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恐怖のゴリラ  作者: 松戸 尚
4/4

逆転

ジョルジュと二度と会わないと誓ってから10日が過ぎていた。

その間、何度か夕子を飲みに誘ったのだが、全て断られた、もう2週間も夕子と会っていない。

花屋に寄ってみても良かったのだが、なんか付きまとってるみたいで嫌だった。何度も書くが、そもそも俺には彼女がいるし。もしかして彼女がいる事が夕子が俺に会わない理由なのかもしれない、と考えていた。しかし、彼女がいる事は最初から分かっていた事で、その上で夕子から誘われているのである。俺がこの事を気にする必要があるのだろうか。もちろん、彼女に対しては気にしなければいけない事であるし、そもそも夕子と会ってはいけないのは分かっている。しかしもう手遅れである。俺は夕子に会いたい。


俺から夕子にメールを送ると、必ず返信は来る。しかし夕子からメールが来る事は無くなった。その代わり、ジョルジュから頻繁にメールが来るのである。その内容の殆どが、何処かに良い店はないか?と言うものであった。

知らん!知ってても教えん!とは書かずに、俺の行きつけではない店を教えてお茶を濁した。

ジョルジュが何の為に俺に店を聞いてくるのか、俺はそんな事は一切気にしなかった。まさか俺の知らないところで、こんな事になっていたなんて。


昨日、ジョルジュからまたメールが届いた。飲みに行こうと言うのである。

俺はジョルジュとは二度と会わんと誓ったのだから、当然こんな誘いは断るべきであったが、俺は飲みに行く事にした。

何故飲みに行くのだ、誓いはどうなった、誓いを破れば地獄に落ちるぞ!と言われそうだが、俺は飲みに行くと返事をした。そして俺は今、予想された通りに地獄に落ちた。

ジョルジュのメールにはこう書いてあった。飲みに行こう。夕子も来るし、3人で飲もう。

俺はこれを読んだ時に、ジョルジュが夕子を飲みに誘ったが流石に断られて、ならば俺も一緒ならいいだろうと3人で飲みに行く計画を立てたのだと思った。そしてここのとこ夕子と会ってなかった俺は、この誘いに乗ってしまったのである。地獄に落ちるとも知らずに。


俺が店に着くと、ジョルジュが先に来ていた。

「やっと来たな」

やっとじゃねえよ、時間通りだ。

「、、、」

「ビールでいい?」

「夕子がまだだろ。待とうぜ」

「いや、夕子は遅れてくる」

「そうなのか、じゃあビール」

夕子が遅れて来るなら、夕子の来る時間に集まればいいじゃねえか、なんでお前と二人で飲まなきゃならん、と思いつつ、俺はビールジョッキの半分を一気に飲んだ。

夕子が来るまでの間、ジョルジュの愚痴に付き合わされた。

「この前さ、タクシー待ってる時にタバコ吸ってたんだよ」

こいつは何処でもタバコ吸うな。

「、、、」

「そしたらさ、ここは禁煙だって注意してきた奴がいるんだよ。でも俺は吸うのをやめなかった。で、そいつがさ、警察呼んで来たんだよ。でも俺はそれでもやめなかったね。グハハハハハハ」

