第7話 事後処理
「——ふぅ、こんなもんか。」
アカネ村から借りてきた3人組が落ち着くのを待った後、俺達は盗賊団のアジトを物色し、装備品やお金になりそうな装飾品を回収、一箇所に集めておいたアカネ村の女性達の亡骸を埋葬した。
盗賊には似つかわしくない髪留めや女物の靴などの、女性達の遺品であると思われるものは、遺族に返そうということになり、他のものとは分けてまとめて荷馬車に積んでおいた。
帰る頃にはもうそこそこ暗くなっていたため村の門は締まっていたのだが、
「おおーぅい!ただいまぁ!開けてくれぇぇい!」
アカネ村の3人組のうちの一人がそう叫ぶと、あっさり門は開いた。
これでいいのか……
まぁ帰れたのだから良しとしよう。
野宿はまだ慣れないからな。
女性達の遺品を遺族に渡すと、俺達がそこまでするとは思っていなかったらしく、村人達に大層喜ばれた。
その中で少し仲良くなった村人もいたので、村人総出の祝勝会にも参加した。
祝勝会といっても一種の宴だ。
もちろん酒も振舞われた。
生まれて初めて酒を飲んだ俺がどうなったか……記憶が曖昧だ。
起きた俺をアルターが軽く引いた目で見ている。
何があったんだ……?
———————————————
「はっ、はっ、ぐっ!はっ、はっ……」
俺は今、盗賊団のアジトがあった山の中を全力で駆けている。
——かれこれ2時間は走り続けているため、かなり足腰に疲れがたまってきている。
なぜこんなことをしているか?
盗賊団と戦った時に、自分の俊敏性に自分の認識速度が追いついてないと感じたからだ。
今朝、酒が残っているせいでボーっとする頭を起こすために村近くの川で顔を洗いながら、ベーファにいい訓練がないか聞いた結果がこれだ。
自分の認識が追いつくギリギリのスピードで山の中をひたすら走り続ける。
慣れてきたらさらにスピードを上げる。
疲れで集中が欠けてきたら一旦休む。
足をマッサージしたり水を飲んだりして、ある程度回復したらまた走り出す。
かなり脳筋なトレーニングな気がしないでもないが、これが意外と効くんだな。盗賊を倒した時の倍近いスピードを出してもコケないようになった。
———よし、今日はひたすら走ろう。
————————————————
日が暮れるまで走りまくって、村に帰った頃には全身擦り傷だらけになっていたが、その代わりに森の中でも全力疾走が出来るくらいには認識速度が上がった。
普通の人間なら1日程度では絶対に無理だと思うが、これも流れ人の器用さのなせる技なのだろう。
翌朝、盗賊団退治の報酬である2500円と盗賊団のアジトにあったものの中から、使えそうな装備品と売れば金になりそうな装飾品を貰ったのでアカネ村を後にした。
出たのはいいが、次にするべきことが分からない。
そんな時は3人組のリーダーであるベーファに聞くのが手っ取り早い。
「これからどうする?
またエルフの村に戻ってクエストを受けるのか?」
「そうだな。
どちらにしてもクエスト完了の報告をする必要もあるから戻らないとな。」
なるほど。クエストはやりっぱなしではダメなのか。
それだと、クエストを受けて、適当に時間をつぶしてからクエスト完了の虚偽の報告をすることが出来るのでは?と思ったが、よく考えたら報酬を払うのは依頼者であってギルドではないので意味は無いのか。
では何のための報告なのか?
それは、冒険者としてのランクを決めるための格付けのためであり、それは何かしらの緊急事態に個別に依頼を出す際の指標になるらしい。
例えば、強力な魔物が都市の近くに現れた場合など、その魔物の強さを鑑みて、「あの冒険者は今年〇〇件のクエストを達成しているから依頼してみよう」といったことになるらしい。
虚偽の報告をしていると、こういった時に自分の実力以上の依頼が来てしまって危険、ということになるようだ。
————————————————
道中の魔物を片っ端からワンパンしながらエルフの国であるエルブンガルドについた一行。
全員で一つづつまわるのも効率が悪いので、クエスト完了の報告に龍斗とベーファ、盗賊団の持ち物の売却にアルターとガント、と分けて行った。
「——はい、クエスト完了の報告ですね?かしこまりました。
少々お待ちください……アカネ村…盗賊団……」
ギルド受付のお姉さんが慣れた手つきでカチャカチャと端末のようなものを操作した。
「はい、大丈夫ですね。冒険者証を拝見してもよろしいですか?」
「「はい。」」
「ベーファさんと、剣持龍斗さんですね。はい、記帳しました。お疲れ様でした。」
お姉さんの明るい笑顔に見送られつつギルドを出た後、盗賊団の持ち物を売りに行っていたアルターとガントと合流した。
両者の距離が程よく縮まったタイミングでベーファが声をかけた。
「おつかれさん。
報告の方は無事終わった。
そっちはどうだった?」
それに対して、お互いが立ち止まってからアルターが答える。
「こっちもいい感じだったよ。
あの頭がつけてた厳ついナックルが結構いい装備だったみたいで、他のと合わせて3200円だったよ!」
「おお!ってことは村長からもらった分を合わせて5700円か!
これはなかなかのもんだな!」
トレーディングカードの買取価格の話か?と一瞬思った龍斗だが、よく考えるとこの世界のお金の価値は現代日本語の200倍くらいだ。
だとしたら今回のクエストで得たお金は5700円×200で114万円だ。
四人で割ると285000円。
一週間にも満たない期間で稼いだのだからかなりのものだが、命を張った仕事に見合うものかと言われると、かなり少なく感じる。
盗賊とはいえ人を殺したのに平然としているところを見ても、この世界では命の価値がかなり低いようだ。
「あ、あと、ちょっと小耳に挟んだんだけど、王国最強の流れ人魔法使いがこの国に来るらしいよ。」
「本当か!?
これは見に行かないとな!」
え、【王国最強の流れ人魔法使い】……?
この前は適当に流したけど、
それってたぶん……俺の母親…だよな……?