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急転直下

http://www.jp.square-enix.com/magazine/joker/series/jaryunintei/index.html


コミカライズ第一話が上記のガンガンJOKERのHP上で公開されています!

本編と併せてぜひご覧ください!


 現状での目的地は近場の守関だったが、操々の飛んでいった方向はわしとシェイナに妙な不安を与えた。

 空に消えていくぬいぐるみを見送ったわしらは、声を落として相談しあう。


「……どうしよ邪竜様。ちょっと遠くなるけど、目的地を王都に変更していいかな? 私の実家もあるし、万が一のことがあったら大変だしさ」

「まあ……逃がしてしまったのはわしの責任でもあるしのう。でも王都って遠かったでしょ? わしの足では徒歩で結構な時間がかかってしまうよ?」

「あ、大丈夫大丈夫。そこは心配しないで」


 そういうと、シェイナはわしの巨体に尻尾から駆けあがってくる。

 そして、わしの頭の上に精霊さんをセットした。


「ねえレーコちゃん。ちょっと今の魔物のことが心配だから、目的地を王都に変えていい?」

「私は構わない。むしろ、邪竜様の遣いとしては出先の守関よりもそちらが望ましい」

「じゃ、決定ってことで。精霊さん『全速前進』」

「えっちょっと待ってお主それを普通に使うの――ってうぎゃああっ!」


 精霊さんの魔力でわしの身体が強制的に疾走を始めた。

 なお、いつの間にかイケメンさんは捕虜としてわしの尻尾にロープでくくられ、地面を引きまわしに遭いながら連行されていた。

 どう見ても拷問だが、本人は主を救えた歓喜に打ち震えているらしく、身体をゴリゴリと削られながら感涙を流している。


 風を切って高速で走る――もとい、走らされるわしに、平然とレーコは並走してくる。


「さすがは邪竜様の幻影。存在感だけで我らの身を運んでくださるとは……」

「だよねー。さすが邪竜様だよねー」

「もうわしだめ。どうにでもして」


 わしの涙が宙に煌めいて平原に散る。

 もうどうとでもなれだ。飛ぶよりはまだマシである。

 おそらくこの速さでいけば、明日か明後日くらいには到着するはず――



 ……



____________________________________________




「レーヴェンディアが消息を絶った? 眷属の娘もか?」

「ええ、二週間ほど前から。それと一緒に隣国グラナードの将官の娘も行方不明になっているそうです。精霊を王都に連行する道中の失踪だったということで、噂では邪竜が将官の娘を殺して精霊を持ち逃げしたのではないかと……」

「いいや、それはない」


 自宅兼道場のすぐ表。使者からの報告を受けたアリアンテは即答した。


 ペリュドーナは冒険者と商人によって運営される完全な自由都市である。

 農業都市のセーレンを含め、近辺の都市は表向きはとある小国の領土となっているが、あくまで名目でありいずれも王の干渉は及ばない。

 ゆえに、町の統治も評議員によって行われ――冒険者代表のアリアンテの元には、しょっちゅう議会の使者が情報をよこしてくる。


「しかしアリアンテさん。あの邪竜ならそれくらいのことはするのでは――」

「奴は邪悪であっても誇り高い。駐屯地の者たちには『敵意はない』と言っていたのだろう? その言を軽々しく翻意する小物ではない。ましてや、娘一人を殺して野盗じみた外道を働くものか」

「はあ……」


 無論、建前の話である。

 あの邪竜が人を殺して逃亡するなど天地がひっくり返ってもあり得ないとアリアンテは知っている。万が一、眷属の娘が暴走して誰かを殺めることがあったとしても、そのときは邪竜が泣きながら一緒に自首してくるに違いない。


「なんだって!? 邪竜の野郎がまた何かしやがったのか!?」


 耳が早い。

 道場の表で立ち話をしていたというのに、奥の方からライオットがダッシュで飛んできた。

 なお、修行として手足には特大の鋼鉄枷が嵌められている。


「なんだお前。その重さでまだそんなに動けるのか。よし後で倍の重さにしてやろう」

「今ので限界ギリギリだよもう増やさないでくれ。っていうか! 邪竜がどうした? あいつがまたどこかで暴れたのか?」

「ああライオット君か。それがね、邪竜が隣の国で急に失踪したらしくて……。特に暴れたっていう情報はないけど、眷属にされたっていう君の友達も一緒に行方不明になってる」


