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2.思い出話(1)

 バロンは、ペットショップの売れ残りだった。

 当時はチワワブーム真っ只中で、猫も杓子もチワワを求めた。大型犬など売れなかったのだろう、育ち過ぎてショーケースに収まらず、店のサークルに無造作に放り込んであった。

 餌を十分にもらえておらず痩せており、毛もパサパサで子犬らしい可愛さとは無縁の姿。定価の七割引きと、いわば処分品だった。

 大きい犬をモフりたいと思っていた私は、小型犬ばかりのペットショップを諦め、他で探そうかと帰りかけていたが、この処分品に気付いてしまった。


 衝動買いの言い訳に

「目が合っちゃって」

というのがあるが、まさしくこれだった。

 目が合ってしまったのである。不遇で汚い子犬だが、目は輝いていて知性があった、ように思う。盲導犬に選ばれているように賢い犬種だし、これも何かの運命かと購入した。

 いや、正直に言おう、安いしこれでもいいかと妥協したのだ。

 店長及び店員は不良在庫がはけて大喜びだった。物好きな客を逃がすものかという空気にちょっと引いたのを覚えている。犬飼育スタートグッズを一式揃えて、店長自らサービスで犬と共に配達してくれた。こうしてバロンは我が家にやってきた。

 平成十五年十一月三十日のことだった。

 この時には、まさかこんな長生きするとは夢にも思っていなかった。ラブラドール・レトリーバーは長生きする犬種ではない。短い時間を思い切りエンジョイするのがラブラドール飼いの本分なのだ。


 生後5カ月目なのにあばらが浮いていたので、とにかく太らせようと高カロリーのフードとおやつを与えた。既に訓練を入れる時期になっていたので躾教室に通い、その結果、冬が明けて三月頃にはちゃんと年相応のラブラドールになった。

 性格は大らかで社交的、やや横着な所がある。人間も神経質な人より、大らかな人の方が長寿の傾向があるというから、バロンもきっと性格的に長寿向きなのだろう。

 飼い主の私は非社交的でイライラしやすいぼっち体質なのに。犬は飼い主に似るといったのは誰だ、大嘘吐きめ。


 せっかくアウトドア向きの犬を飼ったのだからと、出不精を返上してあちこちに出かけた。

 バロンは行く先々で愛想を振りまき、その愛嬌ある行動で笑いを引き起こした。私はバロンがいれば、「あのやたら元気な黒ラブの飼い主」として受け入れられ、一時的にぼっちではなくなった。

 人生で一番出かけたり、人としゃべった時間がある期間だと自覚している。バロンを運動させるという目的が無ければ、私は絶対週末ごとに遠出などしないし、犬の話題が無ければ出会った人と会話を弾ませることなど無い。

 バロンは多くの人に愛された。人徳ならぬ犬徳があった。身内の欲目ではない。そのおこぼれで実際に結構いい思いをさせてもらった。

 元気に走り回り、あちこちで可愛がられて得意気になっていたあの頃からは、今の寝たきり生活は想像できなかった。


 今、横で寝ているバロンは、夢で走っているようだ。脚が器用に動いている。歩かなくなってからは、寝ている間に脚を動かすこともなくなったのに、珍しい。私が昔を思い出したりしたからだろうか?

 せめて夢の中では山野を自由に駆け回れ、昔のように。

 私はお前の走る姿が何より好きだった。全身をばねにして、弾丸のように彼方へ駆けていく黒い獣を目で追うのが楽しみだった。呼べば一目散に駈け寄ってくる生き生きした表情が今も目に焼き付いている。

 

 バロン、私はお前が走れなくなって、悲しくて仕方がない。

 お前を車に乗せるのが通院だけになってしまって、悲しくて仕方がないよ。

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