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魔王軍の方がいろいろと酷い気がする


 目を丸くしてわしの巨体を眺めていたシェイナだったが、しばし経って視線がイケメンさんに向いた


「あ! 精霊さんを誘拐しようとした魔物じゃん! なになに、ボロボロだけど邪竜様が倒そうとしてたの?」

「いや、そういうわけではなくてね。さっきこの人が急に絡んできただけで、わしとしてはさほど関わり合いになりたくないというか」

「――ふ。黙っていろ、人間の小娘。オレは今、最後の力を燃やして邪竜と一騎打ちに挑もうとしているのだ……。このハイレベルな戦いに人間ごときが割り込もうとするなら、相応の代償は免れんぞ……」


 えいっ、とシェイナが手をかざして魔力を放った。

 彼女が得意とする音響操作の攻撃転用。レーコとの試合でも使っていた、強烈な音を局地的にぶつける技である。


 当然、既に満身創痍だったイケメンさんはボロクズのように吹き飛んだ。

 きっとイケメンさんは本来ならもう少し強い魔物だったのだろう。しかし、あまりにも累積ダメージが大きすぎた。


「関わり合いになりたくないってことだから倒したけど、よかった?」

「うん。まあ構わんと思う。やっぱりお主も頼りになるね」

「いやあ、それほどでも」


 と、地面に転がっていたイケメンさんがガクガクと膝を笑わせながら立ち上がった。

 致命傷は免れていたようで、わしはなんとなく罪悪感が和らぐ。


「なぜだ……? 邪竜にダメージを与えられるほどにパワーアップしたはずのオレが、小娘ごときの魔法でここまでの痛手を……?」

「えっとね。あれは一撃限りだけだったんじゃないかの? だからもうお主に勝ち目はないし、諦めてどこかに逃げたらどうかの?」

「……オレに情けをかけるのか? あの残虐非道の邪竜が……?」

「魔王軍の人にすら残虐呼ばわりってわしは本当にどういう扱いを受けとるんじゃろ」


 イケメンさんの紫色の瞳が、値踏みでもするようにわしをじっと見つめてくる。


「その邪竜らしからぬ態度――。もしやとは思ったが、あの聖女の話はまさか……?」

「待ってお主。聖女様がわしについて何か言ったのかの? あの人はああ見えてかなりのうっかりさんじゃから、話半分で聞かんといかんよ?」

「いいや。分かったぞ。そうか、そうだったのか。貴様――レーヴェンディアの影武者だな?」


 ん? とわしは語彙を咀嚼する。


「影武者と眷属に表向きの旅路を任せ、本物の邪竜は闇を渡って魔王軍の殲滅に挑もうとしているわけだな。なんと姑息な……」

「あ、そうだったの邪竜様? いやー、それならそうと早めに言ってくれればいいのに」

「ちょっと待ってシェイナ。なんでお主、そんなあっさり魔物の話を信じちゃうの? あの人が適当に推理したような説を鵜呑みにしてはいかんよ?」

「え、でも、ねえ……?」


 精霊さんを肩車するシェイナは、わしを見上げながら苦笑いを浮かべている。


「ならば、なんとしてでも本物の邪竜の所在を吐いてもらうぞ。偽の邪竜よ。そこの小娘さえ倒してしまえば、貴様は無力なのだろう……?」

「い、いや違うよわしは強いから。お主なんか相手にならんから」

「大丈夫だって邪竜様。下がってていいよ。あんなボロボロの相手、あたし一人でパパッとやっつけちゃうから。あ、精霊さんだけ預かっててもらえる?」


 シェイナがわしの足元に精霊さんを置く。また噛まれるのではないかと不安になったが、シェイナは手際よく精霊さんに手ぬぐいで目隠しを施し、捕食対象わしを見えないようにカバーした。


「さあ。これで戦闘準備万端っと。さあ、かかってこいっ!」

「く……人間風情が……」


 誰がどう見ても、圧倒的にシェイナが有利の状況だった。

 このままイケメンさんを倒すのも時間の問題――そう思われたとき。


『コラ木偶ちゃん。そいつが影武者? バカ言っちゃダメ。どこからどう見たって、そいつはアタシたち最高幹部の一員――【天地喰らう大牙】邪竜レーヴェンディアじゃない』


 何者かの声が響くと同時、いきなり空から紫色の光の帯が四本降り注いだ。

 光の帯はイケメンさんの四肢に絡みつき、やがて見えなくなった。


「い、今のは誰じゃの? お主の仲間かの?」


 わしはイケメンさんに向かって問いかけてみるが、様子がおかしかった。

 さっきまでガクガクと震えていた膝が落ち着く代わり、両手を水平に持ち上げた姿勢となり――そして宙に浮き始めたのだ。


 その姿は、見えない糸に吊られた繰糸人形そのものだった。

 そして、その口から漏れ出る声も、もはや先ほどまでのイケメンさんの声ではなくなっていた。


『ウチの木偶が失礼しちゃってゴメンね、レーヴェンディア。ま、いっよね? そっちもアタシたちにとんでもない失礼してるんだからね。魔王様ったら残念がってるよ?』


 言葉尻は軽く、やや鼻にかかった幼い感じの女性の声である。

 いや――そんな声の変化以上に、わしの眼力は危険を捉えていた。


「しぇ、シェイナ! 今すぐ逃げてレーコを呼んできとくれ! あの魔物、さっきまでとは比べ物にならんほど強くなっとる!」

「え? でも、そしたら邪竜様は大丈夫?」

「ま、まあ……話し合いでなんとかしておくから……」


 あはははは! とイケメンさん――いいや、文字通りの木偶となった者がけたたましく笑った。


『ねえ? なんでそんな弱いフリなんかしてるのレーヴェンディア? そりゃあアタシもめちゃくちゃ強いけど、あんたの腕ならこんな繰り人形なんて怖くもなんともないでしょって?』

「え、ええと。まずお主ね、状況を整理せん? お主は誰? わしを知っとるの?」


 ぴくっ、と宙吊りの人形が動く。


『アタシが誰かって……? ねえ、それって酷くないレーヴェンディア? 仮にも同じ最高幹部だってのに、眼中になかったってわけ? ああ、そういえばそうだね。お偉いお偉い邪竜様ときたら、いっつも幹部集会の招集状を無視してたもんねぇ』

「ご、誤解じゃよ。その招集状はたぶんどこぞで不着扱いになっておるよ」

『言い訳すんな! ちゃんと書いたし届けましたー。受取サインまで貰った上での白紙回答でしたー!』

「それはますます冤罪じゃよ。わしの手はサインとか書けるように出来ておらんから。絶対誰かが適当にサインしておるって」


 世界のどこかにいる同姓同名のレーヴェンディアさんのところに届いていたに違いない。


『へえ……あくまでしらばっくれるんだ? じゃあいいや。軽く運動して、アタシの名前でも思い出してもらおっか』


 操られた木偶がカタカタと怪しげに笑い始める。


『最後のヒントをあげる。アタシの二つ名【創造の繰糸】。これを聞いてもまだ思い出さない?』


 もちろん、このヒントを受けてのわしの感想はただ一言だった。






 知らん。

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【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
知らんwwww 本人も謎に眷属がうまれ、本人も知らない交友関係 たのしい
[一言] きっと手紙の配達人が怖がって邪龍さまに会わずに勝手に受領印押してたんでしょうねえ。
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