再びの遭遇
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レーコがいつもの調子でわしへの疑念を捨ててくれたのは好都合だった。
今のわしはレーコにとって「邪竜様の真心の化身」認識されているらしい。本体のわしは駐屯地で待っているという認識だから、どんなに姿を見られても問題ない。
というわけで。
「どうぞご期待してください邪竜様。この私が眷属として立派に一人で役を果たしてみせましょう」
「あんまり力みすぎてはいかんよ? 肩の力をちゃんと抜いてな?」
背中にレーコを乗せて、普通に会話しながら道中を行く。
無論、わしとて最初からここまで大胆な接触を試みたわけではない。駐屯地を出た初日の昼までは、十分に距離を置いてレーコとシェイナ(とその肩に乗る精霊さん)の後をつけていた。
しかし、初日の夜。
シェイナから「ここらへんは辺境だから、結構強い魔物もたまに出るよ」と言葉を聞いていたのが、わしをたまらなく不安にさせた。
なにしろレーコはわしのことを生身と認識していないのである。魔物がわしを襲ってきても、いつものように助けてくれない可能性もある。
シェイナとて、悪名高い邪竜であるわしが助けを要するとは思わないだろう。
最悪、魔物に襲われても二人からスルーされたままわしがお陀仏になってしまう。
どうすべきか煩悶しているうち、気づけば足が勝手にレーコたちの焚火のそばまで動いていた。
そして焦ったわしは、苦し紛れにこう言ったのだ。
「聞こえるかのレーコ。今、わしは遠くからお主の心に直接語り掛けておる……あくまで今のわしは幻じゃよ……」
レーコは即座に跪いてわしの虚言を信じたが、シェイナは呆れたような表情で口を半開きにしていた。以降、わしはもう開き直って普通に同行している。
そんな調子で、道中二日目を迎えたのである。
「それにしても、こうしているとまるで本当に邪竜様に乗っているようです。もちろん、遠くから邪竜様が念動力を発揮して私の身を浮かせてくださっていることは理解しているのですが」
「そうじゃよ。本当のわしはここにはおらんからね。お主がわしに乗っているように感じるのは――念動力とかいうのはさておいて、まあ錯覚の類じゃと思ってくれてええよ」
そのとき、わしの横腹を突く指があった。シェイナである。
「あのさ邪竜様。ちょっといい?」
「ん。なんじゃの?」
わしが首を向けると同じタイミングで、レーコもシェイナの方を向いて満足げに頷いた。
「ほう。お前にもこの邪竜様の姿が見えるか……。やはり邪竜様ファンとしてなかなか見所がある……」
「見えるも何も、うん、まあ、見えるけど」
そのままシェイナは精霊さんをレーコに預け、手招きをしてわしに合図した。レーコから少し離れた岩陰に隠れた後、小声で話す。
「確認するけど、今の邪竜様って普通に実物だよね?」
「そこのところはあんまり触れないでくれるかの。非常に複雑な事情が絡み合っておるから。ノーコメントってことにさせて」
「……? よく分からないけど、邪竜様がそう言うなら。あ、そうだ。これ貸しにしておいていい? あのレーヴェンディア様に貸しを作った人間なんて滅多にいないだろうし」
「そうでもないと思うけどのう」
「え?」
シェイナに尋ね返されて、わしは慌てて自分の口を押さえた。危うく素になってしまっていた。
余計な情報流出を避けるためにも――そしてレーコから邪竜パワーを引き剥がすためにも、邪竜っぽさは維持せねばならない。
わしはこれ以上なくシリアスな表情を作って、重々しく言う。
「そうじゃの。わしは全人類に対して大きな借りを作ってしまっておる。それは覇王としての責務を忘れ、魔王を野放しにしてしまったことであり……うう……」
途中でレーコ風の虚勢に限界が来て、わしは頭を抱えてしゃがみこんだ。
