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齢5000年の草食ドラゴンだけどいつの間にか邪竜認定されてたらしく、いきなり生贄少女がやって来た ~やだこの生贄、人の話を聞いてくれない~ 作者:鯖味噌懐石

二章

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精霊の心当たり


 意外にもレーコはきょとんとしていた。
 よく物騒なことを言うが悪だくみをする子ではない。シェイナの提案がいまいちピンときていないのだろう。
 そこでわしは、下手な制止よりも手っ取り早く事を収める方法を取った。

「のうレーコ。ちょっと精霊の演技をしてみてくれる?」
「精霊……ですか……?」

 にわかにレーコの動きに固い軋みが混ざる。助けを求めるように視線を泳がせ、石をガリガリと食う精霊の実物に目を留めて、

「これの真似をすればよいということでしょうか?」
「必ずしもその精霊さんの真似じゃなくてええよ。あ、石を食べるのはお腹壊すから禁止ね。それ以外の行動で、お主が精霊っぽいと思う感じに振る舞えばええから」

 石を拾って口元に近づけようとしていたレーコは即座に捨て、しばらく固まった。
 そしてぽんと何かを思いついたように手を叩き、

「私は非常に無垢な心を持つ大自然の精霊です。こちらの邪竜様と比べれば塵にも等しい力しかありませんが、それなり程度には魔力があります。人間に対しては無害です。自然の木石と同然です。どうぞご安心ください」
「すべての設定を口頭で完結させようとするパワータイプの演技じゃね」

 あと、いつぞやペリュドーナで魔導士を騙ったときと口上が似通っている。
 演技の幅が異様に狭い。

 案の定の結果を見届けたわしは、シェイナに向きなおった。

「見たとおりでの。レーコはこのとおり演技が大の苦手でな、大勢の前で精霊さんを演じるなんてとてもじゃないが無理じゃよ。ボロを出してしまってはお主だけでなくハイゼンまで責められるじゃろうし、悪いことは言わんからやめとけば?」
「そこを何とか! 演技指導はあたしがしっかりするから! とりあえず喋らせたらダメなのは分かったけどミステリアスに黙っててもらえれば雰囲気はあるし!」
「といっても、人を騙したりするのはのう……」

 レーコの教育上もよろしくない。既に誤った方向に走り続けているのだから、細かい日常面だけでも品行方正にしていてもらいたい。わりと切実に。

「えっとな、レーコ。要は、シェイナはお主を精霊さんの替え玉として連れて行きたいと言っとるのよ。軍の偉い人の前でアピールして、精霊を味方に付けたアピールがしたいと」
「なるほど、そういうことでしたか。遅ればせながら理解できました。そういうことでしたら――断るしかありませんね」

 おおっ、とわしは表情を綻ばせた。
 やはりレーコの心根はまっすぐなのだ。不正はいけないと自分で判断し、人として正しい判断を下してくれた。
 成長を喜ぶ親心――とでもいうべき温かい感情が心の中で涙のようにほろりと流れる。

「私の力は他ならぬ邪竜様のもの。精霊のものと偽るなどとは許せることではありません。やはりここは堂々と邪竜様の眷属として、『この世に邪竜様あり』と震撼させるほどの力を見せつけてくれましょう。邪竜様の圧倒的武力を背景にお偉方へプレッシャーをかけることで、今後の旅路を全面的に支援させるのです。もちろん金銭も含めて」
「ほのかに芽生えたこの温かい感情はどこにやればよいのかの」
「あ。その路線でいいから一緒に本営まで行こうよレーコちゃん。邪竜様の力を間近で見れば軍の人達もきっと驚くと思うよ?」
「お主、ドサクサ紛れにレーコを精霊扱いさせるつもりじゃろ? そんな企みは絶対実現させないからね?」
「あはは。ばれた? まあでも、どうせだし行こうよ。アテもないでしょ?」
「ううん……そりゃそうじゃけど……」

 魔物を取り逃がしてしまった今となっては、山の跡地に残す用もほぼない。ハイゼンは調査と見張りの兵士を一定数残し、他は野営地に引き上げさせる構えだ。

「それにしても、金がどうこう以前に国境の山脈が一部でも欠けちゃうのはまずいんじゃないかの。国同士のいざこざとか」
「いいや。金のことさえなければ交易がしやすくなって助かるくらいです。この先には農産物で有名なセーレンの町もありますしな。本国から運輸してくるよりも安く済みそうです……もっとも、監視対象だった金がなくなった以上、この野営地も撤廃か、あるいは後退することになるかもしれませんが」

 むしろ一部の兵士からは「シャバに帰れる」と歓声が上がった。責任を取る位置のハイゼンだけが苦労顔である。
 わしは何となく苦労が窺い知れて申し訳なくなる。
 ここから少しばかりの功績を――と思うと、やはり精霊を味方に付けたなどの実績は彼も内心欲しいのかもしれない。

「もー! こら、うちに行って身体洗ったげるから、岩から離れてってば!」

 一方、シェイナもシェイナで精霊の扱いに早くも苦労していた。
 食いでのありそうな大岩に齧り付く精霊を、なかなか引き剥がせないでいる。話を言い聞かせられる様子もない。

「のうレーコ。お主でも精霊さんと意思疎通って難しい?」
「申し訳ありません。どうも会話が上手くいかず」
「難しいもんじゃのう。精霊って神様と魔物の間じゃったっけ? 神様とも魔物とも、今まで何度も会話してきとるのに――」

 言ってる途中で、ふと思い出した。
 レーコもまったく同じことに思い至ったらしい。

「そういえば先日、魔物から神の位置に鞍替えした水魔に会いましたね。あれは鞍替えの途中、精霊だった時期もあったんでしょうか」
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