十階
キンッ。
軽い金属音を立てて、エレベーターのドアが開く。階層は十階。
ガチャガチャ。
浅野が十一階より上のボタンを連打するが、反応は無かった。
「…ダメですね。これ、乗り継ぎ用のエレベーターみたいっす」
肩を竦めると、ドアの外を窺う。もう一基のエレベーターはランプが消えていた。
「隣りは使えないみたいですね」
如月がエレベーターホールに足を踏み出す。
「仕方あるまい。階段か、他のエレベーターを探すぞ」
……カツン、カツン…。
薄暗い廊下を、二人が歩いていた。
左右にはオフィスが並び、日中には大勢のサラリーマン達が仕事をしているであろう事が窺えた。
「…静かっすね…。」
「油断するな。何処に敵が潜んでいるか分からん」
暗いオフィスに目を凝らす。整然と並ぶパソコンのモニターですら、トラップに思えて仕方が無かった。
「如月さんっ」
「どうした?」
浅野が前方を指差す。
…薄ぼんやりとした照明の中、一基のエレベーターがそこに在った。ランプは点灯している。
「行きましょう」
「あぁ…」
腑に落ちない。こうもすんなりいける物なのか、と思う。
浅野がエレベーターのボタンを押す。上昇ランプが点灯し、唸る様な音が聞こえる。
キンッ。
十階にエレベーターが到着。ドアが開く。
「うお!?」
周りを警戒していた如月に、浅野の悲鳴が届く。
「どうしたっ!?………なっ!?」
エレベーターの照明に照らされ、一人の人物の姿がそこに在った。
「キサマは…私が」
「殺した。そうだよ。俺はお前に一度殺された」
死んだ筈の男、梶浦がエレベーターから歩み出る。
「迷って出たか」
「ハッハ。ちゃんと足はあるぜ?…お前に復讐する為に地獄から戻ってきたのさ」
梶浦が両手に持つ、トンファーをクルクルと回転させる。
「今度こそ、お前には死んで貰うぜ。如月」
パシッ。回転を止めると構えを取る。
「ちいっ…」
小太刀に手を掛けた。
「待てよ」
浅野が間に割って入ると、戦闘杖を構える。
「アンタの相手は俺だ。如月さんは早く先に行って下さい」
「浅野…」
「噛ませ犬には噛ませ犬で充分。さ、早く」
浅野が身振りで如月を促した。
「おいおい。お前に用は無いんだよ、浅野」
梶浦が一歩踏み出す。
「せいやっ!」
如月を捕らえようとするその気勢を威嚇し妨害する。
タタッ。パシンッ。
その隙にエレベーターに乗り込みボタンを押した。
「浅野っ!任せたぞ!」
ドアが閉じる。その場に敵対する者同士が残された。