012
先端を尖らせた丸太を埋め込み、とりあえず「く」の字の壁が出来上がった。
その「く」の字の中心ににゃんごが居るという状況だ。
このにゃんご、呼べば少しは移動するんだが、用事が終わればまた元の位置に戻っているんだよな。
じゃあにゃんごの家はあそこに建ててやらなきゃいけなくなるな。
一度経験していたのもあって、今度は一晩で四百本を打ち込め終えた。
一晩と言っても二時間半しかない。
僅か百五十分でのこの作業だが――。
まず丸太を一定間隔で数本ずつ置いていく。
ワオールが立てた丸太を支え、俺がハンマーで上から叩く。
脚立は最初に使うだけ。
一本立ててしまえばあとはそこに乗って、ワオールが運んできた丸太を叩く。
五発ほど叩けば壁の高さに。なのでラスト一発は座って、足で丸太を支えて叩いている。
その間にワオールが次の丸太を立てて待っていてくれるのだ。
前準備や移動時間を入れても、だいたい一分で三本立てる速度だったな。
「慣れてきたニャね〜。あと同じ長さの壁で繋げれば、何軒かは家が建てられるニャよ」
「そうだな。どんな家がいいだろう。商人に住んで貰うのなら――」
「とにかく壁を完成させるニャよ。ちゃんと出入口も作っておくニャのも忘れずにニャ。そうしないとあの人が来てくれニャいニャから」
「あの人?」
ニヤりと笑ったにゃんごは、壁が完成して安全が100%保証されたら現れる人物が居る――と。
誰?
「土地相談屋さんニャ」
「……不動産?」
「違うニャ。一定以上の面積で安全が保障された場合、相談屋さんが来てどんな規模の家や施設が建てられるか、教えてくれる便利屋さんニャよ」
そんな人が居るのか。
家はいいとして、施設ともなれば確かにどんな物を建てればいいのか、教えてくれる人いれば助かる。
よし、じゃあ早速頑張るか!
「ワオールっ。ケヤキの伐採に行こうぜっ」
『オォーン』
夜の間に焼いた肉とリンゴをお弁当に、いざケヤキ林へ出発!
斧を担いでケヤキ林に向かって駆け足で向かう。
これまでのプレイでわかったこと。
このゲームでは全力で走ると、50メートルごとにHPが1減るという鬼仕様。
まぁ500メートル走ってHP10と考えれば大したこと無いようにも思わなくはないが。
だけど駆け足だとHPに影響は無い。
しかもゲーム故なのか、息切れすることも無ければ疲れるなんてことも無い。
だったら駆け足する方がお得でしょう!
ってことで、約三キロの道のりは十分ほどで到着。
「おぉ。この前伐採した場所に、またケヤキが成長しているぞ!?」
『ワオンッ』
「ん? 今日は伐採を手伝ってくれるのか?」
俺の担いだ斧を寄越せとばかり掴んでくるワオール。
おぉ。それは助かるぜ!
ワオールに斧の持ち方、木の切り方を教えて――うん、上手いな。
一本を倒す速度は俺よりかなり遅いが、スキルを持っていないのだから仕方ない。
二人で手分けして木を伐採。
時折ワオールが切っている木が、メキメキと音を立てて割れることもある。
どうやらスキルが無いと失敗して割れるようだ。
ただ『途中で割れたケヤキの木』というアイテムになって、鑑定すると木材加工用としては使えると書いてあった。
使えない訳じゃないので問題ないな。
「大丈夫だワオール。家を建てるときの床板か壁板として使えるようだし、気にするな」
『ワオォ』
ちょっと凹んでいるワオールを慰めるため、お肉タイムにしよう。
「今日はミニマムボアの肉だ」
『ワッホォ』
ミニマムボア。
小さくなった猪――ではなく、ようはウリ坊のこと。
ただ現実で予想できるサイズのウリ坊じゃなく、中型犬サイズもある。
見た目はまぁ可愛い方だけど、ミニマムが付かないボアがどんだけ大きいか。それがいつか俺の前に現れるかもと思うとぞっとする。
お肉タイムを終え、ワオールの満腹度をチェック。
無色ゲージがあと2か。もうちょっと減らしてガッツリ食べさせてやった方がいいか。
ん?
なんかステータスが……。
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名前:ワイルドウルフキング(ワオール)
HP:1550→1650/1650 MP:50/50
筋力:86→102 耐久:32→36 魔力:1
【獲得スキル】
『学習:LV1→3』『夜目:LV1→2』『嗅覚:LV1』『聴力:LV1』
『ワイルドクロウ:LV1』『ムーンライトシザース:LV1』
SP:375
満腹■■■■■■■■□□空腹
【確認完了?】
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なんかステータスが上昇してるっぽい?
