第1話 冒険の始まり
思いついたので書いてみます。
よろしくお願いします。
——人口2億5千、大陸の約6割を誇る大国、ガバナー王国。
その広大な領地の西の端に位置するサドン山。
そしてその中腹に、一人の少年が倒れている。
男としては長めの黒い髪に少し黄色がかった肌、顔の造形は整っていて、いかにも異性から好かれそうな日本人の少年である。
年齢は20歳前後、白のTシャツにジーンズ、上は黒のジャケットを羽織っている。
ごく普通の日本の学生、という風情である。
しかしここは日本ではない。
それにその少年の頬はこけて、顔色も悪い。
一見すると死んでいるようにも見える。
しかし、少年の口から微かに漏れる息から、かなり危なくはあるがまだ生きていることがわかる。
数分後、少年の瞼が微かに動いた。
奇跡的に目を覚ましたようだ。
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背中が暑い。
焼けそうだ。
体が怠い。
目を開けることすら億劫だ。
それに、地面にうつ伏せに寝転んでいるため、体の前半分が少し痛い。
俺は気だるさを訴える心身に鞭打ち、目を開ける。
「———っ、」
目の前には地面。
周りは一面森だ。
俺はどこかの山の中で倒れていたらしい。
なぜだ?
俺はさっきまで家にいたはずだ。
何をしていた?
——勉強だ。そう、大学の前期試験に備えて勉強をしていたはずだ。
よく思い出せ、最後の記憶はなんだ?
数式を書いていた。ああそうだ、数学の難問に挑んでいたのだ。
字を書き損じて消しゴムを取ろうとしたが、うっかり机の下に落としてしまった。
椅子から立つのが億劫で、椅子を引いただけ、体は椅子に座った状態で前屈して消しゴムを拾おうとして、バランスを崩し頭から倒れ込んだ。
そこまでは記憶がある。
しかし、そこからこの山まで移動した記憶がない。
5分ほど考えた後、一つの可能性に思い至った。
父親、いや、あのクソ親父だ。
俺が5歳になる前に妻、俺からすると母親が蒸発してからというもの、俺と、一つ年下の俺の妹に暴行を繰り返すようになり、俺が高校に入学すると同時に俺達兄妹を家から放り出して若い女を代わる代わるに連れ込んでいるクソ親父。
俺は国内でも指折りの偏差値を誇る進学校に通いつつ、アルバイトで自分と妹を養った。
妹も高校に上がってからはアルバイトと家事で俺を助けてくれる。
なぜそんな状況で大学なんて行ってるんだ?と思う人も多いだろう。しかしそれには理由がある。
あのクソ親父を見返すためにキャリアが必要だ。
無学では奴には勝てない。
奴は内面こそ腐っているが、外面は完璧だ。
現役で東○大学に入学し、卒業後はメガバンクに勤め、そこでも実力を買われてみるみる昇進、仕事よし顔よし人柄よしの三拍子揃った超人で仲間やご近所からの評判もすこぶるいい。
——家の外では、だが。
頭がいいため、俺や妹に見た目でわかるような怪我は絶対に負わせないし食事を抜き続けることもない。
しかしそれ以外はなんでもありだ。
妹が小学4年生の時、体がだんだん大人に近づいてきてブラジャーを買って欲しいと頼んだ妹に、酒で酔っていた親父は「ガキのくせに生意気だ。」と激怒し妹を裸に剥いてベランダに放り出して一晩放置した。
それも「大声を出したらコイツのタマを潰す」と脅した上でだ。
もしそのクソ親父が何かの気まぐれで俺達の家にやって来て、青い顔をして気絶している俺を見たらどう思うか?
もしそうなら奴は俺が死んでいると思ったのではないだろうか。
妹がアルバイトに行っていたこともあり、家は俺と奴だけだ。
状況は最悪。ほぼ一文無しの状態で放り出した息子が死んでいて、一緒に放り出した妹の方は、生活痕があるのに今はいない。
俺達は無駄なものを買う金がなかったから家には小さな冷蔵庫と中古で買ったボロボロの勉強机くらいしかない。
このまま放置して妹に俺の死体が見つかれば、すぐに警察沙汰になり、自分は仕事をクビになってしまう。
そう考えた親父は俺を車でどこかの山奥に連れていき、捨てたのではないだろうか。
そう考えるとこの状況も納得できる。
———いや、したくはないけど。
妹が心配しているだろう。
すぐにでも帰った方がいい。
幸いなことに俺は労働基準法ギリギリまで詰め込んだシフトのお陰で体力はある方だ。
頑張って歩けば今日中に街へ降りられるだろう。
「え……なんだ……これ……」
山を降りた俺の前に広がるのは一面の荒野だった。
日本にこれ程広大な荒野はないはずだ。
あるとしたら、行ったことはないけど北海道の田舎くらい、か?
いやいや、俺の家は東京にあるんだ。
わざわざ北海道まで捨てにくるわけがない。
だとすると、ここはどこだ?東京近郊にこんな場所があるのか?
