TS公爵家令嬢の結婚
一年ほど放置していたものを頑張って書き上げました。褒めてください。
TSも異世界恋愛も初めてで勝手とか分からないのは許してください
「はあ」
憂鬱だ。既に諦めていたとは言え、やはり嫌なものは嫌だ。出来ることなら帰って眠りたい。しかしそれで何が変わるでもなく、だからと言って別に帰って寝られるわけでもなく。というか、帰る場所は既にここになっている。現実逃避すらまともにさせてくれないとか。地獄か。
「辛気臭い顔をするんじゃない。私だってこんな結婚をしたかったんじゃない」
そう俺に苦言を申し立ててきたのは憂鬱の原因であり、俺の夫となったフレイドだ。死ねばいいのに。
念のために言っておくが別に俺はこいつのことは別に嫌いではない。人間としては好きだし、友人としてならかなりいい関係が築けていた。しかし、結婚したとなれば話は別だ。最悪と言っても良い。
なぜ、そこまでフレイドとの結婚を拒むかって? 話は簡単だ。
「俺も結婚なんてしたくなかったよ。だって、俺は男だからな」
そう、俺は男だ。いや今では男だった、と言う方が正しいか。
「今は女だろう。一人称ぐらいはどうにかしてくれ」
そんな些細なことはどうでもよろしい。どうせ中身が伴わない入れ物だ。体が女であろうと、心は男だ。これだけは絶対に譲れない。矜持は貫き通す。
さて、俺ことカトリア・イスティールには前世の記憶がある。無論、男のものだ。そして普通に女が好きだった。
しかし、転生して趣味嗜好が変わり、ドレスなどを着ることに抵抗もなくなった。女としての体にも慣れた。
一番大きく変わったところと言えば女の体に慣れ過ぎて、女性も恋愛対象に入らなくなったことか。男としての内面を持ち、女としての体に生まれたせいかそういったことが曖昧になった。
しかし、それはそれでいいように思える。こちらの世界でもやはり同性間との恋愛はあまり良い目で見られない。さらに貴族は世継ぎを強く望むのでそういったことは言語道断だ。だから、女を好きになっても不幸なことにしかならないという事だ。
まあしかし、だからと言って男と結婚したいわけでもないのだが。こればかりは自分の生まれを嘆くしかない。公爵家だ、公爵家。俺はイスティール家の長女だ。下にとても可愛いくてまじ天使な妹が2人と、公爵家の長男としてそれでいいのかと思えるような兄が一人いる。ちなみに別に兄がヒャッハーとかやりだすようなとち狂った行動を起こすわけではなく、なんというか威厳がない。まさか、子爵家の息子に舐められているとは思わなかった。それでいいのか兄よ。一応、その息子はしめておいたが。
いや、そんなことはどうでもいい。妹が可愛すぎて死ねるとかあるがそれはまた別の話だ。6時間程度じっくりと聞かせてやりたいものだ。
ああ会いたいよ、マイシスター。天使過ぎてホントにさ! 今からでもぎゅっと抱きしめたい。ちょっと強く抱きしめたらきゅーって鳴くんだよ。可愛いだろ、なあ可愛いよな。だから今から会いに行こう。
「という事で行ってきます」
思い立ったが吉日と言うやつだ。俺はフレイドから視線を外し、ドアに視線を定めそのまま突撃した。かったのだが、その動きはフレイドによって止められた。
「ちょっと待ってください。君はいったいどこへ行くつもりだ?」
「可愛い妹たちが待っている家に決まってるだろう」
何を言っているんだこいつ? というような視線を向けると、フレイドも何を言っているんだ? と呆れたような視線を向けていた。
「君はいつも突飛な行動に出るな」
「それが俺だ。仕方ない。という事で邪魔だ、その手をどかせ」
「するわけがないだろう。状況を考えなさい」
「やだ」
「やだじゃない。君は子供か。とりあえず落ち着きなさい」
フレイドが俺の腕を引いて椅子に座らせた。今の体ではフレイドの力に逆らえない。難儀なものだ。
昔は俺だって筋肉ムキムキで背の高いナイスガイだったというのに。……まあ、嘘だが。そんな風に現実逃避していると言い聞かせるようにフレイドが俺に目線を合わせてきた。
「君はもう私の妻なんだよ」
「……うるせぇよ、ばか。分かってるさ」
「なら、いいさ」
フッと笑い、俺の頭を撫でてくる。それが煩わしく両手でその手をどかした。
「子ども扱いはやめろ」
「膨れるなよ。今のは女の子扱いだ」
「尚悪いわ!」
いちいち逆鱗に触れないといけないのかこの野郎。そのままフレイドに対して思う限りの罵詈雑言を浴びせかけたが、まるで気にした様子を見せない。憎たらしい奴め。
言葉が尽きた後俺はぶすっと無言に徹したが、再び頭を撫でてきやがった。こいつは俺が男であることを知っているはずなのにたまにこういうことをしてくる。気持ち悪いとは思わないのだろうか。見てくれは女でも、精神は男だというのに。
「お前はよく俺なんかを妻にしたよな。いちおう断ることもできたはずだろ?」
別に婚約は強制ではなかったし、婚約を解消したいなら好きにしてもいいとは言われていた。それにこいつには、学生時代にたくさんの貴族の娘に慕われていた。隣で見ていて正直羨ましく思っていたのは内緒だ。どの娘も見目に優れていて、十分に教養もあった。
