十九階、死神は眼前に
「………」
エレベーターホールに足を踏み入れる。周囲は暗闇。非常灯の淡い緑の光だけが、周囲を照らしていた。
―――カツンッ。
左手の廊下より、足音。
「!」
如月が身構える。人影が一つ見受けられた。
「…ようこそ、お出でなさい」
聞き覚えのある声。
フッ、と照明が付く。
「…やはりお前か」
無機質な白い照明に照らし出された人物。
鳴神だった。
「フフ…。お仲間を見捨てて良くここまで来られたものね」
「………」
如月が眉をひそめる。
「まぁ良いわ。折角の再開に、邪魔者は居ない方がいいもの。……出てきなさい」
ガチャッ。鳴神の直ぐ側にあるドアが開く。そこに現れたのは――
「……!」
無造作に束ねられた金髪、全身に黒一色のいでたち。
布津の姿がそこに在った。
「…感動の再会ね。かつての味方は今や敵…。フフフ…しかもそれは」
「やかましいっ!……そいつを返して貰う」
「できるかしら?彼は私の支配下にある。それとも殺して死体を持って帰る?フフ…」
「キサマ…ッ」
不意に鳴神が背を向けた。
「無粋な真似をして邪魔はしないわ。あなた達二人で存分に楽しみなさい」
「な…!待てっ!」
駆け出そうとする如月を、布津が立ちはだかり制止する。
「くっ!」
「これでも私は忙しいの。また会いましょう。フフフ…」
不敵な笑い声を残し、鳴神がその場を後にする。
…シャラン…。
布津が腰に差した、奇妙な刃物を抜く。
―――ジャマダハル。インドに伝わる武器。シンプルな構造で、握りの先に刃が付いている。主に拳を突き出した刺突での闘い方が主となる。
それを両手に携え、構える。
「ちいっ…やるしかないか」
小太刀を抜く。
―――問題はどうやって正気を取り戻させる、か…。
お互いに間合いを測る。