表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/209

偽りの王都

コミカライズ第一巻が6月13日に発売予定です!


http://www.jp.square-enix.com/magazine/joker/series/jaryunintei/index.html

(1話試し読み公開中です)


「魔物に囚われている? どういうことだ? 襲撃があったのか?」


 アリアンテが尋ねると、狩神は意外にも人間らしく、両手で頭を抱える仕草を見せた。


「アイツノ状況、教エル。デキレバ、助ケテアゲテ」


 そして狩神は、レーヴェンディアの身に起きたことを語り始めた。


_____________________________________________



 王都が近づくにつれて、平原の霧は深くなっていった。

 それも尋常な霧ではなかった。どんなに目を凝らしても、数歩先の光景が目に入らぬほどである。


「つ、疲れたのう……」


 しかし、わしにはその異常気象を疑っている余裕がなかった。

 精霊さんの力とシェイナのコントロールによって爆走させられ、(精神面を含む)疲労は既にピークすら通り越していた。


「あはは、ごめんね邪竜様。でも、たぶんもうすぐだから。霧がひどくて分からないけど、距離的にはもうすぐだよ。晴れてたら王都のお城とかも見えてるくらい」


 コンパスを見ながらシェイナが言う。錬金術師の手による特製のコンパスで、この霧の中にあっても現在地と行き先を正確に示してくれるらしい。


「じゃあ、もうわしは精霊さんブーストを使わなくてもええのね?」

「うん。もう打ち止めにしておくから安心して」

「よかったぁ……」


 これ以上続けられたらわしはもう自分の意識を保っていられないところだった。

 王都に入ったらレーコがまたいろいろと問題行動を起こしそうだから、直前のこの休憩でたっぷり休んでいこう。


 と、少し離れたところにいたレーコが、霧の中からすたすたとこちらに歩み寄ってきた。


「ふ、シェイナ。お前もこの旅路でだいぶ成長したようだな。遠方より送られてくる邪竜様の思念を見事に受信し、なかなかの意思疎通ができていると見える」

「あ、うん。そうだね」

「しかし過信は禁物だ。眷属たる私は、より高度かつ複雑な邪竜様の思念を常に受信し続けている。お前はまだ邪竜様のご意思の一片に触れているだけに過ぎない。深入りして邪竜様の真の闇に触れてしまえば、精神崩壊は免れない。くれぐれも注意しろ」

「……ちなみにレーコちゃんにはどんなことが聞こえてるの?」


 きらん、と目を輝かせてレーコはシェイナの前に正座で座った。


「言語化するのは極めて難しい。なにしろ邪竜様と私の間の意思疎通は魂を通じて行われるため、人間の理解の範疇を凌駕してしまっているのだ。だが敢えて人の言葉にして語るなら、魔王に対する圧倒的な殺戮衝動と、万物に対する破壊衝動は決して外せぬポイントだろう。おっと、しかしこれもあまり詳しく語っては常人にとって危険だな……」

「そうなの?」

「わしに聞かないで。返答に困るから」


 レーコではなくわしの方を見て確認してくるシェイナに、わしは汗を流しつつ応じる。


「まあ、たぶんレーコの言いたいことを意訳するとじゃね『わし(の思念)とばかり話していないで、こっちにもかまえ』ということだと思うよ。案外、その子は喋りたがりでの」

「なーんだ。そういうこと。素直じゃないなあもーう」


 そう言ったシェイナがレーコの頬をぷにぷにと突き始めたとき、異変が起きた。

 突如として霧が晴れていき、陽光が眩く降り注ぎ、平原の先に聳える王城の姿を明らかにしたのだ。


「……なんかすごい勢いで霧がなくなったの」

「日差しが強くなった……にしても限度があるか」


 わしとシェイナは揃って不審顔になる。明らかに通常の気象変化ではなかった。

 しかも目指す王都の上空にだけ、めちゃくちゃ不穏に霧が渦を巻いている。


「私の意思が届いておりますか邪竜様。もう王都があんなに近くに見えております。ええ……ご安心ください……見事に屈服させて邪竜様の傀儡国家としてみせましょう。まずは徹底的に恐怖を刷り込むのです。そしてその後に邪竜様の慈悲を与える……。これにて飴と鞭の懐柔作戦は完璧です」

