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被害者たち

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書籍版が2018年2月1日にスニーカー文庫から発売されます

また、先行コミカライズが同年1月22日から月刊ガンガンJOKER誌上にてスタートします。


※詳細は活動報告にて

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「何をしにきたんですか? まだわたしは仲直りしたつもりはありませんよ?」


 とりあえず結界の内側に戻ってから、聖女様はわざとらしく怒ってみせた。

 敵でないことはさっき助けてもらったから理解している。レーコ様との戦いのときに手助けをしてくれた実績もある。

 しかし、なんといってもまだ正式な謝罪をされていない。


 絶対に許さないつもりではあるが――どうしてもというなら、この町を守る防衛要員として働くことを特別に許してやらなくもない。

 誉れ高き聖女の部下として働けるならこの竜も泣いて喜ぶことだろう。


「仲直りをしろというつもりはない。ただ、俺たちをしばらく匿ってくれればいい」

「な、なんですかその都合のいい話は! そんなのじゃわたしは納得できませんよ!」

「礼は先払いしたはずだ。聖女よ、今しがたの魔物には苦戦していたと見えるが?」

「む……そんなことないもん。あんなの楽勝だったもん」


 聖女様はむくれてそっぽを向く。

 が、いろいろと気になることもあったので、不貞腐れながらも視線をドラドラに戻した。


「ところで『俺たち』って……その男の子はどうしたんですか? あと匿ってくれって、何かあったんですか?」

「話せば長くなるが……そうだな。まず俺がドラドラと名乗るようになった理由から話してやろう」

「あ、いいです。その辺はあんまり興味がないので略しちゃってください」


 やんわりと拒否したが、ドラドラはこちらの要望を無視して件の理由を語り始めた。

 わりとどうでもよかったので、その間の聖女様は地面に絵を描いて遊んでいた。


「――というわけだ」

「大変でしたねー」


 ちなみに聞いてはいない。


「そういう理由から、俺は一から強くなろうと決めたのだ。そうしてあの赤髪の女騎士に付き従い、腕利きの人間どもが集うペリュドーナに辿り着いた」

「む、ペリュドーナですね! あそこの街にもいずれわたしの湧かせた水が流れる予定なんですよ! そのへん詳しく話してあげましょうか?」

「今度でいい。今はそれどころではない」


 なんというふてぶてしさだろう。自分は好きなだけ話しておいて、こちらの語りたいことには付き合ってくれないなんて。

 やはり部下にしてやるのはまだ早いかもしれない。田畑を耕す牛馬同然の下働きから始めてもらおう。


 ドラドラは悔しさをこらえるように唸った。


「一言でいうと、あれは罠だった。あの卑劣なる女騎士は、弟子入りを許可するという虚言を弄し、俺を自陣たる街にまで誘い込んだのだ。街に着いた途端、俺は冒険者どもから集中攻撃に遭ったのだ……」


 ――ドラゴンだ! ドラゴンが来たぞ!

 ――大丈夫だ! こないだの邪竜に比べたら全然イケる!

 ――狩って捌いて復興資金にすっぞ!

 ――あ、討伐支援しますから心臓はこっちに売ってくれませんか?


「……あの女騎士は『とりあえず生き残れ』という心無い言葉を残して、弁明もせず去っていった。これが罠でなくてなんだ?」

「仕方ないですよ。それだけのことをしたんですから。どうしても償って汚名を濯ぎたいというのなら、この世のため人のために尽くす清廉なる聖女様の配下となって――」


 そこでドラドラは、金髪の少年を地面に降ろした。


「だが、俺はまだいい。人間どもから恨まれるのは、これまで風の暴竜として猛威を振るって来た過去を考えれば当然のことだ。問題はこの小僧だ」

「この子がどうかしたんですか?」

「目をギラつかせた冒険者どもに反撃しつつ逃げ回っているとき、たまたま街はずれでこの小僧を見つけた。この小僧は――俺と同様、冒険者どもに囲まれてリンチされていたのだ……」

「えぇ、そんなひどいことを?」


 こくりとドラドラは頷き、続ける。


「おそらくはこの小僧も、俺と同じく罠に嵌められた魔物だ。魔力が全然ないのが気になるが、おそらく反撃できないように魔力を封じられてなぶり殺しに遭っていたのだろう。ここまで弱そうで、悪事もロクにできないような小さい魔物を相手に、なんたる非道か……」

「へー。こんな魔物もいるんですねえ。さっきの髪の長い魔物さんよりも、もっと人間っぽいですよ」

「強くなるために人間に与するとは決めたが、いきなりあんな目に遭ってはその気も薄れるというもの。俺は逃げる直前、同朋への哀れみとしてこの小僧を拾い上げてきたというわけだ。聖女よ、貴様も元は魔物だろう。同じ業を抱える者として、俺たちをしばしあの外道どもから匿ってくれ」

「うぅん、確かにわたしも過去は恐怖の象徴として恐れられた偉大な水魔なので、魔物特有の悲哀は分からなくもないですが……」


 そのとき、「ううん」と苦しそうな声を吐いて、少年がぼんやりと目を開いた。


「起きたか小僧。ここに敵はいない。よほど恐ろしい目に遭ったようだな……」

「ん……? ドラゴンか……でもあの邪竜じゃねえな……。竜違いか……。ならいいや。寝よ。ん?」


 再び眠りかけた少年は、次の瞬間「はっ」と息を吹いて目を見開いた。

 腐った魚みたいに死んだ目をしていたが、だんだんと正気の光を取り戻していく。


 やがて驚愕の咆哮を上げて飛び起きた少年は、警戒する獣のように素早く周囲を見回しながら一気に引き下がった。


「こ、ここどこだ!? っていうか、ドラゴン!? まさかあの邪竜の手下――?」

「落ち着け。ここにお前を狙う人間どもはいない。俺は貴様の仲間だ」

「仲間……? そうか、俺もレーコみたいに眷属とやらにするつもりか……?」


 警戒を崩さない少年は、歯を剥きながらドラドラを睨んでいる。

 聖女様はその様をじっと観察し、やや首をひねり――


「えいやっ」


 掌に作った水の玉を、振りかぶって少年の顔に投げつけた

 見事に命中し、少年はずぶ濡れになる。


「へへん。節穴ですねドラドラさん。このとおり魔物除けの水をかけても苦しみませんよ。この子は魔物じゃなくて人間です!」

「……誰だお前。まさか、お前も邪竜の仲間か……?」


 敵意の視線が自分に向き、そそくさと聖女様はドラドラの背後に回る。

 少年は既にボロボロの身体のようだったが、拳を握ってドラドラに構えようとしていた。


「どういうことだ、聖女よ。あれは我らの同族ではないのか?」

「はい。人間で間違いないです」

「だが、それならなぜ冒険者どもにリンチを受けていたのだ? ……は、そうか」

 

 ドラドラと同時に、聖女様もほぼ同じ結論に達した。


「――貴様、さては罪人の類だな?」

「違うわ!」


 少年の否定の怒号は、凄まじく早かった。

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