確認完了ってボタンがあるけど……押すと矢印マークが消え、大きい方の数字だけが残った。
あぁ、これ。ステータス上昇をわかりやすくしてくれてるのか。
ってか筋力上がり過ぎてないか!?
あとスキルポイントもいつの間にかいっぱい!?
あ、そうか。
いっつもワオール戦ってたもんな。しかも瞬殺しまくりだし。
俺のステータスはどうなってんだろう。
戦闘はあんまりやってないけど、力仕事はしてるつもりだし。
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名前:クー
HP:100→125/125 MP:50/50
筋力:1→11 耐久:1→2 魔力:1
【獲得スキル】
『夜目:LV1→2』『鷹の目:LV1』『逃走:LV1→2』
『採取:LV1』『掘削:LV1→2』『採掘:LV1』『伐採:LV1→2』
『調薬:LV1』『加工:LV1』『製錬:LV1』『錬成:LV1』
『分解:LV1』『錬金:LV1』『成形:LV1→2』『解体:LV1』
『木工:LV1』『大工:LV1→2』『栽培:LV1』『農耕:LV1』
『石工:LV1』『釣り:LV1』『鑑定:LV1』『獣魔召喚:LV1』
SP:375
満腹■■■■■■■■■□空腹
【確認完了?】
*********************************************
おぉ! 筋力増えてるじゃないか。耐久も1だけ……。
耐久1増えて、HP25増える計算だろうか?
しかしかなりの数の土を粘土に錬金してんのに、レベル上がってないな。
同じ数を成形してるってのに。
もしかして試行回数の方が優先されているんだろうか。
錬金は五十個とかまとめてやってるけど、成形は一個ずつやってるもんなぁ。
よし、確認ボタン押してっと。
スキルポイント溜まったし、新しいスキル取りたいな。
植林取れば苗木を有効活用できるだろう。
どこでスキルを取るのだろうか……あ、スキル画面になんかあった。
右下に【未獲得スキル一覧】ってのがあるな。たぶんこれだろう。
未獲得一覧には、獲得に必要なポイントもあって、スキル名横にしっかり【獲得】というボタンがある。
ポイントが足らないスキルには、そもそも【獲得】すら出てない。
簡単楽ちん仕様で感謝感謝。
「さて。なんのスキルを取るかな」
『ワホッ』
「おわっ。なんだワオール」
切り株に座っていると、ワオールが腕の下に顔を突っ込んでくる。
可愛い奴め。
「よーしよしよし」
『ワオッ』
そうじゃない! と言わんばかりに逃げられた。
そしてスマホを指差している。
「俺のスキルが気になるのか?」
顔をぶんぶん振ってから、ワオールは自分を指差す。
「お前のスキル?」
頷くワオール。
そういえばワオールにもスキルポイントがあるけども……え、こいつもスキルを増やせるのか!?
ステータス画面は……俺のステータス画面をフリックした。
じゃあスキルも?
フリックしたら、ページTOPには【獣魔:ワイルドウルフキング(ワオール)の未獲得スキル一覧】と出ていた。
うわぁお。
ワオールのスキルも選べるのかぁ。
あれ?
なんか学習中っていうスキルがあるぞ。
『掘削』と『伐採』……俺が教えたスキルじゃないか。
その他のスキルは戦闘系っぽいものと、よくわからないものだな。
「ワオール。覚えたいスキルはあるか?」
『オン』
ワオールがスマホに爪を伸ばし――下から上にフリックするような動作をする。
でもフリックは出来ないようだ。なので俺がフリック。
『オォンッ』
「え、これか? ――『自由戦闘』?」
『ウォンウォンウォン』
これみたいだな。
えぇっと――戦闘中、獣魔の意思でスキルを使えるようになる。
は?
ってことはもしかして……。
「お前って今までスキル一切無しで戦ってたのか?」
『オォーン』
頷いて吠える。
「俺は指示してやらなきゃいけなかったのか……うぅ、ごめんなワオール」
そんなこと無いよとワオールが首を振る。
けどさワオール。
お前素手でモンスターを瞬殺してたじゃん……。
スキルの意味があるのだろうか。
まぁ本人が欲しいというんだから、取ってやるか。
ポイント350を消費して『自由戦闘』をゲット。
俺はひとまず『植林』と――『料理』を取ろう。
二つを取って150消費っと。
戦闘スキルだと最低でもひとつ100消費か……多いのだと500とかもあるし。
当分戦闘スキルはいらないや。