「レーコ。しっかりして。わしの本当の声を聞いて。わしはそんな暗黒の意思を届けておらんから」


 にわかに何かを受信し始めたレーコの肩を揺さぶる。

 しばらく虚空を見つめながら不穏な計画を呟いていたレーコだが、やがて眼の焦点がわしに合う。


「はっ。これは邪竜様からの緊急通信。ご用件はいかに?」

「穏便にね。国の人達に物騒な態度を取ってはいかんよ。お主は本当は優しい子なんじゃから」

「分かりました……まだ私の中に残る甘さを払拭しろということですね?」

「だめじゃよ。最後の良心は絶対に払拭とかしないで」


 しかし、レーコは初めてのお遣いを成功させるべく意気揚々なようで、もはやわしの制止が効かなかった。

 裾にすがりつくわしをズルズルと引っ張って邁進していく。


 明らかに変な霧が渦巻く王都へと向かって。


_____________________________________________


「デ、王都ニ入ッタラ、モウナニモ見エナクナッタ」


 一連の話を聞いたアリアンテは大きく息を吐く。


「どう考えても罠だな。その霧は確かに魔物の仕業だろう……。本物のグラナードの王都にレーヴェンディアたちが入ったという情報はないから、霧に包まれている間に、王都を偽装した結界にでも閉じ込められたんだろう」

「ボクモ、ソウ思ウ。デモ不思議。ナンデ、レーコ、気付カナカッタ?」

「あの娘はな……。強すぎる分、警戒心が希薄なんだ。それなりの強さの魔物がいても雑魚と区別が付かん。いいや、実際あの娘にとっては雑魚なんだろう。そこにいるドラゴンも子供の遊び道具と勘違いされたことがある」


 水を向けられたドラドラは空に向かって失笑をこぼす。


「ふ、そんなこともあったな……。今にして思えばもう遠い過去の話よ……」

「さりげなく過去に葬るな。まだ一か月も経っていないだろ」

「俺は日一日と成長している。次に見えたときは決して子供の遊び道具などと勘違いされぬだろう。そのときこそあの娘は知るのだ。この風の暴竜、ドラドラの真の名を――」

「話が逸れたな。で、狩神とやら。その話を確かとするなら、レーヴェンディアたちが消えたのは王都のすぐ直前の平原ということでいいな?」

「タブン」


 しかし、その場の捜索は既に行われたはずだ。

 結界を張るにはそれなりの魔力がいる。セーレンの聖女様も得意としていたが、あれは神殿のある自身の領内だからこそできた技だ。

 王都のすぐ近くに、レーヴェンディアたちを閉じ込めるほどの結界を張れる魔物が出現したらかなりの騒ぎになるはずだが……?


「ア、チナミニ。ソノ何日カ前ニ、魔王軍ノ幹部ヲ倒シ損ネタ。モシカシタラ、関係アルカモ」

「魔王軍の幹部?」

「ウン、ウサギノヌイグルミミタイナヤツ」

「兎のぬいぐるみ……?」


 ぬいぐるみ。

 頭の隅に一瞬引っかかった違和感は、すぐに氷解した。


「グラナードの冒険者ギルドから、ぬいぐるみの取得物があったと以前に聞いた。もしかするとそいつが死んだフリでもしているのかもしれんな」


 アリアンテはドラドラに合図をして翼を広げさせる。


「世話になったな狩の神よ。またいずれ参りに来よう。そのときは私にも一つ修練を付けてくれ」

「ウン、楽シミ。オマエ、スゴク見込ミアル」


 ドラドラの背に飛乗ると、瞬く間に地上が眼下の光景になった。


「グラナードの王都に向かえ。そのぬいぐるみを回収して、魔物かどうかを確かめる」

「心得た――だが、俺にはさっきの話がいまいち納得いかんな」

「何がだ?」

「眷属の娘はともかく、レーヴェンディアは王都の不審さに気付いていたのだろう? 奴の力をもってすればどんな結界だろうと破れるに違いあるまい。なぜ閉じ込められたままになっている?」

「……確かにそうだな」


 一言でもレーヴェンディアが「ここは偽の王都だ」といえば、眷属の短剣一振りで空間は崩壊させられるだろう。いいや、偽物だという確信は持たずとも、「なんかおかしいから調べてみて」とでもいえば、あの娘は千里眼でたちどころに結界の存在を看破するはずだ。


 ――それをしない。あるいはできない状況にある?


「なんにせよ、あまりいい状況ではなさそうだな。レーヴェンディア……」


 アリアンテは焦燥に唇を噛んだ。

次回は5月9日(水)の夜に更新予定です

(2章完結まで毎日更新予定)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現在連載中の新作も書籍化が決定いたしました!
どうぞこちらも読んでみてください!
 ↓↓↓↓↓
【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