「別に半端物の俺じゃなくても良かったはずだ」
そんな俺の言葉にフレッドはうーんと唸った。その顔は若干苦々しかった。
そして改めて俺を見ると不安げにフレッドが俺に一つ質問をした。
「君は僕と結婚は嫌ではなかったのか?」
もちろんいやだ。いやだが、フレッドとするのが嫌と言うわけではなく男と結婚するのが嫌なのだ。俺だって一生独身で入れるような身分ではないのは自覚している。だから答えるとしたら――
「それがベストな選択だったんだよ、俺には」
多分、フレッド以外だったら受け入れることはできなかった。家族を除いてを一番好感を持っているのは間違いなくフレッドだ。小さいころからずっと一緒に居て、誰にも言えなかった秘密を教えるくらいには俺はこいつが好ましい。ただそれが恋愛のそれでないだけだ。だけど、まあ、フレッドとの結婚ならまだ許せるのだ。
そんな俺の答えを聞いたフレッドはそうかと呟いた。そして挑発的に笑った。
「まあ、今はそれでもいいさ」
そして、俺に近付いて何気ないように俺にキスをした。とてもあっさりと口付けをされたので反応が追い付かない。俺は、何をされた。何をされたのかをきちんと理解した俺は頭に血が上った。それが怒りなのか羞恥なのかが今の俺には分からなかった。
「お前、何を――」
勢いのままに吐き出した言葉はフレッドに遮られた。先ほどよりも長いキスで俺を強制的に黙らせた。俺はいままでこいつのことを怖いと思ったことは無かった。だが、何故か今は涙が零れそうになる。俺はフレッドを恐れているのだろう?
「カトリア」
名前を呼ばれて体が一瞬ぴくんと動いた。フレッドはいつも俺をリアと呼ぶ。
そこで俺は自分が戸惑っているという事に気付いた。こんなフレッドを見るのが初めてだから、ここまで強く俺を見つめてくるから。だからきっと俺はこんなに戸惑っているのだ。
「なあ、カトリア。カトリア・イスティール」
やめろ。そんな目で俺を見つめるな。体が熱くなる。まともにフレッドの顔を見ることが出来ない。逃げようにも腕はフレッドに掴まれている。フレッドは無理やり俺の顔を自分の顔に向けた。
「私は君を愛している」
「え?」
「君の金色の髪も、澄んだような瞳も、小ぶりな口だって好きだ。君の奔放な姿ももちろん愛しているし、家族の話をしているときの楽しそうな表情だって愛してる。悲しいときは誰にもばれないように我慢しようとしているときは支えてあげたいし、僕以外の誰かが君の隣に歩いているだけで僕は嫉妬する。君が僕の事を恋人しても夫としても見られないことは十分承知している。それでも僕の隣に君がいるだけで僕は嬉しい」
感情が追い付かない。フレッドの言葉が脳みそまでたどり着かない。それでもフレッドは続けた。すっかりと私ではなく、僕と言う一人称を使って。
「今すぐ僕を好きになってくれとは言わない。それでも、それでもだ」
頭がくらくらとして、思考が上手く働かない。明らかにオーバーヒートを起こしている。フレッドの強烈な想いが俺を正常にさせてくれない。喉はひくつき、顔はどんどん熱くなる。
「いつかは俺を愛してくれないかな?」
その瞬間、俺は意識を失った。
「ばかやろう、ばかやろう、ばかやろう、ばかやろう、ばかやろう、ばかやろう、ばかやろう!!!」
意識を取り戻した俺は俺の手を握り続けている男を罵り続けた。フレッドは困ったように笑ったがそれでも俺の手を離さなかった。強い力で握られほどけない。五分ほど同じ言葉を言い続けて自分が馬鹿らしくなってきた。
「手離せよ、動きにくい」
「やだ。今日はずっと離さないよ」
こいつはこんな男だっただろうか。もう少し淡白な感じだった気がするのだが。もしかして偽物だろうか? そんな万が一の可能性を考えるとなんだか気が楽になって来た。もしかして今までのことだって夢の可能性も無きにしも非ずだ。現実から逃げていることは理解しているが、そうでもなきゃやっていけない。今日だけでかなりの体力を使った気がする。
フレッドにキスをされ、告白された。まるで現実感がない。
それにしても、こいつが、ね。
「顔赤いよ?」
フレッドの野郎がふざけたことを言っているが無視だ無視。そう言えば返事とかした方が良いのだろうか? もちろんこれからもこいつを好きになることはないと思う。
だがもう結婚して、変な返事をして空気を悪くするのもよろしくない。
よし、このまま有耶無耶にしておこう。
「そういえばカトレア」
「ん?」
「返事は?」
こいつッ! せっかく有耶無耶にしようと思ったのに。鬼畜野郎め。
「教えるか、ばーか!」
「そうかそうか。うちの奥さんはカワイイな」
ムカついたので蹴った。脛のあたりを何回も。それでも笑っているフレッドは若干マゾなのかと少しだけ慄いていたのは秘密だ。
後半がグダグダになった。書いてて思いました。僕、告白とか恋愛とか書くの苦手。じゃあ書くなよとは言わないでください