こいつ、何の自慢してんだ?勘弁してくれよ。こんな下らない話は聞きたくないし、周りからこいつと同じ種類の人間だと思われたくない。

そう言えば、さっきからジョルジュは全然飲んでないな。もしかして、酒癖が悪い事の自覚があるのかもしれない。夕子の前で出ないようにしてるのか。

早く夕子来ないかな。俺はもう限界なのだが。

、、、、、、、、、。


「ところでさ、乗ってないバイクがあるって言ってたろ」

「ああ、あるよ。処分してもいいんだけど、そのまま置いてある」

「それさ、俺にくれないか?」

とジョルジュが俺のバイクを欲しがった。

「構わないけどさ、修理が必要だよ」

「修理はするよ。じゃあ決まりね。バイクも

貰うね」


何故かバイクをあげる事になってしまった。まあいいさ、乗ってないし、処分したいと思っていたから。

夕子まだかな、、、、、。




目に前にジョルジュと夕子が並んで座っており、すでに10分ほど何も話していない。俺はただ、二人の様子を見ている。ただ見ている。


30分ほど前に、夕子がやって来た。

当然かのように、ジョルジュの隣に座った夕子は、いきなりウイスキーをストレートで注文した。

夕子はショットグラスに入ったウイスキーを飲み干すと、ゆっくりと話し出した。

その内容を要約するとこうである。


もう連絡して来ないで欲しい。迷惑している。彼女がいる人なんか好きにならない。付きまとわないで。もう花屋にも来ないで。


俺は唖然とした。そして反論した。

「俺は付きまとったか?メールをしただけじゃないか。そもそも彼女がいる人なんか好きにならないって、じゃあ今までは何だったんだよ。花も買うなって言うのか?」


それきり俺は黙ってしまい、10分が経過した。

そもそも誘って来たのは夕子のほうだ。彼女がいると言ったにも関わらず。そして俺が夕子を好きになったら、今度はストーカー扱いだよ。

なんで俺はこんな目に遭わされているんだ。夕子とは一体どんな人間なんだ。


このまま時間が過ぎて行くのを待っても仕方ない。とにかく話そう。


「俺とはもう会わないって言う為に俺を呼び出したの?ジョルジュに協力してもらって」

「違う、ジョルジュと2人で飲みに来る約束だったんだけど、ジョルジュがはっきりと言ってやった方がいいって言うから。その方が傷つかないからって」

「おいおい、どう言う事だ?ジョルジュと付き合ってるのか?」

「まだ付き合ってるとまでは言えないかな。まあでも、付き合ってるかな」

「いつから?」

「2週間前」

「え?じゃあ2週間前に3人で飲んだ時から付き合ってたのかよ」

ジョルジュは一切言葉を発しない。いつもの不気味な目つきをしたまま黙っている。


「ジョルジュは彼女いないんだよ。あなたとは違うの。一緒にいてとても落ち着く」

「いやいや、だからさ、それは俺が隠してた訳じゃなく、彼女いる事は最初から知ってたでしょ。別れればいいの?」

「そんな事しちゃダメ。それに私にはジョルジュがいるから」


もうダメだ。何言っても通じない。何という論理展開だ。

そもそもこんな真似をされてまで俺は夕子と付き合いたくない。と言うか、夕子にはジョルジュ程度がお似合いだ。

そんな風に思ったら、何だかスッキリして、俺は5千円を置いて、黙って店を出た。



まったく酷い話しだよ。向こうから誘ってきておいて、別の男が出来たら俺をストーカー扱いかよ。

ジョルジュも汚い奴だ。夕子と付き合っていながら、なぜ俺にあんなにコンタクトを取って来た。店を教えろと何度も言ってきて、行きつけを教えなくて本当に良かった。アイツは心の中で俺に対する優越感を得ていたんだろうな。ドッチボールで泣かした仕返しかもな。


俺は行きつけの居酒屋に寄って一人で飲んだ。怒りが収まらない。なんでこんな目に遭わされてるんだ。

酔いが回ってきた。そして、昔観た映画のワンシーンを思い出していた。

男が元カノの彼氏のバイクを盗んでいる。そしてこう言うんだ。

「奴は俺の女を、俺は奴のバイクを」


そして俺はそのセリフをこう言い換えた。

「奴は俺の女を、そしてバイクも」


許せん!本当に許せん。




夕子と最後に会ってから2週間が過ぎた。

俺はある筋から、夕子が警察に、俺にストーカーをされていると相談していた事を聞いた。

夕子は口が軽いようで、いらん事までよく喋ったそうだ。

話をまとめると、初めて3人で飲んだ後に、ジョルジュから俺と別れろと言われたらしい。奴には彼女がいて、君に相応しくない。別れなきゃ、俺はもう会ってやらないぞ。

なぜそんな自信満々な態度が取れるのか、常識で考えていては奴の思考に追いつけんが、それにしても理解し難い。

そしてなぜかジョルジュのその脅しに屈した夕子は、ジョルジュに言われるがまま、警察に相談したらしい。


警察は、夕子の言動が微妙だった事から、特に動く事はなかったそうだ。でも気を付けろとアドバイスされた。



まったくとんでもない奴らに関わってしまった。夕子の行動の意味が分からない。いつのまにか俺が加害者で夕子が被害者。

夕子は確かに美人だ。それは認めよう。じゃあ夕子に未練があるか、と聞かれれば、まったくないと即答しよう。

だってそうだろ、ジョルジュを好きになる女なんかに興味を持てるか?

彼女とは今でも、円満に付き合っている。何もバレる事は無かった。そして幸せを感じている。

唯一、不満があるとすれば、花を買うのに遠回りするようになった事だけだ。


今は自分の元どおりの人生を楽しんでいる。満足な人生である。

夕子の事はもうどうでもいい。夕子には未練どころか、むしろ嫌悪感があるくらいだ。

そして今後の人生において、夕子とジョルジュが俺の前に二度と現れない事を望む。

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