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恐怖のゴリラ  作者: 松戸 尚
1/4

看板娘

どうしても書いておかねばならぬ事がある。

それは、俺が大変な恐ろしさを感じたゴリラの事である。もうあんな思いはしたくないし、そして同じような恐怖を他の人に味わって欲しくないのであり、だからここに恐怖のゴリラの事を記録しておきたいのである。



まず初めに、恐怖のゴリラとは何かを書いておくべきであろう。そもそもゴリラなんて動物園にしかいないし、日本に住んでいてゴリラの恐怖を感じる事など、普通はないのである。では俺が恐怖を感じたゴリラとは一体なんなのか、正体を明かそう。正体が分からなければ、これを読んでも対策を取る事が出来ないのだから。


俺が小学生の頃に、同じクラスに身体が周りの子ども達よりも上下にも左右にも一回り大きな男がいた。名はジョルジュと言う。ジョルジュはとにかく身体が大きく、小学生である俺達は、ジョルジュの事をゴリラと言うアダ名で呼んでいた。

そう、恐怖のゴリラとは、小学校の同級生であるジョルジュの事である。


ジョルジュは、大きな身体からは想像もつかないほど人見知りであり、物静かで余り喋らず、大きな身体を少し突かれたくらいの事で泣いてしまうほど気弱な男であった。以前、ドッジボールをしていた際に、俺がジョルジュのミスを少し責めただけで泣き出してしまい、女子からジョルジュを虐めたと責められた事があった。


小学校を卒業してからは、ジョルジュに会う事はほとんどなかったのであるが、今から1ヶ月ほど遡る話になるが、久しぶりにジョルジュと会う機会があったのである。


俺が住む街の駅前には花屋があって、そこでたまに花を購入していた。特に花が好きと言う訳ではなく、花が好きな彼女に贈る為の花を購入していたのである。

店には看板娘と言っていいほど綺麗な女性が働いていた。綺麗ではあったが、俺には彼女がいるし、その看板娘に惹かれる事はなかった。

ある日、彼女に贈る花を購入する為に駅前の花屋に立ち寄ると、その日は看板娘一人だけが店におり、他の店員は誰も居なかった。看板娘はいつものように愛想がよく、気軽に話しかけてくる。

「いつもありがとうございます。花が好きなんですか?」

「いや、俺ではなく、彼女が花好きで、贈るのに購入してるんです」

「そうだったんですか。彼女はきっと幸せでしょうね。いつも花を贈られて。彼女が羨ましい」

「そうかな、最近はあまり喜んでくれないですよ」

「えー、そうなんですか。こんなに綺麗な花なのに」

「当たり前になっちゃったのかな。まあいいんですけどね」

「そう言えば、明日、この店の隣に居酒屋がオープンするんですけど知ってました?」

「ああ、さっき割引券を貰いましたよ」

「私も貰いました。良かったら一緒に行きませんか?」

「え、俺と?」

「はい。行ってみたいんですけど、一緒に行く人がいなくて」

「まあ明日は予定もないし、そうだな、じゃあ一緒に行きましょう」

こんな会話があり、俺は看板娘と飲みに行く事になった。

おい、ジョルジュはどこに行った?と言いたくなるのは分かっておりますが、話には順序と言うものがある訳で、ジョルジュの登場まではもう少しお待ち頂きたい。


翌日、俺は花屋の看板娘と場末の居酒屋にいた。駅前のオープン初日の居酒屋は大盛況であり、入る事が出来なかった。

オープンした居酒屋に行くと言う当初の目的は果たせなかったのであるが、美人と二人、場末の居酒屋も悪くない。もちろん、彼女に対する罪悪感はある。しかし、ただ飲むだけである。これによって、花屋でのコミュニケーションは良いものとなり、彼女に贈る花もまた良いものになるはずである、という全くもって身勝手な言い訳を心に秘めて、看板娘と楽しく飲む俺であった。

看板娘は夕子と言う名で、俺と同じ28歳である事が分かった。

夕子は酒が強く、大いに盛り上がった。そして次こそは駅前の居酒屋に行こう、という約束をして夜の11時に店を出た。

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