽいが。
『ワオゥ!』
嬉しそうだ。尻尾の振り方が尋常じゃない。
「よしよし。じゃあ俺は首にかけてやるからな」
『オォーンッ』
「え? お客ニャん、一度装備させたら、もう二度と他の人は装備できニャくなるニャ。いいのかニャ?」
「他の人に譲る気はないし」
「いやいや、お客ニャんも装備できニャくなるってことニャよ」
俺も装備出来ない?
いや、別にいらないし。
ワオールの首に掛け、後ろで結んでやる。
首周りの毛は白いが、兎のほうは黒い毛だ。小さいながらも目立って、なかなか似合っている。
「まぁお客ニャんがいいなら、いいニャけど。アイテム鑑定して、効果を見て悔しがっても知らないニャよ」
「鑑定? そういえばどんな効果なんだろう」
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幸運を呼ぶ兎の足のネックレス:アクセサリー
効果:一定確率でクリティカル攻撃発生。
ロック済。他の者が装備することは出来ません。
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ふぅーん。クリティカル攻撃かー。
ダメージが増えるとか防御無視とか、そういう攻撃なんだろうなぁ。
うん。
結局俺にはいらない装備だ。