—悩んでも仕方ないか。
少なくとも日本国内ではあるだろうから、ひたすら歩けば人里に出るはずだ。
—そんなことを考えてた時期が僕にもありました。
歩いて歩いて、やっと見つけたのは、見たこともない巨大な、しかも緑色の蜂一匹と戦っている耳が異常に長く、それでいて目を見張るようなイケメン3人組だった。なんだこれ。
これあれだ、夢だわ。
勉強しているうちに寝落ちしたに違いない。
そういえば最近しっかり寝れてなかったもんな。
そうと分かれば仕方が無い。
夢が覚めるまで適当に過ごそう。
やけにリアルな夢だし、楽しまないと損だ。
ボーッとしていた俺に、さっきのイケメン3人組のうち、一番背の高い男が大声で叫んできた。
「何やってんだお前!避けろ!」
——え?何を避けるの?
訳が分からず惚けていた俺の後頭部に、いつの間にか俺の背後に現れていた二匹目の蜂が体当たりしてきた。
派手に吹っ飛んだが、コケる時に受身を取ったので、それほどのダメージはなかった。
「いってぇなこの害虫が!」
腹が立ったので蜂の左目に全力の正拳突きをおみまいすると、蜂は力なく落ちて、大きな針を一つ残して消え去った。噂に聞くゲームみたいだ。
夢なので別に怖くはなかったが、やけに生々しい手応えだった。
——え、夢だよね?これ?
蜂が消えるまでの数秒間、手には蜂の紫色の体液がこびり付いている。
最初に見た蜂を倒した3人組が慌てて駆け付けたが、俺を見て驚愕の表情を見せている。
「気のせいか?
き、君はいまキラービーを素手で、しかも一撃で倒したように見えたのだが……」
「キラービー?ああ、さっきの変な色の蜂のことか?
普通に殴っただけだけど。」
3人組はさらに驚愕の表情を濃くしていく。こんな表情でも醜くならないって、ほんとにイケメンはずるいよな。
「ああ、そうだ。
しかしコイツを一人で倒すにはレベル25相当の実力が必要とされている。
それを素手で、しかも一撃で倒すとなると、一体どれほどのレベルが必要なのか見当もつかない。
失礼だが、君のレベルを教えて貰ってもいいだろうか。」
——何言ってんだこいつ。
まず第一に、レベルってなんだ。水位とかの話か?
いや、やったことは無いけど確か、ゲームでそんなシステムがあるんだっけか。中学生の時にクラスのヤツが話していたような気がする。
「すまないが、そのレベルっていうのがよくわからん。
強さを示すパラメータということはなんとなく分かるが、具体的な数値なんて気にしたこともない。」
そんなことを話していると、突然空が一瞬光り、何かが一直線に俺の横に落ちてきた。
ズドォォォオオオオオン!!!
あまりの落下速度に動けなかった俺の足から50cm程のところに落ちてきたというのに、俺には何のダメージもなかった。
砂ぼこりが晴れ、そこにあったのは煌びやかに装飾されていて、それでもただの飾りではなく、高い殺傷能力をうかがわせる得体の知れない迫力のある黄金の剣だった。
イケメン3人組も、元から大きい目をさらに大きくひん剥いて驚いている。
しかし俺はなぜかその剣に惹かれ、手に取った。
かなり深く地面に刺さっていたはずだが、なぜか楽に抜くことが出来たその剣は、長さ約1.5メートル、重さは……よくわからないな。バイト先の高校生が持っていたエレキベースより少し重いくらいだろうか。
「き、君はまさか、【流れ人】か!?」
3人組のうち、今度はいちばん背の低い(といっても、170cmは超えているだろう)男が聞いてきた。
「流れ人?なにそれ?」
「我が国に古代から伝わる伝説で、世界が闇に落とされそうになった時に遥か遠い世界より勇者とその仲間が現れる、というものがあるんだ。そしてその勇者御一行のことを我々は【流れ人】と呼んでいる。
【流れ人】がこの地に現れる時、一緒に現れる武器があるらしく、それはどれも黄金に輝いていたそうだ。」
んー。よくわからん。
ゲームとかアニメとかが好きなヤツならその説明でも理解出来るのかもしれないが、幼い頃からそういうものを与えられなかった身としては、もう少しわかりやすい説明をしてほしい。
そんな俺の様子を見て、中くらいの背の男が説明を入れる。
「わかりやすく言うと、流れ人ってのは、
この世界がやばい。滅ぼされる。って時にどこかから召喚される勇者のこと。そんで、その人達はみんな、今落ちてきた剣みたいな金ピカの武器を持ってたらしい。
ちなみに、この大陸にはそんな剣を作れるような技術はないから、いつの時代の勇者も現れてすぐに周りの人が勇者だと分かったそうだよ。」
「んー。たぶんわかった。
でも、世界が滅ぼされるってどういうことだ?誰かが世界征服でもするのか?」
「何言ってるんだ。
勇者が戦う理由って言ったら一つしかないでしょ?
魔王を倒すんだよ。」
まだ10タイトルくらいしかなろう小説読んでないので、設定被ってたらごめんなさい。