布津 純能介
時が止まったかの様に、お互い微動だにしなかった。
パリィィンッ。
床に落ち、砕け散ったイヤリングに静寂が破られる。
「……む」
眼前に突き出した拳と、如月の顔が視界に映る。
「気が付いたか」
布津の気配が変わったのを悟り、声を掛けた。
「…ここは」
拳を下ろすと、サングラス越しに如月の顔を見る。
…その頬には紅い線が走り、白い肌に血化粧が施され美しく写っていた。
「…敵の本拠地だ」
カシンッ。如月が小太刀を納めるや否や、
バキッッッ!
布津の顔面を思い切り殴り付けた。
「……ッ!」
床にサングラスが落ち、レンズが砕け散る。弾みでジャマダハルが手から落ち、金属音を立てた。
「…この、馬鹿者が」
布津を痛い程の視線で突き刺した。
…如月を見つめ返す。
「…済まなかった」
「それで済めば我々は要らん」
背中の刀を結ぶ紐を解く。
「お前のだ。二度と放すな」
刀を布津に放る。
パシッ。
…カタカタカタ…。
主人の元に戻った刀が笑う。
「このまま付き合って貰うぞ」
クルリと如月が背を向けた。
「奴等を倒す。よもや嫌とは言うまい?」
「……フッ」
布津は刀を左手に持ち替えると、歩き出した如月の後を追っていった。