牙城
キキィッ。
タイヤを軋ませ、車が止まる。
ガチャッ。
如月が降り、浅野が後に続く。
運転手は二人が降りたのを見届けると、直ぐに発進し夜に消えて行った。
「………」
周囲を見回す。目測二百メートル先に、目的地のビルがあった。
「いないっすね…」
オフィス街とは言え、まだこの時間帯は人通りがある。スタッフの姿は見えなかった。
…と、その時。
「こんばんは」
スーツ姿の若いサラリーマンが声を掛けてきた。
「……誰だ」
見覚えの無い人物に、警戒心を露にする。
「…鴉の遣い、と言えば分かりますか?」
男がやや声を潜めて言う。…どうやらこの男がスタッフの様であった。
スッ、と写真の入った封筒を渡す。
「お預かりします。…それと、本部より伝言です」
「…聞こう」
いつの間にか人通りがまばらになってきていた。
「写真については直ちに調査する。現在予定の人員に付いては連絡が付かず。最悪、君達二人で初段の突入を命令とする。時刻、零時を回り次第指令を待たずに突入せよ。…助っ人については到着が遅れている模様。到着次第突入させる。以上。幸運を祈る」
「………」
「………」
伝言を聞き終わった後も、二人は押し黙ったままだった。構わず男が続けた。
「伝言は以上です。…私からも幸運を祈っておきます。…では」
男は背を向けると、灯が少なくなり始めたオフィス街へと消えていった。
「…やるしか無いっすね」
「…あぁ」
如月は前方にそびえ立つ、暗いビルを見上げた。




