010
なんとか大学の三限目講義に間に合った。
うちは昼休みを長く設定しているおかげで、三限目は昼の一時半からになっている。
家も大学から徒歩で十五分と近い。それでいて実家暮らしだから、ほんと有難いよ。
三限目が終わり、四限目までの休み時間に友人と話す。
「栗木、ゲームできたか?」
「出来た」
「どう?」
「すっっっげー面白い! さっそくブロック塀作ったぜ! あとポーションもっ」
友人――昨日、俺に『FreeStyle Adventure』を勧めてくれた駒田だが、何故か首を傾げている。
何かおかしなこと言ったか俺?
「モンスターと戦ったか?」
「あぁ。スコップで殴ったぞ」
駒田、また首を傾げている。もしかしてスコップが武器だってことを知らないのか?
「スコップは武器なんだぞ駒田」
「いや、道具だろ」
「モンスター、あれで殴り殺せたぞ」
「まぁ……一応攻撃力1あるからな」
「な、武器じゃん」
駒田。今度は頭を抱えている。
「お前大丈夫か? ソロでやっていけそう?」
「ひとりじゃないから大丈夫だ。ワオールがいる」
「ワオール?」
「おう。獣魔召喚ってスキル貰ってさ」
「あぁ、特典の奴か。どんなスキル?」
モンスターを一体召喚して働き手に出来るスキルだと説明すると、また駒田は頭を抱えた。
「働き手ってお前、物作りやらせてんのか?」
頷くと駒田は溜息を吐いた。
あ、もちろん戦闘もさせてやってるぞ。そっちの方が好きそうだし。
そう話したら駒田の表情が笑顔になる。
「あぁ、テイマー系の上位スキルだな。よかったじゃん。どうせお前、ロクに戦闘スキルも取ってないんだろう」
「三つあるぞ」
「え、マジか。案外ちゃんと考えてるんだな。まぁなんにしろ召喚モンスターが居れば、序盤の戦闘はかなり楽だっていうしな。戦闘向けじゃなさそうなお前にピッタリな相棒だろう」
「そう思う。もふもふでカッコ可愛いし」
「マジか。今度触らせてくれ。あ、ところでお前ってどこの町なんだ?」
町?
「無い」
「え?」
「町は無い」
駒田、再び頭を抱える。
どんな所だと聞かれたから、草原のど真ん中で何もない所だと説明する。
あ、猫人族という商人がいるぞ。
少し遠くにケヤキ林もある。
「お前さ……最初に降り立つ場所の希望聞かれた時、なんて答えた?」
「え。人のいない所。いやぁ、まさかゼロ人だとは思わなかったけどさー。でもそのおかげで好き放題出来るんだぜ」
「ポジティブでよかったな……けど町でも村でもないとなると、大変だぞ」
駒田の話だと、他にも同じようにNPCひとりだけの場所というのは情報として出ているらしい。
売っている装備が銅シリーズのみ。
最初はそれでもいい。
だけど筋力が3になれば青銅シリーズが装備できるようになる。
筋力が7になれば鉄シリーズ。
だけどNPCひとりだけの拠点では、銅しか売られていない。
「弱い装備のまま移動して町や村を探すのも危険でね」
「なんで?」
俺の答えに駒田は溜息を吐く。
最初の拠点から離れれば、当然モンスターが強くなってくる。
ステータス上は成長しても、劇的に攻撃力が上がるわけではない。
「強い武器だとそれだけ攻撃力補正も高い。そういう武器を装備しないと、次の拠点探しも厳しいって話だ」
「ふーん」
「え、それだけ?」
「それだけって、それだけじゃね? だって俺、自分の拠点作り上げるまで移動する気ないし」
なんでそんな当たり前のことを聞くかなこいつは。
そう思いながら俺はあることを思い出す。
「あぁそういえばにゃんごがな、他の商人を増やす方法を教えてくれたんだ。武具専門の商人が来れば、売り物も充実するっぽいよ」
「え? 商人って増えるのか!?」
「にゃんごは雑貨屋だと言っていた。銅シリーズ以上のは専門の武具商人が取り扱ってるってさ。で、その商人を増やす方法ってのが――」
壁でしっかり囲って出入口も扉を設置。その内側に数軒家を建てれば他の商人がやってくる。
とにゃんごが話ていたと説明。
「なるほど。NPCひとりエリアに行った奴らは、途中で挫けてキャラリセしたって言うが」
「キャラリセ? そんなの出来るのか?」
「最初の一度だけは、即行でキャラリセして貰えるんだ。まぁ最初に出た場所で行き詰って進めなくなったらおしまいだろ? だから救済処置なのさ」
二度目以降は次のキャラを作れるようになるまで、リアルタイムで二十四時間空けなきゃならないようだ。
ふぅーん。そんな縛りもあるのかぁ。
俺はあそこで満足している。寧ろ既に出来上がっている町になんて興味ない。
「まぁお前は楽しそうだし、そのままでもいいだろう。けどさっきの情報があれば、お前みたいな物作り好きはやりがい感じるだろうな」
「そうだな。そうしたら人も増えるだろう……俺の所にも人が来るのか!?」
「そ、そりゃあまぁ……まったくのゼロより少しでも何かある所の方がやりやすいんじゃね?」
それは困る!
