最上階
如月達が一階に無事忍び込んだ頃。
ビルの最上階、社長室とでも言うのだろうか。その照明が落とされた部屋の中、青白く光るモニターを眺める人物がいた。
「………」
その人物の表情は窺えない。何故ならば、目の部分だけが空いている仮面を付けていたから。
モニターにはビル内部に忍び込み、辺りを窺う如月と浅野の姿が写し出されていた。
「鼠が二匹、忍び込んだ様ですね…」
不意に暗闇から女の声。その声の主が下界を一望できる窓辺に近付く。
差し込む月明りに現れたのは、鳴神。
首領は何も答えない。
「処置は如何なさいます?」
目を細め、微笑を浮かべ問う。
「…『アレ』二体を使え。調整は済んでいるのだろう?」
目線を鳴神に移す。……暗闇に爛々とした瞳が浮かんでいた。
「畏まりました。…それでは侵入者の排除に参ります」
まるで楽しむ様な声音を残し、踵を返す。
パタン、と扉が閉まり、首領だけが残された。
「…女狐が」
悪態を吐くと、再びモニターに目を遣る。
既に侵入者は移動を開始していた。…ふと、他の画面に違和感を感じる。
「………守名」
直ぐ側に、黒い影が舞い降りた。
「ここに」
「屋上に狂犬が迷いこんだ様だ。追い払え」
「御意」
守名と呼ばれた男は、現れた時と同じ様に音も無く消えた。
「………」
再び静寂が戻る。
カチッ。ブンッ。
首領が側にあるパソコンを立ち上げ、キーボードを叩き始めた。
「…見極めてやろう」
カタカタカタ…タンッ。
最後のキーを押し、首領が椅子に深く座り直す。
「どちらが生き残るにふさわしいかをな…」
パソコンのモニターには、
『緊急自爆装置』
とだけ表示されていた…。