二十階、『破壊するモノ』
カツ、カツ、カツ。
階段を上りきる。眼前には扉。辺りには他に何も見受けられない。
「…ここか」
如月が呟く。
「………」
布津が刀を握り締め、その扉の前に出る。
「俺が先に突入する。用意は良いか?」
「言うまでも無い」
その言葉にニヒルな笑みを浮かべる。…扉に手を掛けた。
バンッッ!
二人が室内になだれ込む。
……広い一室が眼前に広がる。
床には絨毯が敷かれ、真直ぐ突き当たりにはガラス張りの壁。そこから蒼い月光が降り注いでいた。
…その月光を浴び、一人の人物がデスクの側に佇んでいる。他に誰かが居る気配は無かった。
「…ようやく、此処まで来たか」
その人物が背を向けたまま語る。
「キサマ等もこれまでだ!観念しろっ!」
如月が進み出て叫ぶ。
「フッフフ。威勢だけは一人前だな、如月 由雨。だが」
その人物が振り返った。
仮面の下の眼光が、二人を射る。
「何人も私を止める事はできん」
スッ。
手にした剣を向ける。
「こっちは二人だ。逃げられると思うな」
如月が小太刀に手を掛け、布津が身構える。
「フッ…」
「何がおかしい!」
「お前は、このセカイをどう見ている?」
「……何?」
質問の意図が分からず、疑問を口にする。
「…この『セカイ』だよ。……表の日常に生きる怠惰な人間達は仮初の平穏に甘んじ、裏の日常ではテロや闘争が絶えぬ」
「……何が言いたい」
「私はな、全てを無に、ゼロにしたいのだよ」
「………」
布津は押し黙っている。
「全てを破壊してゼロにし、人間を原初に戻す。……それが『G・B』、『ゴッドブレス』の思想」
首領が外を振り返り、天を仰ぐ。
「この静かな蒼い月が、いつまでも続く事を私は望む。だが放っておけば、人間は全てを滅亡へと向かわせる」
「だから全てを破壊すると言うのか?」
「そうだ。…お前達の言う、平穏というものがそれで訪れる」
「詭弁を語るなっ!」
シャラッッ!
如月が小太刀を抜く。
「キサマのエゴで、どれだけの人間が死んだか分かるかッ!?」
「………」
再び振り返り、如月を見つめる。
「…詮無き事。全ては大義の為。……そうか、お前は」
「五月蠅いッッ!」
悲鳴の様な如月の怒鳴り声に、その先が掻き消される。
「……首領よ」
布津が不意に口を開く。
「お前は、もう待てなかったのか」
「………」
沈黙。それが肯定ともとれた。
「…NO.6…。お前も見てきただろう?かつてお前が始末してきた者達を」
その言葉に眉をひそめる。
「在る者は支配欲に駆られ、在る者は富に惑わされ、無用な行動に走る」
「………」
布津は黙って聞いている。
「結局、人間は知恵を得るべきでは無かった。アダムとイヴがエデンを追放された様に」
首領が一歩、踏み出す。
「私はもう見てはいられなかった。これ以上人間が醜態を晒すのに、我慢ならなかった」
「……そうかもしれん」
「!?…何を!?」
如月が喰ってかかりそうな勢いで布津を見る。
「増長し過ぎたのかもしれんな、人間は」
シャラン。布津が刀を抜く。
「だが、それを理由にするのは、お前の思い上がりだ…」
チャキッ。正眼に構える。
「………」
如月はジッ、と布津を見つめていたが、直ぐに向き直り構えた。
「…そうか。やはりお前達とは相容れぬか…。残念だ」
ヒュンッ。
剣を払う。
「来い。お前達と私、どちらが正しいか見極めてやろう!」
「…後悔するぞ」
「…倒す」
最後の闘いが始まる。