「え? どうしたの邪竜様? 魔王がどうしたの?」
「ごめんのシェイナ。やっぱり今のも忘れて。すごいのう、レーコはよくあんな風にスラスラ物怖じせずに言えるのう」
たぶんあの子には何も恐れるものがないのだろう。実際、魔王とやりあっても互角以上の戦いを繰り広げそうな気がする。
「まあ事情があるのは分かったし、レーコちゃんが邪竜様のことを全面的に信じてるのも分かるけど、さすがに今の距離は近すぎると思うよ」
「うん、わしもちょっと大胆になりすぎたかなと思っとる」
「レーコちゃんが心配ならあたしがちゃんと見ておくから大丈夫。少し離れててくれたら、たまに状況報告にも行くからさ」
「う、うん……そうじゃね……そうだったら安心じゃね……」
実は安心できない。最大の懸念であるわしの弱さをフォローできていない。
悩むわしは、俯いて足元の影に視線を落とした。夕刻が近づいてきて、横に長く伸びてきている。
そうだ。昨日はこのくらいの時間に若返りの薬を飲んだのだった。そろそろ飲まなければ、また元の大きさに戻ってしま――
と、そこでわしは妙案を閃いた。
「そうじゃね、うん。それじゃあわしはちょっと離れておくから。無理のない範囲でたまにレーコの様子を報告しに来てくれるかの」
先ほどまでとは一転。シェイナに背を向けて陽気に距離を置くことにする。
そうだった。今は人里ではないのだから、無理に小さなサイズを維持することはなかったのだ。
わしが元の大きさになって邪竜っぽい見た目となれば、そんじょそこらの獣や魔物はきっと逃げ出すはずである。
現に5000年間呑気に過ごしてきて、ほとんど魔物に襲われることはなかったのだから。
ごく最近、レーコの村で暗明狼に襲われたりしたが、あれは人里を前にした低級魔物が興奮状態にあったからだろう。平常時ならきっとわしを襲うなどしなかったに違いない。冷静に振り返ってみても、図体が大きくなってから魔物に襲われた記憶はほぼないように思う。
仮に本来の姿のわしを恐れないほど強大な相手――つまり魔王軍の大物が来たら、レーコが確実に察知して即座に飛んでくるはずだ。そのときは任せておけばいい。
「いやあ、すっかりわしも野生が鈍っておったのう。やっぱり自分の身は自分で守らんとね。それが自然の掟というものじゃからね」
レーコたちから距離を置いてしばらく待つと、紫色の煙がぽんと身体から噴き出て、元の大きさにまで戻る。サイズが戻りたては少しばかり身体が重く感じるが、この感覚も最近は慣れてきた。
さて二人を追うか――と視線を行く手に向けて、ぴたりと足が止まる。
引き返してのんびりと身体が戻るのを待っている間に、二人の姿は完全に地平線の先に消えてしまっていたのだ。
わしは死人のような顔になって立ち尽くす。
前言撤回。やはり、わしはどこかで至近距離にレーコがいることを安堵の種としていた。こうして補足できなくなると、途端に自分の貧弱っぷりが感じられて足が震える。
駐屯地まで戻るのも厳しい。なにしろ、反対方向に進めば進むほどレーコたちとの距離は開いてしまうのだ。より危険性が高くなる。ここは急いで追いつくしかない。
強い魔物が潜むという恐ろしげな平原を――たった一人で。
「わ、わしは邪竜ですよー。とっても強い邪竜ですよー。襲ってきたら返り討ちにしてしまうから近寄らん方がええよー」
意を決したわしは、邪竜であることをこれでもかとアピールしながら野を走った。
強者オーラが足りない分をせめて言葉で補うのだ。きっと魔物たちも「うわあ邪竜だ」と恐れ慄いてくれるだろう。
果たして、わしの恐ろしさは正しく伝わっただろうか。
「――邪竜レーヴェンディア。貴様にいくつか尋ねたいことがある」
レーコたちを追う平原のど真ん中で出くわしてしまった、このボロボロのイケメンさんに。




