一階
浅野を先頭に、二人は照明の落ちた通路を進んでいた。
長い廊下。…ともすると、冥府への道の様にも思えた。
「………!」
浅野が急に立ち止まる。
「どうした?」
「静かにっ。何か聞こえませんか?」
その言葉に耳を澄ます。
………カタンッ。
後方、自分達が歩いてきた方から、何かが落ちる音。
「………?」
……カタンッ。ガタンッ。
音が近付いてくる。しかし目を凝らしても、正体は窺えなかった。
一歩、二歩と後ずさる。
…ガタンッ。ガタンッ!
それが何かに気付いた瞬間、二人が脱兎の如く駆け出す!
「ちいっ!」
「くっそおおぉ!」
迫る音の正体。それは次々と閉じられていくシャッターの音だった。
ガタンッ!ガタンッ!ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンッッッ!!
「浅野!…キサマァァァ!」
「そんなぁぁぁ!!」
全力疾走の二人。その眼前にぼんやりとした光が見えた。
「……!!」
「エントランスだ!あそこまで逃げ切れれば…!」
ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンッッッッ!!!!
「でやぁっ!」
「ハアッ!」
ガシャァンッッッ!!
寸での所で、最後のシャッター一枚の下を飛び込み潜り抜ける。
「ゼェ…ゼェ…」
「ハァ、ハァ…」
如月が息を切らせながら浅野を睨む。
「浅野……」
その声に手と首を左右にブンブンッ、と振る。
「ち、ちちちちちちちょっと待って下さいよっ。確かにセンサーは切れていましたって」
「…ならこれはどう言う事だ…?」
如月が背中の刀に手を掛ける。
「イヤーその、あのですね…」
浅野が弁解をしようと、言い訳を考えていた時だった。
「簡単よ。監視カメラに映ってたから」
「「!?」」
突如エントランスの奥、エレベーターの前から声がした。二人が同時に振り向く。
「………!」
如月が息を飲む。数ヶ月前の闘いが脳裏に蘇る。
そこにいたのは、鳴神。かつて取り逃がした記憶。まざまざと思い起こされた。
「お久し振り。如月 由雨。まだ生きていてくれたのね」
「キサマッ…何故私の名を」
ニヤリと残酷な笑みを浮かべる。
「そんなこと簡単よ。情報も武器の内。……さてと。お客様はおもてなししなくてはね」
パチンッ。
鳴神が指を鳴らすと、エレベーターが開く。
バタバタバタバタ…。
中から数十人の男達が現われる。全てスーツにサングラスという出で立ち。
「上で待ってるわ。せいぜい生き残ってね。…フフフ」
鳴神がエレベーターに乗り込み姿を消した。