作ろうとしていた物を他人に横取りされたくない!
「頼むっ。その情報、流さないでくれっ。せめて土台が完成するまで内緒に、ね?」
「……取引しようじゃないか」
こうして俺の夢の王国を破壊される恐れは減った。
もちろん、たまたまあの場所を希望するプレイヤーがいるかもしれないが……。
そう思ったら急いで作らないとな。
まずは壁。そして家!
このあと六限目まで講義を受け、帰宅したのは夜の七時。
明日の講義は休むことにした。一限しかないし、出席日数は十分足りている。
晩御飯を食べシャワーを浴びたら急いでログイン!
ロビーで声に確認しておく。
「俺の王国を希望するプレイヤーっていたりする?」
『言っている意味が理解いたしかねます』
「……えぇっと、最初に出たあの場所っていう意味。にゃんごが居る」
『なるほど。人の少ない場所を希望する方はいらっしゃいますが……最低限、村のある場所を望まれますね。おそらく既に情報が出回っているせいで、ご希望を伺うときに町や村を指定する方がほとんどなのです』
よっし! よしよしよし。
このまま俺の王国を邪魔されないよう、出来ればこっちにプレイヤーを送ってこないよう頼み込む。
が――。
『申し訳ございません。そのような希望をお受けすることは出来ません。あくまで最初の拠点に降りる方の希望を聞いたうえで、候補からランダムとさせて頂いておりますので』
「う、そうか……俺の我侭だったな。ごめん」
『いえ。よほどご自分でお造りになりたいのですね、拠点を』
「うん! 作りたい!! じゃあ行ってくるよ。他の誰かが来た時に、あっと驚かせるようにさ」
『いってらっしゃいませ。完成するまで他の方がお越しにならないことを祈っております』
「ありがとう〜」
そうして俺は、太陽が輝く草原へと降り立った。
【ステータス、及びキャラクターの動作について】
『FreeStyle Adventure』では「筋力」「耐久」「魔力」の三つのステータスのみになっています。
●筋力:物理攻撃力に影響。武器にはそれぞれ、装備するのに必要最低限の筋力が設定されています。
●耐久:HPや物理防御力に影響。防具にはそれぞれ、装備するのに必要最低限の耐久が設定されています。
●魔力:魔法攻撃力や魔法防御力、MP量に影響します。杖や魔法の書物には、装備するのに必要最低限の魔力が設定されています。
ステータスはこれだけですが、では攻撃の命中率は? 回避率は?
その辺りはスキルによる補正か、プレイヤー自身の行動にゆだねられます。
序盤は戦闘になれる必要もありますので、モンスターの攻撃はまるでターン制かよと思う程
一撃一撃の間が非常に長く設定されています。
もちろん、次第に敵も強くなっていきます。
また運動神経よりも、脳の反射神経が重要ですので、運動音痴だから攻撃が当たらないや回避できないなんてこともありません。
ただし、重い武具を装備していると、必要最低限ステに近いほど「重さ」を感じるため
回避運動などは遅れがちになってしまいます。