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特に必要もなく目覚める力

6月13日にコミカライズ第1巻発売予定です!


またスニーカー文庫版第2巻は、ほぼ完全書き下ろしの内容を予定しております(WEB版2章冒頭からルート分岐)

こちらの発売日は確定次第告知させていただいます!


 初めて会った日から分かっていたことだが、レーコは思い込みが激しい。

 それが強さの根源でもあるわけだが、一方で弱点にもなっているということを痛感した。


 つまり、都合のいい嘘にすぐ乗っかってしまうのだ。

 元が10歳の子供だから仕方ないことかもしれないけど。


「……わしも今まで何度も嘘をついてきたしのう」


 寝違えているから空を飛べないとか。薬で小さくなったのはトレーニングのためだとか。

 そのたびレーコはまるで疑いもせず信じてくれた。


「で、どうしようか邪竜様。普通に説得して納得してくれるかな?」

「正面からここが偽王都だってやめておいた方がいいと思うのう。すぐさま脱出はするじゃろうけど、本物の王都で同じ要求をしちゃいそう」

「あれだけの無茶な要求は呑めないよね……っていうか邪竜様からの宣戦布告ってみなされそう」


 シェイナには伏せているが、実はそれでもまだマシな方である。

 最悪の場合、魔物に担がれていたという憤怒の感情を爆発させてしまい、以前のように邪竜化するおそれがある。

 なにしろスープに緑豆を入れたくらいの心の闇で邪竜化するのだ。

 過去最大級の怒りを発揮すれば、今度こそ二度と戻らぬ邪竜になってしまうかもしれない。


「シェイナ、ここにいたか」


 そのとき、パレードから離れてレーコがこちらに歩いてきた。

 未だわしは「駐屯地から送られてくる思念体」というスタンスのため、レーコからは本物として認識されていない。


 レーコは付け髭をして、ローブの上になんだかキラキラした勲章をいっぱい付けていた。


「……レーコちゃん? その格好は」

「今しがた、私はこの超神聖邪竜様大帝国の大臣に就任した。大臣として威厳を出さねばならない。この髭はその一環。他にも大臣らしいコーディネートはどうしたらいいかを相談したい」


 シェイナはわしの頭に手を回してひそひそ声で、


「まずいよ邪竜様。このままいくと、どんどん既成事実の傷口が広がっちゃう」

「うう、もう時間はないのう。分かった、わしがなんとか説得してみるよ。できるだけレーコのヘイトをこの結界の魔物に向けて、怒りは別のところでフォローするように」


 わしはビクビクと震えながら大臣のコスプレをしたレーコに向かう。


「レーコ。いいかの?」

「はっ。邪竜様、こちらは完璧にお遣いを達成いたしました。既にこの国は邪竜様の膝元。愚民ども搾取するも肥え太らせるも自由にございます」

「まずは、本当にお疲れ様じゃったの。お主の働きぶりにはわしも大満足しておっての、帰ってきたらすごく褒めてあげたいと思っておるよ」

「恐縮でございます」


 レーコはほわほわと頭から湯気を立てて、のぼせるような表情になった。


「でも……仮に、仮にじゃよ。もしもの話として聞いて欲しいんじゃけど、今お主がいるのが本物の王都ではなかったらどうするかの? 魔物が作った偽の王都だとしたら……?」

「大丈夫ですそんなことは決してありえません」


 まるで機械人形のように早口でレーコは断言した。


「……ええとねレーコ。もし、これが魔物の策略とかだとしても、わしはお主のことは大好きじゃから。お遣いをしてくれた心意気だけでもう世界征服をしたのと同じくらいお腹いっぱいじゃから。だからね、王宮の裏面がベニヤ板なことに目を逸らさないでくれるかの?」

「度重なる魔王軍の襲撃によりこの国は疲弊しておりました……。その象徴が王宮の惨状といえましょう。しかし邪竜様がこの国を統べることとなれば、じきに王宮は世界一の城として再建されるに違いありません」

「くっ。なんということじゃ。この二週間でもう辻褄合わせの設定を作ってしまっておる」


 わしも人のことはいえなかった。ここに至るまで、偽王都の平和な環境に浸ってしまっていたのだから。


「レーコちゃん、これを見て」


 そこで助け舟を出して来たのはシェイナだった。

 手を引いて連れてきている初老の男性は、この国の王様らしかった。なにしろ立派なマントと王冠を付けている。

 その王様にシェイナは命令する。


「はい王様喋って」

「おお、よく来た邪竜一行よ。この国のすべてを君たちに委ねよう」

「何か別のことも喋ってみて」

「おお、よく来た邪竜一行よ。この国のすべてを君たちに委ねよう」


 無限にセリフのリピートが続く間に、シェイナは棒立ちの王様を「よっこらせ」と担ぎ、王冠を地面にくっつけて真っ逆さまの倒立姿勢にした。

 口だけパクパクと動かす王様は、逆さになってなお微動だにせず、バランスをとって見事に倒立し続けている。


「レーコちゃん。これ、明らかに人間技じゃないよね? どう? ほんの少しだけ違和感を覚えない?」

「ふ……そうとも。国王は邪竜様に恭順した。すなわち邪竜様の臣下になったということ。眷属ほどの力は与えられないが、それでも邪竜様の力の恩恵には与れる。その国王は邪竜様のお導きの元で、真の力に目覚めたのだ……」

「うちの王様って真の力に目覚めるとこんな風になるんだ」


 できることなら永遠に目覚めないで欲しかった。

 王が一点倒立の達人になっても国民は誰も得をしない。


 どうしたものか。じわじわと違和感に気付かせて軟着陸をさせたいところだが、ちょっとやそっとの指摘ではレーコの思い込みの牙城を崩せない。

 かといって単刀直入にわしから「お主は騙されておる」なんて明言すれば、どうなってしまうか分からない。


 わしはレーコの足止めを一旦シェイナに任せ、目を覚ます小道具を探しに偽王都の中を駆けた。

 絶対にここにあるはずがないもの。レーコとて、それを見たら違和感を抱かざるを得ないもの。


 しかし、そんな都合のいいものが――。



 あった。

 王都の中心を流れる運河のほとり。整備された川岸の花畑に、水死体のごとく漂着して転がっているものがある。


 それは額に「敗北者」という謎のメッセージが書かれた、いかにも雑なライオット似のエキストラ人形だった。

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