午前零時
時計の針が、零時を指した。
既に辺りには人影一つ見受けられない。
……結局、誰かが現れる事は無かった。
ビルの陰で如月が顔を上げる。
「…行くぞ。浅野」
その声に、愛用している戦闘杖を持ち替えた。
「はいっ」
予め目星を付けていたビルの裏口に近付く。…鍵が掛かっていた。
「…壊すか」
「おわ…!?ちょっと!」
いきなり背に負う刀を抜こうとした如月を制する。
「ダメっすよ。いきなりそんな事しちゃ。センサーでも掛かってたらあっという間に囲まれちゃいます」
「ではどうする?開けてくれとでも頼むのか?」
浅野がニヤリとする。
「それで開けてくれたら苦労しませんよ。…コイツを使います」
そう言い、サイドバッグから小箱を取り出す。
「最近流行ってるピッキングツール。最新型ですよ。このタイプの扉なら開錠と、センサーカットも出来る筈です」
「……本当か?」
浅野を見る目は明らかに疑っていた。
「ひ、ヒドい…。任せて下さいよ」
「フン、やってみせろ。出来なければ私が叩き壊す」
…何を壊すのか聞かないでおこう、と思いつつ小箱を開ける。
「まずはセンサーをカットします」
箱の中から、磁石の様な楕円形の石を取り出すと、扉を見上げる。
…あった。扉上部と、僅かな隙間を挟み壁から小さな突起物がそれぞれ付いている。
「コイツを取り付けて…っと」
器用に戦闘杖を足場にし、先程の楕円形の石を取り付ける。
「……よし。よっ、と」
飛び降りると再び小箱を開ける。中から幾つかの器具を取り出すと、鍵穴に差し込む。
「ん~。ん、ん、ん」
カチャン。
軽い金属音がし、開錠される。
「………」
そっ、と扉を開け、内部を窺う。…何も起こらない。上手くいった事に胸を撫で下ろす。
「やりましたよ。見つからない内に行きましょう」
ややトーンを落とし、振り向きざま背後の如月に声を掛けた。
「って、うを!?」
敵が居た訳では無い。
如月が刀を構え、今にも斬りかかりそうな体勢だったからだ。
「何だ…上手くいったのか」
「ほ…本気だったんですか…」
「何を言う。冗談だ」
冗談に見えねぇ…。などと思いつつ扉を大きく開けると、内部に足を踏み入れた。如月が後に続く。