 使者の男は励ますようにライオットの肩に手を置いた。

 ライオットがペリュドーナを訪ねてきて早一月。児童虐待にも似た修行風景からその存在は街中に周知されており、その動機もほとんど全住人に知れ渡っている。

 眷属にされた女の子を救うため、と。


 実際のところ、むしろ下僕的な位置にされているのは当のレーヴェンディアなのだが、それを知るのはアリアンテのみである。


「レーコも……なあ師匠! 何か心当たりはないのか!?」

「心当たりはないが、そう焦るな。邪竜……は強い。仮に魔王が直接奴を始末に出向くことがあったとしても、そう簡単に殺されるような奴ではない。しかも、そんな激闘があれば魔力の動きでさすがに誰かが気付くはずだ」


 強さの一点に限れば邪竜でなくレーコのことだが、おおむね嘘は言っていない。

 失踪扱いされるほど跡形もなく瞬殺されるというのは少々考えづらい。


「――邪竜が姿をくらましたか。それは興味深い」


 そのとき、上空から突風が吹き下ろして道場の戸を揺らした。

 地上に影を落として舞い降りてくるのは、銀翼を陽光に煌めかせるドラゴン――自称ドラドラである。


「地上に降りたぞ! チャンスだ! 殺せ!」

「いっつもチョコマカと逃げやがって! 今日がてめえの命日だ!」


 何人かのちょっとイカれた冒険者が目を血走らせてドラドラを追ってくるが、ブレスの一吹きで街の彼方に吹っ飛ばされる。


「ほう。奴らの追跡を撒けるようになったのか。お前の方は成長が早いな」

「俺を誰だと思っている。強大にして誇り高き風の暴竜――いつまでも人間ごときに遅れはとらん」

「その意気だ。今吹っ飛ばされた連中には後で私から喝を入れておく。明日以降はもっとしぶとくなるだろうから覚悟しておけ」

「手柔らかに頼む」

「いやあ、ドラゴンさんも毎日狩られそうで大変ですねえ。稽古というかうちの住人はたぶん殺す気でやってると思いますんで、死なないように気を付けてくださいよ」

「ドラゴンさんではない。ドラドラと呼べ」


 ああそうでしたね、議会の使者は呑気に笑う。

 こっちもこっちで街中ではちょっとした有名人もとい有名竜になっている。


 と、足枷の錘を引きずってライオットがドラドラの近くにまで歩んでいく。

 

「なあドラドラ。興味深いってどういうことだ? お前、何か知ってることがあるのか?」

「なくはない。そう、あれは俺がレーヴェンディアの眷属の娘にボコボコにされたときに遡る――」

「遡らなくていいから要点だけ話してくれ」


 例の娘の被害者同士というせいか、この二人はやたら相性がいい。

 以前にドラドラがライオットを連れて街を飛び去り、その後また舞い戻ってきたのだが、それ以来互いに変な連帯意識みたいなものを持っているようだった。


 要点だけを纏めるように言われたドラドラは、渋い顔を浮かべつつも記憶を漁るように目を閉じた。


「……これは確かな情報だ。邪竜レーヴェンディアは空間を自在に操る力を持っている」

「おい待て。どこの情報だそれは?」


 ライオットが反応するよりも早く、アリアンテはドラドラに向かって異を唱えた。


「俺が敗北した後、眷属の娘からそう聞かされた」

「そうか。じゃあ操れるんだろうな。続けてくれ」


 次に会ったらレーヴェンディアには『娘の言動には注意しろ』と再度念押ししよう――アリアンテは密かに決意する。

 こんなノリで能力を増やされてはたまったものではない。


 こちらの懸念をまるで知らないドラドラは熱を込めて続ける。


「おそらく奴は自ら作り出した闇の異空間に潜んで、何かを企んでいるのだろう……それが一体どんな計画なのかは想像もできんが」

「なんにせよ、あの邪竜のことだ。きっと残忍で恐ろしいことを企んでるに違いねえ……。くそ、レーコ。頼むから無事でいてくれ……」

「まあ、たぶん大丈夫だと思うぞ。そっちの娘の方は」

「そっちの方? どういうことだ師匠? レーコ以外にも邪竜のとこに眷属がいるのか?」

「いや、そういう意味ではないが……」


 つい口が滑ったことに焦るが、意外なところから予期せぬ言葉が飛んできた。


「それなら聞いたことがある」


 その言葉を発したのは、ドラドラだった。


「魔王軍にいたころに聞いた話だが。最高幹部の中に一人、邪竜レーヴェンディアの眷属がいたという。あの娘が眷属になったのは最近と聞くから、別物だな。前々からいたそちらの眷属は――先の事件のときは見かけなかったが、今はどうしているのだろうな」


 ありえない情報にアリアンテは耳を疑った。

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現在連載中の新作も書籍化が決定いたしました!
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― 新着の感想 ―
主が知らない 見知らぬ眷属 すごすぎます
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