狂犬
ババババババ…。
ビルの屋上。爆音を響かせながら一機のヘリがホバリングしていた。
ヒュッ。
そのヘリから飛び降りる影が一つ。
ズダンッ!
十メートル程の高さがあるにも拘わらず、屋上に事も無げに降り立った。
「ん~。まだ風が冷たいねぇ…」
飛び降りた男は、天を仰ぎながら呟く。ヘリは既に飛び去っていた。
「招かれざる客人よ」
背後から声。気怠そうに振り向く。
「ああ?」
そこに、忍者が居た。
「ハッハ!…随分と寂しい歓迎だな」
男は大口を開けて笑う。
「直ぐに立ち去れ。…さもなくば」
男が耳をほじくる。
「…さもなくば、何だろうねぇ?」
小馬鹿にした態度にも守名は動じず、
「排除する」
言うや否や、懐から棒手裏剣を投げるっ!
「…ハン」
カキキンッ!
男は手にしていた剣を一閃させた。手裏剣が足元に転がる。
チッチッチ、と顔の前で指を振る。
「そんな子供騙しじゃ、おもてなしとは言えねぇなぁ」
男は剣の切っ先を守名に向ける。
「抜けよ。まさかアレでネタ切れって訳じゃねぇだろ?」
「………」
守名が無言で背中の刀に手を掛けた。
…身が竦む程の殺気が漂い始める。しかし男は涼しい顔だ。
「お~。怖い顔しちゃって。歓迎は楽しく頼むぜ?」
ヒュンッ!
再び手裏剣が飛来する。
「フェイクか」
男は身を捻って手裏剣を躱すと、大振りに剣を振るう。
ガギャンッ!
守名の振り下ろした刀から火花が散る。
「おっ。ビンゴ!」
男はさも楽しそうに手にした剣を弄ぶ。
「まぁだまだ。遊び心が足らねぇな」
「………」
ヒュンッ。
無言で手裏剣を投げる。
「いやいや」
男は顔面を襲う手裏剣を、首の一捻りだけで躱す。
「もっと無いのか?こう…忍術とかさ。ニンニ…!?」
ふざけて印を結ぼうとする男が身を伏せる。頭の直ぐ上をさっきの手裏剣が通過していった。
「…ナルホドネ。流石にビビったぜ。もっと面白いの無いか?」
「………終わりだ」
男がキョトンとする。
「何だよ!折角期待してたってのに…。んじゃ、とっととアンタぶった斬って目的を果たさせて貰うぜ」